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『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第5章】心のひかりをたしかめて
46/111

【第46話:ゆっくりと始まる朝】

前の晩に交わした小さな約束。

すぐに変われなくても、誰かと一緒に「朝」を迎えられるだけで、

ほんの少し自分を認めてあげたくなる。

今日は、そんな始まりの朝を描きます。

【第5章】心のひかりをたしかめて(6話目)


窓の外は、やわらかな朝の光に包まれていた。

るなは、目を開けてしばらく布団の中でぼんやりと天井を見つめていた。


昨日の夕暮れ――

「朝は、ゆっくり迎えましょう」

その言葉が、胸の奥でふんわりと温かく残っている。


身体はまだ重い。でも、今日は「起きなくちゃ」と無理に急かす気持ちは、どこかに消えていた。

静かな呼吸のリズムを感じながら、少しずつ手足を伸ばしていく。

布団の中で身体を丸めていたことに、今さら気づく。


扉の向こうから、静かなノックが聞こえた。

「お嬢様、朝食のご用意ができております」

彼の声は、今朝も変わらずやさしい。


返事をしようと口を開くが、最初は声にならなかった。

深呼吸をして、もう一度。

「……はい」

かすかに言葉が出る。

昨日までは返事をするのも難しかったのに、今朝は自然と口をついて出た。


ゆっくりと布団から抜け出し、足元にひんやりとした空気を感じながら立ち上がる。

カーテンを少しだけ開けると、窓の外の街並みが朝焼けに染まっているのが見えた。

遠くで鳥の声が聞こえ、時折、通りの車が静かに走り抜けていく。

新しい一日が、確かに始まろうとしていた。


洗面台に向かい、冷たい水で顔を洗う。

鏡の中の自分とそっと目が合う。

「今日は、昨日よりも自分を大事にできるかもしれない」

そんな思いが、胸の奥でかすかに灯る。


髪をとかし、パジャマのしわを軽く伸ばす。

昨日は気にも留めなかったことが、今日はほんの少しだけ丁寧にできた。

ゆっくりとドアを開け、ダイニングへ向かうと、

テーブルには温かい紅茶とパン、スープがきれいに並んでいた。


「おはようございます、お嬢様」

彼が静かに微笑んで出迎えてくれる。

その表情が、るなにはとてもありがたかった。


「……おはようございます」

るなは、はじめて少しだけ笑顔で返事をした。

朝の光がテーブルに差し込み、部屋の空気をやわらかく包み込む。


椅子に座ると、紅茶の香りがふんわりと鼻をくすぐった。

食卓の上に手を伸ばし、カップをそっと持ち上げる。

手のひらのぬくもりが、心にも少しずつ伝わってくる気がした。


「今日はゆっくり召し上がってください」

「……はい」


食べ始めると、最初はなかなか喉を通らなかったパンも、

紅茶のやさしい味に助けられて、少しずつ口に運べた。


朝の食卓に差し込む光の中で、

るなは自分の心が少しずつほどけていくのを感じていた。

まだ完全には晴れないけれど、

この「小さな朝」を大切にしようと思った。

昨日よりも、少しだけ自分を認められる朝。

ゆっくりと進む歩みの中で、

誰かと一緒にいられることのありがたさを感じます。

明日も0:00更新でお届けしますので、

引き続きそっと見守っていただけたら幸いです。

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