【第54話:静かな朝のはじまり】
夜の静けさがやわらかく消えていく朝。
目覚めの小さな不安や、そっと差し出された温もり――
今日は、新しい一日の始まりと、そのやさしい一歩を描きました。
【第5章】心のひかりをたしかめて(14話目)
朝、るなはまだ薄暗い部屋の中で目を覚ました。
カーテンの隙間からは、ごくわずかな光が差し込んでいる。
体の奥に、昨日までの余韻がふんわりと残っていた。
ソファでうたた寝をしていたせいか、毛布のぬくもりがまだ指先にまとわりついている。
窓の外では、鳥が一羽、静かに鳴き始めた。
るなはゆっくりと上体を起こし、膝の上に毛布をたたむ。
ほんの少しの眠気とだるさを感じつつも、
「今日もまた始まるんだな」と、
小さく心の中でつぶやいた。
リビングには、まだ誰の気配もない。
昨夜のハーブティーのカップがそのままテーブルに残っていて、
ランプの灯りだけが、ぼんやりとした光を落としている。
るなはカーテンを少しだけ開けてみる。
冷たい朝の空気が部屋の中に入り込み、
肌をひやりと撫でていった。
「おはようございます、お嬢様」
廊下から、彼の静かな声が聞こえてくる。
るなは思わず、毛布をぎゅっと抱きしめた。
「おはようございます」
少しだけ声が震えてしまうけれど、
彼はそれに気づいた様子で、やわらかい微笑みを返す。
「今朝は冷えますね。温かい紅茶をお淹れします」
彼がそう言ってキッチンへ向かう音が、
家の中にやさしく響いていく。
るなはゆっくりと椅子に座りなおし、
窓の外の明るくなりかけた空を眺める。
遠くで車が走る音、どこかで新聞を取りに出る足音、
日常のはじまりが、少しずつ家の中に満ちていく。
まもなくして、紅茶の香りが部屋いっぱいに広がった。
「お待たせいたしました」
カップを手渡され、るなは両手で包み込む。
温かな紅茶の熱が、指先から少しずつ心まで染みていく。
「昨日は、よく眠れましたか?」
彼がそう尋ねる。
るなは、少し考えてから「はい。たぶん、ゆっくり眠れました」と返す。
「それは何よりです。無理はなさらず、今日もゆっくり過ごしてください」
やさしい声に、るなは思わず目を伏せた。
「……ありがとうございます」
カップの底に映る、淡い朝の光。
心のどこかで、また一歩前に進んでみようと思えた。
「今日も、少しずつ。無理せず――」
そう心の中で唱えながら、るなは小さく息をついた。
心がまだ起ききれない朝も、
誰かのやさしさや静かな日常に支えられて、
少しずつ動き出せるのだと思います。
明日もまた、0:00更新でお届けします。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




