【第22話:今日、隣にいてくれて】
言えなかったことも、
口にできなかった気持ちも、
ただ隣に座ることで、少しずつ伝わっていく。
今日の灯火は、そんな“背中あわせ”の午後から。
【第3章】ほんの少し、言葉になる(13話目)
背中あわせのまま、ふたりは無言で午後を過ごしていた。
窓の向こうに揺れるカーテンの音と、秒針の音だけが室内を満たしている。
るなは、膝に置いた手をじっと見つめていた。
指先がかすかに震えているのを、自分で止められなかった。
「……無理しないで、って言えばよかったのに」
かすれた独り言が、胸の内側でこだました。
けれどそれを口に出す勇気がなくて、
代わりに、彼女は明人の隣にそっと座るという“選択”をした。
言葉にしなくても伝わる、そんな繋がりが、ふたりの間にはあった。
それで、良かったのかは分からない。
けれど、きっと――
その沈黙は、明人にちゃんと伝わっていた。
「……ありがとうございます」
ふいに、明人がぽつりと呟く。
「?」
るながそっと振り向くと、
明人はいつものように静かな笑みを浮かべたまま、前を向いていた。
「今日、隣にいてくださって」
一言だけ。
それだけで、るなの胸の奥に、ふっと温かいものが灯った。
「……別に、気まぐれだから」
るなが照れ隠しのように言ったその声は、
いつもより、少しだけ柔らかかった。
(続く)
本当は、“無理しないで”って言えたらよかった。
でも、言えない日もある。
ただ隣にいるだけで、伝わることがある。
今日のふたりは、そんな午後でした。
ここまで読んでくれて、ありがとう。




