【第53話:静かな夜の灯】
夕方の庭から、夜の静かなリビングへ。
今日は、家のぬくもりと、るなの心の灯りを静かに描きました。
小さな安心と余韻が伝わりますように。
【第5章】心のひかりをたしかめて(13話目)
家の中に戻ると、るなはそっとソファに腰かけた。
外の冷たい空気がまだ少しだけ体に残っていて、
カップの中の紅茶が静かに湯気を立てていた。
窓の外はすっかり暗くなり、
庭の花も影だけがぼんやりと浮かんでいる。
昼間のやわらかい光が嘘のように、
夜の空気はしんと静まりかえっていた。
るなは毛布を膝にかけ、
カップを両手で包み込む。
紅茶のあたたかさが、少しずつ指先にしみこんでいく。
背中にはふかふかのクッション。
ソファのやわらかい感触が、心も体も少しほぐしてくれる。
「お嬢様、お夜食に何かお持ちしましょうか」
執事がやさしい声で問いかける。
るなは少し考えたあと、「……お腹は空いていないので、今日は大丈夫です」と微笑んだ。
彼は「何かあればいつでもお呼びください」と言って、
るなのそばに新しい毛布をそっと置いてくれる。
ふと見ると、テーブルの上には温かいハーブティーと小さなビスケットが用意されていた。
「冷えてしまいますので、どうぞご無理なさらず」と、
彼はほんの少しだけ頭を下げて、静かにリビングを後にする。
夜のリビングは、オレンジ色のランプの灯りだけが小さく揺れている。
その光をぼんやりと眺めながら、
るなは今日一日を思い返していた。
外に出てみて、
夕方の光や風を感じて、
自分の足で庭を歩いたこと。
ほんのわずかな出来事なのに、
心のどこかに小さな灯りがともった気がした。
部屋の隅では時計の針が静かに進み、
どこか遠くからラジオの音楽が微かに流れてくる。
ふいに、るなは「こんな夜も悪くないな」と心の中でつぶやいた。
明日はどんな日になるだろう。
また外の光に触れられるだろうか。
少しだけ不安もあるけれど、
「今日が終わる」という事実が、
るなには何よりの安心になっていた。
カップの紅茶を飲み干してから、
るなはゆっくりと立ち上がる。
窓のカーテンをそっと引き寄せて閉めると、
外の静けさが、今度は家の中のぬくもりを際立たせてくれた。
「おやすみなさい」と、るなは小さな声でつぶやき、
ランプの灯りの下で、今日一日をそっと胸にしまう。
一日を無事に終えられること、それ自体が小さな奇跡なのかもしれません。
今日もここまで読んでくださって、ありがとうございます。
次回も0:00更新でお届けします。
静かな夜が、あなたにもやさしくありますように。




