【第18話:あったかいうちに、飲みなよ】
謝ることが苦手な人は、代わりに行動を選ぶ。
るなの差し出した一杯には、昨日の続きが静かに込められていた。
【第3章】ほんの少し、言葉になる(9話目)
その日の午後、るなは珍しく先に紅茶を淹れていた。
慣れない手つきでお湯を注ぎながら、
「これくらいでいいのかな……」と、小さく独りごちる。
砂糖は入れない。ミルクもなし。
けれど、明人がいつもどんな温度を好むか、思い出すように慎重だった。
明人が仕事の書類を手にリビングへ戻ると、
テーブルには、小さな湯気と、るなの照れ隠しのような背中があった。
「……置いといただけ。飲むなら勝手にどうぞ」
るなはそっぽを向いたまま言う。
でもその声には、いつもの棘はなかった。
明人は静かに席につき、カップを手に取る。
「いただきます」
一口含んだその紅茶は、ほんの少し温度が高かった。
けれど、それが不思議と心地よかった。
るなは何も言わず、ソファに座り込む。
視線はテレビの方向に向いているが、集中している様子はない。
「……別に、昨日のこと気にしてないから」
ぽつりと、背中越しに放たれたその言葉に、
明人は何も返さなかった。
ただ、もう一口だけ、ゆっくりと紅茶を飲んだ。
ふたりの間に流れる時間は、
昨日よりも、少しだけ穏やかだった。
(続く)
「別に気にしてないから」
その言葉に込めた本当の意味は、
――「あんたのこと、ちゃんと見てるよ」だったのかもしれない。
ここまで読んでくれた方、ありがとう。