【第60話:夜のリビングにて】
一日の終わり、
静かな部屋で味わう夜のやすらぎ。
今日もまた、るなの心に灯る小さな安心を描きました。
【第5章】心のひかりをたしかめて(20話目)
リビングの灯りが、夜の静けさを優しく照らしていた。
カーテンの外には、もう夕焼けの名残はなく、
窓越しの空は深い藍色へと変わっていく。
るなはソファの上で毛布にくるまり、
ゆっくりと息を吐いた。
さっきまで感じていた夕方の余韻が、
今は静かな夜の予感に姿を変えていく。
部屋の片隅には、彼が用意してくれた新しいハーブティーのカップ。
淡い湯気がふんわりと立ちのぼり、
そのやさしい香りが、るなの心と体をじんわりとほどいていく。
「お夜食はいかがですか?」
彼がリビングのドアのところから声をかけてくれる。
るなは毛布の中から顔を出し、
「今日は大丈夫です」と静かに微笑む。
「何かあれば、いつでもお呼びください」
彼はそう言って、やわらかなまなざしで見守ってくれていた。
ソファに身を沈めると、
部屋の中にはオレンジ色のランプの明かりと、
時折、時計の秒針が進む音だけが静かに響く。
るなはカップを両手で包み、
少しずつハーブティーを口に含んだ。
その温かさが体の芯までゆっくりと広がっていく。
ほんのり甘い後味と、ほのかな花の香り。
一日の終わり、こうしてゆっくりと味わうだけで、
心がふっとやわらかくなる気がした。
窓の外を見やると、
遠くの家々にも小さな明かりが灯っている。
その光を見ていると、不思議と「みんなもどこかで静かな夜を過ごしているのかもしれない」と
思えてきて、ほんのりと心が温かくなった。
外からは微かに車の音や、
ときおり犬の遠吠えが聞こえる。
それでもこの部屋の中は穏やかで、
安心できる空間がちゃんとここにあると思えた。
るなは膝を抱えたまま、ゆっくりとまぶたを閉じる。
部屋の奥では、彼が静かにカップを片付ける音が微かに響いている。
誰かの気配が遠くにあるだけで、
夜の孤独もやわらぐ気がした。
一日の終わり、
「今日も何事もなく過ごせてよかった」
そんなささやかな安堵が胸に残る。
何もなかった一日でも、
こうして温かい部屋で夜を迎えられるだけで、
それだけで十分なのかもしれない――
るなはもう一度深く息を吐き、
「おやすみなさい」と小さくつぶやいた。
その声は灯りの中で静かに溶け、
新しい夜へとやさしく紡がれていった。
夜の静けさや、やさしい灯り、温かな飲みもの――
何もないような日でも、
そうしたひとときが心の支えになるのだと思います。
明日も0:00更新でお届けします。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




