【第2話:画面越しの灯】
画面越しに繋がる想い。
届かなくても、信じたい。
そんな“灯火”が今日もひとつ、そっと灯ります。
【第1章】黙って見てるだけの距離(2話目)
「今日も……来てくれたんだね」
画面に灯る配信通知に、るなはぽつりと呟いた。
それは誰に届くとも知れない、小さな呼びかけ。
でも、たしかに“誰か”がそこにいると信じたくなるような声だった。
スマートフォンの画面には、るなが何気なく綴ったツイートや、短いライブ配信の記録。
反応は少ない。フォロワーも多くはない。
けれどその中に、いつも変わらず“いいね”をくれる無言のアカウントがひとつだけある。
毎回、必ず。遅くなっても、消えそうな投稿にも。
「……もしかしたら、明人……かもしれない」
そう思ったことは何度もある。
けれど、確かめたことは一度もなかった。
もし違ったら――いや、もしそうだったとしても。
知ってしまった瞬間、このささやかな距離が崩れてしまう気がした。
「この灯火が、誰のものでもなかったら……きっと、私はもう立ち上がれなくなる」
その思いが、いつもるなを立ち止まらせる。
久遠明人は、それを知っていた。
執事として、彼女の私生活に踏み込みすぎることはない。
けれど、彼女が吐き出す言葉の欠片には、いつも静かに目を通し、無言で“いいね”を押し、時には一言だけDMを残す。
「ちゃんと、見てますよ――お嬢様」
疲れた声でつぶやく深夜も、寝落ちして更新が止まる朝も。
彼女がその存在を意識しなくなったとしても。
明人の“灯火”は変わらず、そこに灯っている。
呼ばれなくてもいい。返されなくてもいい。
けれど、あの背中が前を向いている限り――
ただそれだけで、灯火は揺らぐことなく、そっと背中を照らし続ける。
それが、久遠明人の“愛”の形だった。
るなにとっての“支え”は、言葉では届かない場所にあるかもしれません。
それでも誰かがそっと見守っていてくれる――
そんな安心が、小さな背中を今日も支えてくれる気がします。
次回も、ふたりの静かな距離を見つめてくださったら嬉しいです。