【第49話:小さな外への一歩】
玄関を開けて、一歩だけ外へ。
それだけのことで、心がふわりと揺れ動くことがあります。
今日は、そんな小さな冒険を描きました。
【第5章】心のひかりをたしかめて(9話目)
午後の風が静かに部屋を抜けていく。
窓を開けて外の空気を吸い込んだあとは、
るなはしばらくソファに身を預けていた。
胸の奥のもやもやは完全に晴れないけれど、
昨日よりも少しだけ、心が軽い。
カーテンが風に揺れる音や、
遠くで響く車の音、小さな鳥のさえずりを聞きながら、
「今の自分でもできること」を考えてみる。
しばらくして、彼が静かにキッチンからやってきた。
テーブルに新しいお茶をそっと置き、るなにやさしく声をかける。
「もし、気分がよろしければ、少し外へ出てみませんか?」
突然の提案に、るなは少し驚いた。
遠くまで行く必要はありません、と彼は微笑む。
「お庭や門のあたりまででも、気分転換になると思います」
「……ほんの少しだけ、外に出てみるのもいいかもしれません」
自分の口からその言葉が出たことに、るなは内心で驚いた。
でも、彼がそっと寄り添ってくれることが、
るなにとって大きな安心感になっている。
彼はるなのカーディガンをクロークから持ってきて、
「寒くないように羽織ってください」と静かに差し出す。
袖を通す手が少しだけ震えるけれど、
窓から差し込む光が、るなの背中をそっと押してくれる気がした。
「ご準備ができましたら、玄関でお待ちしております」
彼はそう言って、ゆっくりと玄関ホールへ向かう。
るなはカーディガンの襟元をそっと握りしめ、
小さく深呼吸をひとつ。
廊下を歩き、磨かれた玄関のドアをそっと開けると、
外の光と風が、ふわりと体を包み込んだ。
庭に一歩踏み出すと、
足元の石畳がほのかに陽射しで温まっていて、
淡い花の香りや草木の青さが鼻先をくすぐる。
門の向こうには、春の空気が静かに広がっている。
「大丈夫ですよ、お嬢様」
そばにいる彼の声が、るなを静かに支える。
執事と二人きりの庭の時間は、幼い頃から変わらず、
その静けさがどこか懐かしくもあった。
ほんのわずかな距離でも、
今日の自分にはそれが“大きな一歩”だった。
玄関から外へ――
新しい世界への、小さな扉が開いた気がしていた。
どんなに小さな一歩でも、それは新しい世界への扉。
自分を少しだけ信じてみることで、明日もまた進める気がします。
次回も0:00更新でお届けします。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




