【第22話:何も言わずに分かっていた】
言葉じゃなくて、仕草でもなくて。
ただ“そこにいる”という確信だけが、
今日のふたりを静かに包みます。
第3章、ほんの少しの終着点です。
【第3章】ほんの少し、言葉になる(15話目・最終話)
るなはカップを置くと、少しだけ体を預けるようにソファに深く座り直した。
隣に座る明人の肩とは、まだほんのわずかな距離がある。
けれど、不思議とその距離が、心地よかった。
「……昨日、ありがとう」
ぽつりと呟いたその声に、
明人は「どういたしまして」と言うこともなく、ただ小さく頷いた。
目は合わない。
けれど、何も言わずにそうしてくれていることが、今は何よりも嬉しかった。
「昔だったら……こういうの、拒絶してたかも」
ぼそりとつぶやいたるなに、明人は視線だけを向ける。
それに気づいたのか、るなは照れたように笑った。
「今はちょっとだけ、違うの。……少しだけ、ちゃんと生きたいって思う時がある」
それは、るな自身が自分にもまだうまく言えない感情。
でもそれでも、言ってみようと思えたのは――
この沈黙の中で、明人がずっと灯してくれていたから。
カップの中の紅茶がまだ温かいうちに、
ふたりは並んだまま、何も言わず朝の光に溶けていった。
誰も気づかない小さな確信が、
その日、背中越しから――すこしだけ、横に並んだ。
(第3章・了)
今日は1話だけの更新です。
第3章の締めくくりとして、
少しだけ静かな余白を持たせたくて、
ひとつだけ、灯火を灯しました。
次回からは【第4章】が始まります。
まだ少しだけ、夜の余白に佇むふたりを見守っていただけたら嬉しいです。
朝を迎えるその前に、ほんの少しだけ、灯火を確かめるように。
次回も0:00と0:10に更新致します。
ここまで読んでくれて、ありがとう。