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『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第7章】こころ、沈みゆく底で
108/111

【第108話:眠れぬ夜、見守りの静けさ】

夜が深まり、静けさと孤独の中で眠れずにいるるな。

明人の気配とやさしい声、長い夜の時間――

見守られながらも、心はまだ凍りついたまま。

そんな夜の空気と淡い祈りを丁寧に描きました。

【第7章】こころ、沈みゆく底で(5話目)


夜が深くなり、部屋の中はひときわ静まり返っていた。

窓の外には街灯の淡い光がにじみ、カーテンの隙間から、青白い夜気がじわりと差し込む。

るなは布団の中で身を丸め、目を閉じてもなかなか眠りに落ちることができなかった。


遠くで車が一台だけ通り過ぎる音。

誰かの足音も、テレビの音も、もう何も聞こえない。

ただ時計の針の規則正しい音だけが、夜の静けさの中に小さく響いていた。


眠ろうとしても、頭の中は静かな波紋が広がるばかり。

今日もまた何もできなかった自分への情けなさや、

明日はほんの少しでも動けるだろうかという不安と焦り――

そのどれもが、心の奥で絡まり合っていた。


ふと、寝室のドアがわずかに開いて、明人のやさしい声がそっと届く。

「るなさん、お水をここに置いておきます。何かございましたら、いつでもお呼びください」

その言葉に、るなは小さくまばたきをするだけで精一杯だった。

それでも、明人が部屋の入口に気配だけを残し、見守ってくれていることが、

暗い夜のなかで唯一の支えに思えた。


布団の中、手足をぎゅっと小さく折りたたみながら、

目を開けて天井の模様をぼんやりと見つめる。

涙も、怒りも、喜びも――

どれも遠く、感情のすべてが凍りついたまま時間だけが流れていく。


窓の外の風が、カーテンをかすかに揺らす。

それにさえ、心はまったく反応しなかった。

(このまま朝が来なければいいのに)

そんな諦めと、

(それでも、きっと朝は来てしまう)

という受け入れるしかない淡い祈りとが、交互に胸の奥をよぎった。


やがて明人の足音が遠ざかり、寝室の扉が静かに閉じられる。

その瞬間、ほんのわずかに息を吐く自分がいた。

ひとりきりの夜は怖いはずなのに、

誰かが見守ってくれているという小さな温もりだけは、

どこか心の奥に残っていた。


るなはもう一度目を閉じ、呼吸を整える。

眠気はなかなか訪れなかったが、

それでも、布団の中で静かに時間が過ぎていくのを受け止めていた。

どこまでも長い夜――

けれどその長さの奥に、かすかな安堵の影が重なっていた。


遠くで夜明け前の鳥が、一羽だけ小さく鳴く。

そのかすかな音に耳を澄ませながら、

るなはやがて、静かな眠りへと身を沈めていった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

眠れない夜も、誰かの見守りや小さな気配が、

るなの心にかすかな温もりを残していきます。

静かな夜の奥で、やがて朝へ向かう微かな希望も――

引き続き、るなの時間をそっと見守っていただけたら嬉しいです。

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