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『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第5章】心のひかりをたしかめて
43/111

【第43話:窓の外に、朝がある】

眠れない夜のあとに訪れる朝は、

心がまだ追いつかないこともあります。

でも、小さな変化や、そっと差し出された優しさが、

また一日を始めさせてくれるのかもしれません。

【第5章】心のひかりをたしかめて(3話目)


──目を閉じていても、どこか遠くで朝の気配がする。


るなは、布団の中で静かに目を覚ました。

昨日はなかなか眠れず、何度も寝返りを打ったせいで、身体が思うように起き上がらない。

窓の隙間から漏れる光が、部屋の空気を少しずつ白くしていく。


まだ少しだけ、まぶたが重い。

薬が効いているのか、ただ疲れが抜けきらないだけなのか、うまく判別がつかなかった。


それでも、「起きなくちゃ」と思う。

昨日、“ちゃんと自分で帰ってきた”こと。

彼の手で淹れてもらった紅茶の温度。

そして、眠る直前まで感じていた、確かな静けさ――

その全部が、ゆっくりと胸の奥で形になっている。


しばらくして、扉の向こうから、控えめなノックの音がした。


「お嬢様、朝食のご用意ができております」


静かな声。その響きに、るなは少しだけ心を落ち着けた。

返事をしようとしたけれど、声が出ない。

何も話せない朝もある。

それでも、彼は急かしたり、無理に起こしたりはしなかった。


やがて、ベッドサイドにそっと水の入ったグラスが置かれる。

彼は、何も言わず、ただるなの様子を一度だけ見て、静かに部屋を出ていった。


水をひと口。

冷たさが、まだ眠っている身体の奥まで届く。

少しだけ頭が冴えてきて、ようやく「今日」という時間がはじまった気がした。


布団から起き上がってカーテンを少しだけ開けると、

窓の外は、静かな朝焼けに染まっていた。

遠くの街並みが、ぼんやりと明るさに包まれている。


「……朝ですね」


そう、小さくつぶやく。

昨日までの自分なら、きっとこの静けさすら怖かっただろう。

でも今日は違う。

心の奥には、まだもやがかかったような重さが残っているけれど、

それでも、「ここにいてもいい」と思えるだけの余白が、少しだけあった。


ふとテーブルの上に目をやると、

昨夜飲みきれなかった紅茶のカップが、そのまま置かれていた。

もうすっかり冷めてしまったけれど、

それを見ているだけで、“昨日”がたしかにあったことを思い出す。


「……今日も、ちゃんと過ごせるかな」


誰にも聞こえないくらい小さな声。

でも、その言葉に、自分自身が少しだけ頷けた気がした。


新しい一日が、静かに始まろうとしている。

るなは、カーテンの隙間から射し込む光に、そっと手を伸ばした。

「大丈夫じゃなくても、始めていい」

そんな気持ちが、少しだけるなの背中を押してくれた朝でした。

静かな朝の光が、少しずつ彼女の心にも灯っていきますように。

次回も0:00更新でお届けします。

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。

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