【第72話:夜の灯りの中で】
夜の灯りに包まれて、
静かに流れる夕食の時間。
今日は、やさしいごはんと、
当たり前の日常のぬくもりを描きました。
【第5章】心のひかりをたしかめて(32話目)
夕焼けの余韻が部屋の隅にまだ残っている。
リビングには柔らかな灯りが灯り、
外の世界はすっかり夜の色に包まれていた。
るなはソファの上で、
膝にブランケットをかけたまま、
静かに窓の方を見つめていた。
窓越しには、遠くの家々の灯りがぽつぽつとともり、
街全体がどこか静かに息をひそめているように見える。
彼がキッチンで夕食の準備をしている音が、
規則正しく部屋に響く。
包丁のリズムや、お湯が沸く音、
食器がやさしく重なる音――
それらが不思議と心を落ち着かせてくれた。
るなはそっと身体を丸め、
少し背中をソファに沈めた。
昼間の光では見えなかった家具の影が、
今は柔らかなランプの下で、
いつもより輪郭をあいまいにしている。
「もうすぐご飯ができあがりますよ」
彼が穏やかな声で知らせてくれる。
るなは「ありがとうございます」と返し、
そっと小さく微笑んだ。
食卓の上には、湯気の立つスープと、
オリーブオイルで炒めた季節の野菜のソテー、
そして色とりどりの小さなサラダが並ぶ。
焼きたてのパンは添え物として一切れだけ、
今日は野菜とスープが主役だった。
るなは席につき、
カトラリーを手に取った。
まずスープを口に運ぶと、
やさしい温度と香りが広がり、
少し強張っていた心と身体がふっと和らぐ。
シャキシャキとした野菜の歯ごたえ、
みずみずしいトマトや柔らかなレタスの味が、
一日の終わりに新しい息を吹き込んでくれるようだった。
窓の外には、夜風に揺れる木々の影が見える。
遠くで犬が鳴き、
どこかの家からはテレビの音も聞こえてくる。
世界は確かに動いている――
それでも今は、この静かな夜の空気の中に
自分がいることだけを感じていた。
「今日も一日、お疲れさまでした」
彼がそう言って、
やわらかな灯りの下でグラスを傾ける。
るなは心の中で「今日もありがとう」とつぶやきながら、
一日の終わりをゆっくりと味わっていた。
何気ない夜、
けれど、その“当たり前”がいちばんの安心なのだと、
るなは改めて思っていた。
大きなできごとはなくても、
やわらかな食卓や夜の静けさが、
一日の終わりにそっと心を癒してくれる気がします。
明日もまた、0:00に静かな物語をお届けします。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




