【第76話:目覚めの重さの中で】
同じはずの朝なのに、
なぜか今日は身体も心も重たい――
双極性障害ならではの、静かな“気分の波”と
自分を受け止める朝を描きました。
【第5章】心のひかりをたしかめて(36話目)
薄明るい朝の気配が、カーテンの隙間から静かに部屋へ流れ込んできた。
るなは毛布に包まれたまま、しばらく身動きが取れなかった。
昨日までと同じ寝室、同じ朝のはずなのに、
今日はなぜか、身体が鉛のように重たかった。
呼吸をするだけでも少し胸の奥が痛くて、
目を開けて天井を見上げることさえ、
何か大きな壁に阻まれているように感じる。
理由もなく、ただ「動けない」という感覚が、
心にも身体にも広がっていた。
カーテン越しの光が、今日はやけにまぶしい。
いつもなら朝の光が「新しい一日」を知らせてくれるのに、
今朝はその明るさが、
かえって目を背けたくなるような圧迫感に思えた。
寝返りを打つと、毛布の中のぬくもりだけが心地よい。
「どうして今日は、何もできないんだろう」
そんな小さな自己嫌悪が胸の奥でざわつく。
遠くから、キッチンで彼が朝食の支度をする音が聞こえる。
食器の触れ合う音、水道の流れる音。
「そろそろ起きて大丈夫ですよ」と、やわらかな声が廊下の向こうから響いた。
るなは返事をしようとしたけれど、
声が喉の奥に引っかかって出てこない。
「また返せなかった……」
そんな自分にも、また新しい重さがのしかかる。
何度も「起きなきゃ」と思うけれど、
心と身体がバラバラのようで、
まるで、どこにも居場所が見つからない感覚。
時間だけが静かに流れていく。
毛布の端を握りしめ、
布団の中で小さく身体を丸める。
手のひらに伝わる柔らかな感触だけが、
今の自分を現実に繋ぎとめていた。
頭の中には、「また何もできないまま一日が始まってしまう」という焦りと、
「せめて起きて顔を洗わなきゃ」という無理な励ましが交互に浮かんでは消える。
それでも体はまるで他人のものみたいに、
思うように動かない。
窓の外では、どこかで小鳥がさえずり始めていた。
本当なら「今日も始まるよ」という希望の音に感じられたはずなのに、
今朝のるなには、
その明るさがほんの少しだけ遠くに思えた。
カーテン越しの光と、
遠くで聞こえる彼の優しい声。
そのどちらもが「現実」なのに、
どうして今日は、ただ受け入れることが難しいのだろう。
少しだけ涙がにじみそうになる。
何も悪いことをしていないのに、
自分を責めてしまう朝――
そんな自分をどうしようもなく抱きしめるしかない。
毛布の端をぎゅっと握りながら、
るなは深く息を吐いた。
ほんの少しでも、この重さがやわらぐ瞬間が来ることを、
祈るような気持ちで、静かに朝の時間に身を預けていた。
何もしていないのに、
どうしようもなく自分を責めてしまう日があります。
それでも、重さを抱えたまま朝を迎えることが
明日への小さな一歩になると信じて――
次回も0:00更新でお届けします。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




