【第21話:……たまには、休んだら?】
やさしさをそのまま言葉にできない日は、
少し遠回しな一言で伝えてみる。
るなの声は、不器用だけど確かにあたたかかった。
【第3章】ほんの少し、言葉になる(12話目)
その日、るなはめずらしく部屋にこもっていた。
朝食のあと、自室に戻ったまま、しばらく出てこない。
明人は特に何も言わず、いつものように静かに家事をこなしていた。
けれど、ふとした瞬間、彼の手元がわずかに止まる。
「……いつもより、静かですね」
誰にともなく、そうつぶやいた声に、わずかな疲労がにじんでいた。
昼過ぎ、リビングの扉がそっと開く。
るなが、クッションを抱えたまま入ってくる。
パジャマのまま、髪も少し乱れている。
けれど、その目だけは、まっすぐ明人を見ていた。
「……あんた、まだ寝てないの?」
「本日は備品の整理が少し立て込んでおりまして」
「……たまには、休んだら?」
その言葉に、明人の動きが止まる。
るなは、視線をそらした。
「……別に、心配とかじゃないけど。
ずっと見てると、さすがにこっちもしんどくなるし」
本当は、“無理しないで”って、もっとまっすぐ言えたらよかった。
でも、これが今の自分の限界だとも、ちゃんと分かっていた。
「……承知しました。少しだけ、椅子に座らせていただきます」
ソファに深く腰を下ろした明人の隣に、るなもゆっくり座った。
背中合わせのまま、ふたりはただ、静かな午後に溶けていった。
(続く)
本当はもっと、心配してる。
でもそれを言ったら、たぶん自分のほうが崩れてしまいそうで。
今日のるなはただ、静かに「隣にいる」を選んだ。
ここまで読んでくれた方、ありがとう。
次回も、明日 0:00/0:10 に更新予定です。
またそっと、ふたりの灯火を灯しに来ます。
よかったら、また見にきてください。




