【第14話:そんなふうにされるの、慣れてない】
優しさを受け取ることに、慣れていないだけ。
るなは今日、それをほんの少しだけ認めかけた朝を迎える。
【第3章】ほんの少し、言葉になる(5話目)
るなが席につくと、温かい紅茶と、さりげなく添えられた小さなスコーンが置かれていた。
焼きたての香りが、ゆっくりと彼女の前に広がる。
「……焼いたの?」
「はい。お嬢様のお口に合えば幸いです」
「……朝からそんなこと、よくやるね」
「習慣です。日々の決まった流れがあると、心も落ち着きますので」
るなはスコーンを手に取り、ひとかじりした。
温かさがじんわりと口に広がる。
それだけのことで、何かが崩れそうになる。
そんな気がして、すぐに顔を背けた。
(なんで、そんなふうにしてくれるの?)
(どうして、私が何も返さなくても、変わらずいられるの?)
るなは自分の心の中に芽生えたその問いを、
どこにも向けられずに飲み込んだ。
「……そんなふうにされるの、慣れてないから」
ぽつりと出た言葉に、自分で少し驚く。
明人は、ほんの一拍だけ静かに息を整えてから答えた。
「いつか、慣れていただけるように」
その言葉に、るなは何も返さなかった。
でも、もう一度だけスコーンに口をつけた。
当たり前みたいに与えられるものに、
どう反応していいか分からない。
でも、
それを拒まない自分が、
今日のるなには、たしかにいた。
(続く)
明人の変わらない優しさは、
るなにとっては“よくわからないもの”だった。
でもその温かさに、拒まずもう一口――
その一歩が、確かに今、心の奥に残っていく。
ここまで読んでくれた方、ありがとう。