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『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第7章】こころ、沈みゆく底で
109/111

【第109話:変わらぬ朝、静かな光のなかで】

朝の光に包まれながら、何も変わらないまま時間だけが流れていく――

そんな静かな一日の始まりを描きました。

動けない苦しさの奥に、ほんのわずかでも“次の一歩”への願いが芽生えはじめるるなの心に、そっと寄り添っています。

【第7章】こころ、沈みゆく底で(6話目)


薄明るい光がカーテンの隙間から差し込んでいた。

外の世界は確かに朝を迎えているのに、

るなはまだ布団の中で身動きもせず、静かに天井を見つめていた。


時計の針は、昨日と同じ速度で淡々と時を刻んでいる。

鳥の鳴き声、遠くから聞こえる車の音、

朝のテレビの音――

どれも、いまのるなにはガラス越しの遠い世界の出来事のようにしか思えなかった。


身体の重さは、夜のあいだに何も変わっていない。

手足は鉛のように布団に沈み、

呼吸も浅く、

昨日と同じ空気が部屋を満たしていた。

(今日も、きっとこのまま時間だけが過ぎていくのかもしれない)

そんな思いが心の中にじっと沈んでいる。


窓辺のカーテンがわずかに揺れ、

そこから射す朝の光が、ゆっくりと部屋の奥へ伸びていく。

シーツの感触も、部屋の空気も、すべてが「変わらない朝」の証だった。


「るなさん、おはようございます」

明人の声が、扉の向こうから静かに届いた。

「コーヒーと、温かいスープをご用意しました。

よろしければ、あとで召し上がってくださいませ」

穏やかな語りかけは、

決して急かすこともなく、

静かにるなの居場所を肯定してくれているようだった。


明人の足音がゆっくりと遠ざかると、

部屋の静けさがいっそう際立った。

返事をしたいと思っても、言葉は声にならなかった。

ただ目を閉じ、

布団の中で自分の心音だけを聞く。


朝の光が、窓辺から部屋の奥へとゆっくり差し込む。

それをまぶしく感じることすらなく、

るなはただじっと時間が流れるのを感じていた。


遠くの公園から子どもたちの声が聞こえる。

誰かが玄関先で話す音、

日常の一つひとつが、今日はひときわ遠く感じられた。

目を閉じていても、世界は静かに動き続けている。

そのことが、逆に胸の奥を締め付けた。


“今日も、何もできないまま終わるのかな”

そんな予感と、

“でも、少しだけ起き上がりたい”という、

微かな願いが胸の奥に生まれては消えていく。


時折、布団の端をぎゅっと握りしめてみる。

そのわずかな感触が、自分がまだ“ここにいる”証のように思えた。

布団の温もりに包まれながら、

るなはもう一度、

静かに目を閉じた。


世界は変わらず、

自分だけが止まったまま。

それでも、心のどこかで、

「また朝が来た」という事実が、小さく響いていた。

そして、ほんのわずかに、

次の一歩を踏み出せたら――

そんな思いが、心の奥に静かに芽生えていた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

止まったような朝のなかで、

ほんの少しでも「動きたい」と思う気持ちが生まれること。

それは、るなにとって小さな希望の芽かもしれません。

これからも丁寧に、るなの心の揺れと日々を紡いでいきますので、

引き続き見守っていただけたら嬉しいです。

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