【第56話:昼下がりの風に包まれて】
昼下がりのやわらかな風や、
部屋に差し込む光、静かな家の音――
今日もそんな日常の中で、るなの心の揺れと穏やかさを描きました。
【第5章】心のひかりをたしかめて(16話目)
午前の静けさが過ぎ、昼前になると、
窓の外の光がいっそう強くなった。
るなは窓辺からゆっくり立ち上がり、
リビングのソファに腰を下ろした。
ほんの少しだけ、身体が重たく感じる。
けれど、膝の上の毛布やクッションが、
その重さをそっと受け止めてくれるようだった。
「お昼のご用意をいたしますね」
彼の声が、キッチンの方からやさしく響く。
るなは「ありがとうございます」と静かに返事をし、
クッションの感触を確かめながら、ぼんやりと天井を見上げた。
時計の針が静かに進む音、
どこか遠くから聞こえる子どもの声、
家の中には、ゆるやかな昼の気配が流れていた。
時折、遠くで鳥の声が聞こえ、
窓越しに外の風がカーテンを揺らす。
季節がまたひとつ進んだことを、
その風の匂いや光の色で感じる。
ダイニングテーブルには、
色とりどりの野菜が添えられたサンドイッチと、
温かいスープが並べられていた。
彼が椅子を引いてくれ、
るなは少し緊張しながらも、そっと席に着く。
食卓に置かれたグラスの水が、窓からの光を受けてきらきらと輝いていた。
「食欲はいかがですか?」
「……今日は、ちょっと控えめに」
そう言って、サンドイッチを小さく口に運ぶ。
野菜のしゃきしゃきとした歯ざわりと、
パンのやさしい甘さが口の中に広がる。
スープを一口すすると、
体の奥からじんわりと温かさが満ちていく気がした。
普段はあまり食べられない時もあるけれど、
今日はこの昼の静けさが、不思議と心にも余裕をくれた。
「午後は、少し休まれますか?
それとも、読書でもされますか」
彼の問いかけに、るなは少し迷いながら、
「……もう少しだけ、このままゆっくりしていたいです」
と、小さく答えた。
食事を終え、食器を片付けてくれる彼の背中を、
るなはしばらく静かに見つめていた。
窓の外では、風に揺れる木々の葉がきらきらと光り、
昼下がりの陽射しが部屋の奥まで差し込んでいる。
ふと、床に落ちた葉の影がゆっくりと揺れているのに気づく。
家の中にいるのに、自然のリズムとつながっているような気持ちになった。
「今日は、いいお天気ですね」
そうつぶやくと、
「ええ、本当に穏やかな午後ですね」
と、彼がほほえむ。
ゆっくりと流れる昼下がりの時間。
るなはもう一度深呼吸をして、
心の奥に、やさしい風が吹き抜けるのを感じていた。
ふとした季節の変化や、やさしい空気に包まれることで、
心が少しずつほどけていく気がします。
明日もまた、静かな午後を大切に過ごせますように。
次回も0:00に更新します。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




