【第55話:窓辺に差し込む光】
朝のやわらかな光と静かな時間。
予定のない午前が、るなにとっては新しい一歩になることも。
心の小さな揺れと、穏やかな日常を今日も描きました。
【第5章】心のひかりをたしかめて(15話目)
朝の紅茶を飲み終えたあと、
るなはゆっくりとカップをテーブルに戻した。
窓の外では、すでに太陽が高く昇りはじめ、
カーテン越しにやわらかな光が差し込んでいる。
その光が、テーブルやソファ、床の上に薄く影をつくり、
部屋の空気をほんのり明るくしていた。
るなはしばらく、窓辺に腰をかけて外を眺めた。
庭の木々が朝の風に揺れている。
花壇の花も、昨日より少し背が伸びたように見えた。
鳥たちのさえずりや、遠くを走る車の音が、窓越しに小さく届いてくる。
るなは小さく深呼吸をして、
自分の中に、まだ静かな余韻が残っていることを感じる。
胸の奥には、昨日までの不安と、今の静けさが、ゆっくりと混ざり合っていた。
「お嬢様、朝食のご用意ができております」
彼の声が、廊下から静かに響いた。
るなは「すぐに行きます」と返事をして、
そっと椅子から立ち上がる。
ダイニングには、あたたかいトーストと、
卵料理、フルーツの入った小さな皿が並んでいた。
彼は静かに椅子を引いて、るなを迎える。
「食欲はございますか?」
「……はい。少しだけなら」
るなは控えめに答え、トーストに手を伸ばす。
サクッとした焼きたての香りと、
ほのかに漂うバターの香りが、るなの食欲を少しだけ引き出してくれる。
「今日も特に予定はありませんので、
ご無理なさらず、お過ごしください」
「……ありがとうございます」
彼のやさしい声に、るなは小さくうなずいた。
朝食を終えたあと、
彼は静かに食器を片付け始める。
るなはその後ろ姿をぼんやり眺めながら、
「手伝いましょうか」と声をかける。
「お気持ちだけで十分です。どうぞ、おくつろぎください」
彼はそう返し、やわらかく微笑んだ。
食器の重なる音、
洗い終えた皿が丁寧に拭かれていく音、
そして窓から流れ込む新しい空気。
少しずつ、家の中が目覚めていく。
るなは指先でカーテンの端をそっとなぞる。
外の光に包まれて、ふと「今日は何をしよう」と小さく考える。
予定のない午前、それだけで少し不安もあるけれど、
「今はこの静けさを味わってもいい」と自分に言い聞かせる。
もう一度、窓辺の椅子に戻り、
外の光にそっと手を伸ばした。
その手のひらに、朝のやわらかな日差しが静かに降り注いでいた。
その小さな温かさが、るなの胸の奥に静かに灯っていく気がした。
やさしい朝の空気や日常の音――
それだけで心が少しほぐれる瞬間があるのだと思います。
今日も静かな一日を大切に過ごせますように。
次回も0:00に更新します。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




