【第23話:触れず、そばにいる】
気づかれたくなかったのに、
気づいてくれていて、
でも何も言わず、そばに居てくれる――
そんな朝の灯火です。
【第3章】ほんの少し、言葉になる(14話目)
朝の光がカーテン越しに差し込み、
るなはいつもより少し遅く、リビングに降りてきた。
明人はすでにテーブルに湯気の立つカップを並べていた。
ふたり分。
それを見たるなの足が、ほんの一瞬だけ止まった。
「……気づいてました?」
明人が声をかけたのは、るなが椅子に腰を下ろした直後だった。
背筋を伸ばしながら、彼は目を合わせないまま、静かに続ける。
「昨日、お嬢様の手が震えていたこと。
あれは、風のせいではありませんよね」
るなは答えなかった。
返せる言葉が、見つからなかった。
気づかれたことが恥ずかしくて、
でも、気づいてくれていたことが、どこか嬉しくて――
その気持ちをどう言えばいいのか、分からなかった。
そのかわりに、目の前のカップにそっと手を添えた。
「……うるさいな」
小さな声が、湯気の向こうで揺れた。
「そんなの、気づいてないふりしてくれてよかったのに」
明人はそれにも返事をしない。
ただ、隣に座るるなのカップに、少しだけミルクを足した。
「甘さが、少しだけ足りなかったように見えたので」
るなは、黙ってカップを持ち上げた。
その手は、もう震えていなかった。
(続く)
見透かされたようで少し恥ずかしくて、
でも、それでも良かったと思えた朝。
そっと注がれたミルクに、何も言わない優しさが滲んでいました。
ここまで読んでくれて、ありがとう。
また灯火を灯しに来ます。
よかったら、これからも見守っていてください。




