【第43話:窓の外に、朝がある】
眠れない夜のあとに訪れる朝は、
心がまだ追いつかないこともあります。
でも、小さな変化や、そっと差し出された優しさが、
また一日を始めさせてくれるのかもしれません。
【第5章】心のひかりをたしかめて(3話目)
──目を閉じていても、どこか遠くで朝の気配がする。
るなは、布団の中で静かに目を覚ました。
昨日はなかなか眠れず、何度も寝返りを打ったせいで、身体が思うように起き上がらない。
窓の隙間から漏れる光が、部屋の空気を少しずつ白くしていく。
まだ少しだけ、まぶたが重い。
薬が効いているのか、ただ疲れが抜けきらないだけなのか、うまく判別がつかなかった。
それでも、「起きなくちゃ」と思う。
昨日、“ちゃんと自分で帰ってきた”こと。
彼の手で淹れてもらった紅茶の温度。
そして、眠る直前まで感じていた、確かな静けさ――
その全部が、ゆっくりと胸の奥で形になっている。
しばらくして、扉の向こうから、控えめなノックの音がした。
「お嬢様、朝食のご用意ができております」
静かな声。その響きに、るなは少しだけ心を落ち着けた。
返事をしようとしたけれど、声が出ない。
何も話せない朝もある。
それでも、彼は急かしたり、無理に起こしたりはしなかった。
やがて、ベッドサイドにそっと水の入ったグラスが置かれる。
彼は、何も言わず、ただるなの様子を一度だけ見て、静かに部屋を出ていった。
水をひと口。
冷たさが、まだ眠っている身体の奥まで届く。
少しだけ頭が冴えてきて、ようやく「今日」という時間がはじまった気がした。
布団から起き上がってカーテンを少しだけ開けると、
窓の外は、静かな朝焼けに染まっていた。
遠くの街並みが、ぼんやりと明るさに包まれている。
「……朝ですね」
そう、小さくつぶやく。
昨日までの自分なら、きっとこの静けさすら怖かっただろう。
でも今日は違う。
心の奥には、まだもやがかかったような重さが残っているけれど、
それでも、「ここにいてもいい」と思えるだけの余白が、少しだけあった。
ふとテーブルの上に目をやると、
昨夜飲みきれなかった紅茶のカップが、そのまま置かれていた。
もうすっかり冷めてしまったけれど、
それを見ているだけで、“昨日”がたしかにあったことを思い出す。
「……今日も、ちゃんと過ごせるかな」
誰にも聞こえないくらい小さな声。
でも、その言葉に、自分自身が少しだけ頷けた気がした。
新しい一日が、静かに始まろうとしている。
るなは、カーテンの隙間から射し込む光に、そっと手を伸ばした。
「大丈夫じゃなくても、始めていい」
そんな気持ちが、少しだけるなの背中を押してくれた朝でした。
静かな朝の光が、少しずつ彼女の心にも灯っていきますように。
次回も0:00更新でお届けします。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。




