【第20話:なんか、疲れてる?】
近づいた距離だからこそ、気づいてしまう“いつもと違う空気”。
るなの視線は、はじめて明人の疲れに触れようとしていた。
【第3章】ほんの少し、言葉になる(11話目)
その朝、るなが先にリビングに降りると、
明人はすでにカップを手に、テーブルに座っていた。
けれど、いつもとどこか違う。
目の下の薄い影。背筋の伸び方が、ほんの少しだけ緩い。
「……あんた、なんか疲れてる?」
るながそう言うと、明人はすぐに姿勢を正した。
「いえ、体調には問題ありません。少し、事務作業が続いていただけです」
いつもの穏やかな声。けれど、そこに漂う疲労の色までは隠せなかった。
「ふーん……でも、なんか目がしんどそう」
るなはそう言いながら、自分のカップに紅茶を注ぐ。
「あ、あんたの分も……入れとく」
気づけば手は、もう二つ目のカップを持っていた。
「ありがとうございます。……助かります」
小さな一言に、
いつもより少しだけ、本気の色が混ざっていた。
ほんとは、「休んだら?」と、言いたかった。
でもそれを口にするのは、なぜか怖かった。
それを許した瞬間に、彼が自分のそばから離れてしまいそうで――
るなはそれ以上、何も言わなかった。
けれど、明人が紅茶を飲むタイミングに合わせて、そっとカップを持ち上げる。
それだけで、
何かを“並んで支え合っている”ような気がしていた。
(続く)
「休んだら?」と言えなかったのは、
その優しさが、自分の不安も触れてしまいそうだったから。
でもそれでも、今日はちゃんと“並んで飲んでいた”。
ここまで読んでくれた方、ありがとう。




