【第4話:冷えた画面の向こうで】
誰にも見えない手紙。
画面の向こうに届かなくても、心の中には確かに残る言葉があります。
今日は、そんな“声にならないやりとり”をそっと描きました。
【第1章】黙って見てるだけの距離(4話目)
配信を終えたあとの部屋は、静まり返っていた。
モニターの画面にはまだコメント欄が残っているけれど、すでに視聴者は誰もいない。
るなはマイクのスイッチを切ると、椅子の背にもたれかかった。
ほんの少し笑顔を作りすぎた頬が、じわりと疲れを帯びてくる。
(……今日も、見ててくれたかな)
“あのアカウント”は、今日も「いいね」を残していた。
それだけで、るなの胸の奥が少しだけ温かくなる。
でも、そこには「確かさ」がない。
るなはゆっくりと立ち上がり、デスク横の棚から小さな箱を取り出した。
中には、使いかけのメモ帳とインクの減ったペン。
「声にできないなら、せめて書いておこうかな」
何気なくそう呟いて、一枚の紙にペンを走らせる。
『ありがとう。今日も、来てくれて。』
その言葉は誰にも送られず、封筒に入れて机の引き出しにしまわれた。
明人はその夜も、るなのアカウントを静かに見守っていた。
送られた言葉がなくても、彼には伝わっていた。
配信の最後の声の揺れ、カメラの先のほんの小さな沈黙――
“お嬢様、今日もよく頑張られましたね”
画面のこちら側で呟いたその言葉もまた、静かに夜へと沈んでいった。
誰かのために綴った言葉が、たとえ届かなくても。
それでも、書こうと思えることが、すでに希望なのかもしれません。
るなと明人の静かな“すれ違い”が、あなたの胸にも少しでも残っていたら嬉しいです。
またお会いできたら幸いです。