【第47話:小さな一歩に気づく日】
何気ない朝の時間にも、小さな“できたこと”が隠れている。
ほんの少しの変化でも、その一歩を認めてあげることで、
心がゆっくりとほどけていく気がします。
今日は、そんなささやかな気づきの瞬間を描きます。
【第5章】心のひかりをたしかめて(7話目)
朝食を終えたあと、るなはしばらくダイニングに座ったまま、外の景色をぼんやりと眺めていた。
カーテン越しの光がテーブルに模様を描き、紅茶の香りがまだ淡く部屋に残っている。
食事の余韻に身を任せていると、遠くで小鳥のさえずりが聞こえてきた。
「今日は、何かご予定はございますか?」
彼が静かに声をかける。
「……いいえ、特には」
るなはゆっくり首を振る。
予定がなくても、それを責めるような気配はどこにもなかった。
ただ、彼は軽くうなずいて微笑む。
「無理をなさらず、ゆっくりお過ごしください」
そのやさしい言葉が、じんわりと胸に広がる。
一息ついたあと、るなはそっと椅子から立ち上がる。
特にやることは思いつかないけれど、身体を少し動かしてみたかった。
窓辺の花瓶が目にとまり、花の水が減っていることに気がつく。
「……お水、替えてあげようかな」
小さく呟いて、キッチンへと向かう。
花瓶をそっと持ち上げ、流しに運ぶ。
冷たい水を注ぎながら、ガラスの中で花がゆらゆらと揺れるのを見ていた。
何気ないその光景が、不思議と心を落ち着かせてくれる。
花瓶の水を替えていると、ふいに彼が廊下から顔をのぞかせた。
「お手伝いしましょうか?」
「大丈夫です、これくらいなら」
自分でも驚くほど自然に返事ができた。
花瓶を丁寧に拭き、窓辺に戻す。
窓の外では、空がゆっくりと明るさを増し、柔らかな光が部屋に満ちていく。
小鳥のさえずりや遠くの車の音が、生活のリズムを奏でている。
るなは、そんな音や光のなかで、自分の呼吸が穏やかになっていくのを感じていた。
「綺麗ですね」と彼がそっと声をかける。
その言葉に、るなは花に視線を移したまま、小さく微笑んだ。
「……昨日までは、気づかなかったんです」
自分の口から自然に言葉がこぼれたことに、少しだけ驚く。
「変化は目に見えにくいものです。でも、こうして動けたことが、とても素晴らしいと思います」
彼のまなざしが、やさしくるなを包み込む。
胸の奥で、小さな自信がほんのりと芽生えた気がした。
これだけのこと。
昨日までの自分には思い浮かばなかった“小さな行動”だった。
けれど、やってみると少しだけ気持ちが軽くなる。
ソファに戻り、窓辺の花を見つめながら、深呼吸をひとつ。
陽射しが頬を温かく照らし、るなはまた新しい一日に静かに向き合おうと思った。
昨日までの自分にはできなかったことも、
今日はそっと手を伸ばすことができた。
小さな一歩が、きっとこれからの日々の力になると信じて――。
次回も0:00更新でお届けします。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。




