表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第7章】こころ、沈みゆく底で
104/111

【第104話:朝の気配、動けないままで】

第7章「こころ、沈みゆく底で」の始まりです。

今日は、るなが“何もできない朝”を迎える場面。

重たい布団の中、外の世界や日常の音が遠く感じられる――

そんな心の底で静かに沈む感覚を、丁寧に描きました。

【第7章】こころ、沈みゆく底で(1話目)


夜が明けきらない部屋の中。

るなはベッドの中で目を開けても、天井の薄暗さがどこか現実とは思えなかった。

時計の秒針の音だけが静かに響き、カーテンの隙間から滲む朝の光も、どこか遠い場所の出来事のように感じる。

昨日までの空気や余韻は、すでに遠ざかり、

布団に包まれた身体だけが静かに沈みこんでいた。


身体は鉛のように重く、手足は思うように動かない。

息をするたび、胸の奥がぎゅっと締め付けられるようで、呼吸さえも浅く感じる。

「……おはよう」

心の中でだけ呟いてみる。けれど、その声すらどこかぼんやりと曇っている。


寝返りを打つことさえ億劫で、

布団の中で丸まるだけの朝。

窓の外では鳥が鳴いている気配があったが、

その音も、まるでガラス越しの別世界のことのようだった。


明人の気配が、遠くキッチンから漂ってくる。

カップを置く小さな音や、パンの焼ける香り――

日常のすべてが、今日は自分から何歩も遠い場所にあるように思えた。

“起きなきゃ”“顔を洗わなきゃ”

頭のどこかでぼんやり浮かぶけれど、

身体は一向に動かず、ただ時間だけが過ぎていく。


「るなさん、起きられそうですか?」

廊下越しのやさしい声が、遠くから響いてくる。

でも、返事ができない。

まぶたを閉じても、眠気は戻ってこない。

ただ、心の底の冷たさだけが静かに広がっていく。


思い切って布団の中から腕を出してみるけれど、

すぐに力が抜けて、また身体を丸めてしまう。

“何もしたくない。何も感じたくない。”

そんな思いを、さらに遠くから眺めているもうひとりの自分がいる。


どれだけ時が過ぎても、

布団の重さと静寂だけが、ただ、静かに、るなを包んでいた。

目を閉じたり、天井のシミを数えたりしても、

どんなふうにも時間が流れず、ただ朝が過ぎていく。

外では誰かの自転車のベルが鳴った。

日常の音が、ここだけを避けて流れていくようだった。


カーテンの向こう、外はもうすっかり朝なのに、

るなにはまだ、世界が始まったような気がしなかった。


自分の中だけに沈み込むような、

そんな長い、長い朝だった。

目を閉じて、耳を塞いでも、

ただ“何もしたくない”という重たい思いだけが、

胸の奥に静かに降り積もっていくのだった。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

何もできず、何も感じられない朝――

るなの孤独と無力感が続く時間ですが、

それでも胸の奥に積もっていく感情を、これからも一つずつ見つめていきます。

次回もまた、るなの心に寄り添っていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ