【第46話:ゆっくりと始まる朝】
前の晩に交わした小さな約束。
すぐに変われなくても、誰かと一緒に「朝」を迎えられるだけで、
ほんの少し自分を認めてあげたくなる。
今日は、そんな始まりの朝を描きます。
【第5章】心のひかりをたしかめて(6話目)
窓の外は、やわらかな朝の光に包まれていた。
るなは、目を開けてしばらく布団の中でぼんやりと天井を見つめていた。
昨日の夕暮れ――
「朝は、ゆっくり迎えましょう」
その言葉が、胸の奥でふんわりと温かく残っている。
身体はまだ重い。でも、今日は「起きなくちゃ」と無理に急かす気持ちは、どこかに消えていた。
静かな呼吸のリズムを感じながら、少しずつ手足を伸ばしていく。
布団の中で身体を丸めていたことに、今さら気づく。
扉の向こうから、静かなノックが聞こえた。
「お嬢様、朝食のご用意ができております」
彼の声は、今朝も変わらずやさしい。
返事をしようと口を開くが、最初は声にならなかった。
深呼吸をして、もう一度。
「……はい」
かすかに言葉が出る。
昨日までは返事をするのも難しかったのに、今朝は自然と口をついて出た。
ゆっくりと布団から抜け出し、足元にひんやりとした空気を感じながら立ち上がる。
カーテンを少しだけ開けると、窓の外の街並みが朝焼けに染まっているのが見えた。
遠くで鳥の声が聞こえ、時折、通りの車が静かに走り抜けていく。
新しい一日が、確かに始まろうとしていた。
洗面台に向かい、冷たい水で顔を洗う。
鏡の中の自分とそっと目が合う。
「今日は、昨日よりも自分を大事にできるかもしれない」
そんな思いが、胸の奥でかすかに灯る。
髪をとかし、パジャマのしわを軽く伸ばす。
昨日は気にも留めなかったことが、今日はほんの少しだけ丁寧にできた。
ゆっくりとドアを開け、ダイニングへ向かうと、
テーブルには温かい紅茶とパン、スープがきれいに並んでいた。
「おはようございます、お嬢様」
彼が静かに微笑んで出迎えてくれる。
その表情が、るなにはとてもありがたかった。
「……おはようございます」
るなは、はじめて少しだけ笑顔で返事をした。
朝の光がテーブルに差し込み、部屋の空気をやわらかく包み込む。
椅子に座ると、紅茶の香りがふんわりと鼻をくすぐった。
食卓の上に手を伸ばし、カップをそっと持ち上げる。
手のひらのぬくもりが、心にも少しずつ伝わってくる気がした。
「今日はゆっくり召し上がってください」
「……はい」
食べ始めると、最初はなかなか喉を通らなかったパンも、
紅茶のやさしい味に助けられて、少しずつ口に運べた。
朝の食卓に差し込む光の中で、
るなは自分の心が少しずつほどけていくのを感じていた。
まだ完全には晴れないけれど、
この「小さな朝」を大切にしようと思った。
昨日よりも、少しだけ自分を認められる朝。
ゆっくりと進む歩みの中で、
誰かと一緒にいられることのありがたさを感じます。
明日も0:00更新でお届けしますので、
引き続きそっと見守っていただけたら幸いです。




