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『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第6章】こころ、ふわりと浮かんで
102/111

【第102話:沈む夕暮れ、波の終わり】

今日は、4日目の夕方から夜にかけて――

るなの心にじわじわと広がる静けさと、「波の終わり」をしっかりと受け止める時間を描きました。

明人の静かな寄り添いと、夜の部屋の空気。

何もしたくない、何も感じない――そんな自分を、るなが初めて静かに見つめています。

夕方、窓の外には淡いオレンジ色が残っていた。

空はゆっくりと群青に染まり、雲の端がやさしく輝いている。

るなはリビングのソファに身を沈め、ぼんやりと膝を抱えていた。

昼間の“空白”は、いまや胸いっぱいに広がっている。

何かをしたい衝動も、ほとんど感じなくなっていた。

身体は鉛のように重く、ただ呼吸だけが静かに繰り返されていく。


部屋の中には、明人がキッチンで鍋をかき混ぜる音が響く。

そのリズムだけが、生活の続きであることを教えてくれた。

「夕ご飯、食べられそうですか?」

「……少しだけなら」

るなはかすかに声を出してみるけれど、

その響きも自分から遠く離れていくようだった。


テーブルについても、箸を持つ手に力が入らない。

明人がよそってくれるスープや温かい料理の味も、どこか薄く感じた。

咀嚼するたび、空っぽになった胃袋だけが静かに動く。

「無理しなくていいですよ」

明人の穏やかな言葉が、部屋の静けさの中に溶けていく。


食事を終えたあと、るなはすぐに立ち上がる元気もなく、

しばらくテーブルにうつ伏せていた。

ふと窓の外を見れば、街の明かりが一つまた一つと灯りはじめている。

日が暮れていくのを、ただ眺めていることしかできなかった。


明人はそっと椅子を引き、るなの隣に座る。

「今夜は、もうベッドで休みましょうか」

その優しい声に、るなは小さくうなずく。

寝室へ向かう足取りは重く、でも誰かが隣にいてくれるだけで、

ほんのわずかに安心する気持ちもあった。


ベッドに潜り込むと、天井の灯りが淡く視界を照らす。

何もしたくない、何も感じない――

そんな思いが身体を包み込む。

それでも、小さく呼吸を繰り返しながら、

(これで“波”が終わるんだ)と、どこか遠くで静かに確信している自分がいた。


明人が布団を整え、「おやすみなさい」と声をかける。

その温もりや言葉も、今夜は夢の向こう側の出来事のようだった。

だけど、それでも、

(ここに居てくれる人がいる)

その小さな事実だけが、胸の奥でかすかに灯っていた。


夜の静寂が、るなをゆっくりと包み込んでいく。

沈みゆく波の終わりを、るなは静かに、でもしっかりと受け止めていた。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

夕暮れの中で、ついに“波”は終わり、

るなはただ、静かにその事実を受け止めて夜を迎えました。

喪失と静けさの中で、それでもどこかに灯る“見守られている安心”。

次回、6章ラストは夜の底――そして、新しい朝への小さな祈りを紡いでいきます。

またぜひ、るなの歩みを見守っていただけたら嬉しいです。

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