【第63話:午前の光に包まれて】
朝食を終えた後の、静かな午前の時間。
少しずつ自分でできることを増やしていくるなの一歩と、
穏やかな光に包まれる日常を描きました。
【第5章】心のひかりをたしかめて(23話目)
朝食を終えると、るなはゆっくりと椅子から立ち上がった。
テーブルの上には、使い終わったカップと皿、
そしてまだ香りの残るハーブティーのカップが置かれている。
窓の外からは、少しずつ強くなっていく朝の光が差し込み、
部屋の奥までやさしく照らしていた。
食器をキッチンに運ぶと、
彼が「お手伝いします」と声をかけてくれる。
「ありがとうございます、でも今日は自分でやってみたいです」
そう言って、るなは小さく微笑んだ。
最近は少しずつ「自分でできること」を増やしたい、
そんな気持ちが芽生えはじめていた。
蛇口をひねると、流れ出す水音が部屋に心地よく響く。
お皿に触れる冷たい水の感触、
スポンジでなぞるたびに立ちのぼる泡の香り。
静かな午前のキッチンに、
生活の音と匂いが穏やかに溶け込んでいく。
窓の外からは、小鳥のさえずりや、
遠くの道路を走る車の音も聞こえてきた。
朝露に濡れた庭の草花がきらきらと輝いているのが、
カーテン越しにちらりと見えた。
ふと、日差しに照らされた花びらに目を留めると、
その鮮やかさや儚さが胸にじんわりと沁みてくる。
「今日もきっと大丈夫」――
そんなふうに、ふと思えた。
食器を片付け終えると、
るなはふうっと息を吐き、
手をタオルで拭きながらリビングのソファへと戻った。
クッションを抱え、ゆっくりと体を沈める。
「無理をしすぎず、でも少しだけ前へ」
今はそれだけで十分だと思える。
リビングにはやわらかな光が満ちていて、
壁にかかった時計の針が静かに時を刻んでいる。
彼は書斎で朝の用事を片付けているようだった。
るなは窓の外を眺めながら、
新しい本をそっと開く。
ページをめくるたび、
紙の手ざわりとインクのにおいがほんのりと立ち上る。
文字を追ううちに、
心の奥に残っていた朝の不安や重さも、
すこしずつ溶けていく気がした。
本のページをめくる音、
遠くで聞こえる生活の音、
そのすべてが心地よく、
「今日という一日」をやさしく包んでくれる。
窓辺には朝の光がいっそう強くなり、
そよ風がカーテンをふわりと揺らした。
るなは目を閉じて、
静かな午前のひとときを胸いっぱいに感じていた。
しばらくして、
遠くで彼が「何か飲み物をお持ちしましょうか」と声をかけてくれた。
「……お願いします」とるなは答える。
そんな小さなやりとりも、今の彼女にとっては確かなぬくもりだった。
小さな家事や読書のひとときも、
静かな安心や心の回復につながるのだと思います。
今日も、ご一緒に歩んでくださりありがとうございます。
明日も0:00更新でお届けします。




