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『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第5章】心のひかりをたしかめて
45/111

【第45話:夕暮れの窓辺で】

沈みがちな午後の時間。

それでも、誰かと静かに過ごすだけで、心の中にやわらかな灯がともることがあります。

今日は、そんな夕暮れのひとときを描きました。

【第5章】心のひかりをたしかめて(4話目)


カーテンの隙間から、夕方の光が部屋に伸びている。

昼下がりからずっと、るなはソファの端で静かに本を読んでいた。ページは思うように進まないけれど、指先が紙の感触を確かめるたび、わずかに気持ちが落ち着いていく。


今日は、いつもよりも心が重たい。

午前中に病院へ行ったばかりで、診察室の言葉が何度も頭の中で繰り返されていた。“双極性障害”という診断。その言葉が、これからの自分にどう影響するのか――まだ、よくわからない。


彼は、キッチンで静かに後片付けをしていた。

カップやお皿が重なる音が、小さく響く。そのたびに、「ここは大丈夫だよ」と背中を支えられているような気持ちになる。


「……何か、食べられそうですか?」


彼がそっと尋ねてきた。

るなは、すぐには返事をしなかった。胸の奥に重たいものが沈んでいる気がして、なかなか声にならなかった。


「……まだ、少しだけ……」


答えながら、顔を上げる。

テーブルの上には、彼が淹れてくれた紅茶が冷めずに残っていた。ゆっくりとカップを持ち上げ、口元まで運ぶ。温度はもうぬるくなっていたけれど、そのぬくもりが今は心地よい。


「無理はなさらず。お薬は、何か口にしてからの方が良いそうです」


彼は、るなの隣にそっと座った。

その距離が近すぎず、遠すぎないのがありがたかった。


「……私、やっぱり何も変わってないかも」


ぽつりとこぼすと、彼は静かにうなずいた。


「ええ。急に何かが変わることはありません。でも――こうして話せていることが、大切だと思います」


ふたりのあいだに、しばし静かな時間が流れた。

外では、鳥の声が遠くに聞こえる。窓の外の空は淡いオレンジ色に染まりはじめていた。


「明日も……ちゃんと起きられるといいな」


その言葉に、彼はゆっくりと視線を窓の外へ向けた。


「朝は、ゆっくり迎えましょう。お嬢様が目を覚ましたときに、また一緒に朝食を」


その約束が、るなには小さな灯りに思えた。


「……ありがとう」


るなは、ようやく小さな声でそう言った。

夕暮れの光のなかで、ふたりの影がそっと重なる。


明日がどんな日になるか、まだ分からない。

けれど――この部屋の灯りの中なら、また歩き出せる気がした。

焦らず、無理せず、ただ目の前の今日を重ねていく。

小さな約束と静かな時間が、るなの心にやさしく寄り添います。

次回も0:00に更新します。どうぞよろしくお願いします。

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