【第68話:目覚めたあとの午後】
まどろみから目覚めた午後、
やわらかな光と静かな空気に包まれるひととき。
今日は、何もせずに心も体も休める、
そんなやさしい午後の時間を描きました。
【第5章】心のひかりをたしかめて(28話目)
ほんの短い眠りから目を覚ますと、
部屋の中はすこし傾いた午後の日差しに包まれていた。
るなはブランケットにくるまったまま、しばらく静かに天井を見上げていた。
まどろみの余韻が、まだ身体の奥に残っている。
窓の外からは風の音が聞こえ、木々が揺れる影がカーテンにうっすら映っていた。
部屋の隅では、彼が静かに何かを片付けているようだった。
ゆっくりと上半身を起こし、
ブランケットを膝にかけなおす。
深く息を吸い込むと、
午後の光とともに、ハーブティーのやさしい香りがふわりと漂ってきた。
「お目覚めですね、お嬢様」
彼がキッチンから顔をのぞかせ、
「お疲れが取れましたか」と微笑む。
るなは少しだけ首を傾げて、「……まだ、ぽやっとしています」と小さな声で返す。
彼の声に安心して、るなはゆっくりまばたきを繰り返す。
まどろみの向こう側にいた自分が、少しずつ現実の午後へと戻っていくのを感じていた。
「新しいお茶をお持ちしましょうか?」
「……お願いします」
素直にそう伝えると、彼はうなずいて新しいカップを用意し始めた。
しばらくして、あたたかいお茶がテーブルに置かれる。
カップを両手で包むと、
その熱と香りがじんわりと手のひらから広がって、
少しずつ身体と心が目覚めていくようだった。
カップの湯気がほほをくすぐり、
静かな午後の空気と溶けあっていく。
まだ眠気は残っているけれど、
どこか体の芯が少し軽くなった気もした。
外では雲がゆっくりと流れ、
庭の草花が静かに風に揺れている。
遠くから、子どもたちの遊ぶ声や、鳥のさえずりがかすかに聞こえてきた。
家の中にも、時おり柱時計の音や、
彼がキッチンで食器を片付ける控えめな音がやさしく響いている。
るなはひと口だけお茶を飲み、
「もう少し、ここでゆっくりしていてもいいですか」とぽつりとつぶやく。
「もちろんです」
彼の静かな返事に、るなはそっと微笑んだ。
ひざの上のブランケットをそっと握り、
午後の光に目を細める。
何も特別なことのない、穏やかな午後――
それでも、そんな時間が今は一番ありがたく感じられる。
「こんなふうに、何もせずにいられる時間が、
今はとても幸せに思えます」
るなは心の中で、そっと呟いた。
深く息を吐いて、
しばらくそのまま、心も体も午後の光に預けていた。
どこにも急がなくていい午後、
ただ、温かいお茶と静かな部屋が心を癒してくれる。
何も特別なことはなくても、
「こうして休める時間」が一番の幸せだと思える日があります。
明日もまた、静かな灯火を0:00にお届けします。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




