【第44話:昼下がりに流れる音】
静かな時間の中で、少しずつ心が整っていく感覚。
何気ない毎日の中で見つけた、ほんの少しの変化が、
きっと今後の支えになる。
その一歩を確かめるように描いた、今日の静かな時間をお届けします。
【第5章】心のひかりをたしかめて(4話目)
午前の光がカーテン越しに部屋へ差し込んでいる。
るなはベッドの上でぼんやりと天井を眺めていた。
今日はこれといって予定もない。
気持ちはまだ少し重たいままだったけれど、
朝、彼が静かに「お疲れ様でした」と声をかけてくれたことが、
胸の奥にじんわりと温かさを残していた。
ふと、テーブルの上にある空のカップが目に入る。
昨夜からそのままになっていたことに、今さら気がついた。
「……片付けないと」
そう呟いてカップを手に取る。
たったそれだけの動作なのに、体が少し重い。
それでも、水道の蛇口をひねり、カップをゆっくり洗いはじめた。
すると、廊下の方から掃除機の低い音が聞こえてきた。
彼が家中の掃除をしているのだろう。
毎朝同じ時間に聞こえる生活の音。
そのリズムが、家の空気をゆっくり整えてくれている気がした。
「お手伝いしましょうか?」
洗い物を終えたタイミングで、彼がキッチンに顔を出した。
「無理のない範囲でお願いします。お嬢様がしてくださると助かりますが、
何より、ご自分の体調を大切にしてください」
その言葉に、るなは少しだけ肩の力が抜けた。
「……はい」
小さく返事をして、食器を拭いて棚に戻す。
指先の動きはまだぎこちないけれど、
“こうしていてもいい”と少し思える自分がいる。
昼前になり、窓の外にはより強い光が差してきた。
ラジオからは静かなピアノの音楽が流れている。
ソファに座ってぼんやりとカーテンが揺れるのを眺める。
時間だけがゆっくり流れているようだった。
午後になったら何をしようか。
読みかけの本を少しだけ開いてみるけれど、
どうしても文字が頭に入ってこない。
それでも、本を閉じて膝の上に置き、
ゆっくりと深呼吸をした。
「……今は、これでいいんだよね」
るなはそっと目を閉じた。
窓から入る風が、ほのかに初夏の匂いを運んでくる。
昨日までは気づかなかった小さな音や、空気のやわらかさ。
何も変わっていないようでいて、
心の奥が少しずつほぐれていく。
そんな昼下がり――
静かに時が過ぎていくその中で、
るなはようやく、「自分の居場所」にもう一度触れられた気がした。
ゆっくりとした日々の中で、心の揺れが少しずつ落ち着いてきたように感じます。
こうした穏やかな時間が続くことで、
少しずつでも前向きに進めるのだと思います。
次回も、引き続き0:00更新でお届けしますので、
今後ともよろしくお願いいたします。




