【第61話:夜明けの気配の中で】
夜明けの静かな時間。
朝の気配とともに、少しずつ心も目覚めていく。
今日も、小さな一歩を大切に描きました。
【第5章】心のひかりをたしかめて(21話目)
まだ外は暗く、
カーテンの隙間からわずかに朝の気配が忍び込んでいる。
るなは、静かな寝室のベッドの中で目を覚ました。
一度深い眠りについたはずなのに、
早朝のやわらかな空気が、そっと体を包み込んでいる。
枕元には、昨夜のままの毛布と、
テーブルの上には読みかけの本と小さなランプ。
外はまだ静かで、遠くで鳥が一声だけ鳴いた。
しばらく布団の中で目を閉じたまま、
るなは自分の呼吸の音と心臓の鼓動に耳を澄ます。
眠りの余韻がまだ体に残っていて、
まぶたを開けても頭はぼんやりとしていた。
心の奥には小さな不安や重さもあるけれど、
それでも、今朝は“昨日よりほんの少しだけ軽い”ような気がした。
少しずつ体を起こし、
毛布を肩から外す。
冷たい空気が腕を撫で、
シーツの感触やパジャマのやわらかさをはっきりと感じる。
この一連の動作も、調子の悪い日にはとても重たく感じていた。
けれど今朝は、ほんの少しだけ、
「ちゃんと起きられそうだ」と自分を励ます気持ちがあった。
ゆっくりと起き上がると、
まだ冷たい床の感触が足裏に伝わった。
カーテンを少し開けて外を見ると、
空は藍色から淡いグレーに変わりはじめている。
夜と朝のあわい――
その静かな時間が、るなにとっては大切な「区切り」だった。
ベッド脇のランプを消し、
ゆっくり寝室を出てリビングに向かう。
廊下にはまだ薄暗さが残っていて、
歩くたびに足音がやわらかく響く。
キッチンの方からは、
彼が朝食の支度をしている音がかすかに聞こえてきた。
お湯がわく音、食器が重なる音、
そんな日常の小さな音が、るなの背中をそっと押してくれる。
「おはようございます、お嬢様」
彼が振り返り、やさしい声で挨拶してくれる。
「……おはようございます」
るなも静かに答える。
朝の光が少しずつ窓辺を照らしはじめ、
部屋の中にも新しい一日が流れ込んでくる。
るなはテーブルにつき、
「今日もまた、ここから始められる」と小さく息を吐いた。
冷たい水をひと口飲むと、
身体の中にゆっくりと目覚めが広がっていく。
不安や戸惑いもあるけれど、
こうして夜が明けて、今日という日が始まる。
その事実だけで、心に灯火がともるような気がした。
新しい一日が始まること自体が、時に大きな勇気になるのかもしれません。
静かな朝の空気が、少しでも心の支えとなりますように。
明日も0:00更新でお届けします。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




