【第48話:窓を開けてみる】
外の空気を感じるだけで、
心がふっと軽くなることがあります。
ほんの少しの勇気が、日々の中に新しい光を差し込んでくれる。
今日はそんな「小さな冒険」を描きました。
【第5章】心のひかりをたしかめて(8話目)
午後になり、部屋には少し強い光が差し込んでいた。
朝のうちに花瓶の水を替えてから、るなはソファに座って本を手に取ったものの、どうしても文字が頭に入ってこなかった。
ページをめくる手が止まるたび、カーテンの向こうから風の音がかすかに聞こえてくる。
「……少し、空気を入れようかな」
そう思い立ち、るなはゆっくりと窓の方へ歩いた。
カーテンをそっと開くと、窓の外は淡い青空。
どこか遠くで子どもたちの声や、通りを走る車の音が混じっている。
窓の取っ手に手をかけ、ゆっくりと開けると、やわらかな風が部屋に流れ込んできた。
その風には、ほんのりと初夏の匂いが混ざっていた。
「気持ちいい……」
思わず、るなは小さく呟いた。
ここしばらくは、ずっと部屋の中で過ごしていたことに改めて気づく。
こうして外の空気を感じるのは、久しぶりだった。
しばらく窓辺に立ったまま、風や光を感じていた。
時折、鳥が飛んでいく影がガラスに映る。
近くの木々の葉がそよぐ音や、アスファルトを歩く足音が、遠くから微かに届く。
るなはそっと目を閉じて、胸いっぱいに新しい空気を吸い込む。
深呼吸をすると、体の奥にこもっていた重さが、ほんの少し和らいでいくのを感じた。
窓辺にそっと手を置き、指先でガラスの冷たさを確かめてみる。
「何かお飲み物をお持ちしましょうか?」
後ろから彼の声が静かに響いた。
「……うん、ありがとう。冷たいお茶を、お願いできますか」
自分から頼みごとを口にできたのは、ずいぶん久しぶりだった。
やがてテーブルに置かれたグラスの水滴が、窓から差し込む光で輝いている。
るなはグラスを手に取り、ゆっくりと口元に運んだ。
冷たいお茶の香りが、さわやかに喉を潤してくれる。
「窓を開けてみたんですね」
「……ええ。なんだか、少し気分が変わる気がして」
彼のやさしい眼差しが、るなにそっと寄り添う。
「外の空気は、やっぱりいいものですね」
「うん。……また明日も、開けてみたいな」
そんな言葉が自然と出てくる。
たったそれだけのこと。
でも、今日の自分には十分な“小さな冒険”だった。
午後の光のなかで、るなは新しい一歩をまた踏み出せたような気がしていた。
それだけのことが、こんなにも心に響く日もあります。
一歩一歩、ゆっくりと。
明日もまた、小さな変化を見つけていけますように。
次回も0:00更新でお待ちしています。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。




