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『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第6章】こころ、ふわりと浮かんで
101/111

【第101話:静かな午後、波が遠のく】

今日は、4日目の昼から午後。

あれほど止まらなかった“動きたい衝動”が少しずつ遠のき、るなの心と身体に静かな空白が広がりはじめます。

春の光と穏やかな日常の中で、波の終わりが近づいていく午後の時間を、そっと描きました。

【第6章】こころ、ふわりと浮かんで(22話目)


昼前、るなは食器を片付けたあと、窓辺の椅子に腰かけてしばらく外を眺めていた。

春の日差しが柔らかく差し込むリビングには、朝の賑やかさが嘘のように、静かな空気が漂っている。


「何か、食べたいものはありますか?」

明人の声に、「うーん……あまりお腹は空いてないけど、軽くパスタとか……」と、るなは控えめに答える。

どこか、さっきまでの“動きたい”気持ちが、ゆっくりと遠ざかっていくのを感じていた。


昼食を簡単に済ませると、また何かをしなくては、と立ち上がる。

でも、手を伸ばした本のタイトルさえ、今日はなぜか頭に入ってこない。

観葉植物の水やりも、カーテンを整える手つきも、昨日のような楽しさが薄れていく。


「少し、疲れていませんか?」

明人がそっと声をかけてくれる。

「……うん、かも」

自分の中のエネルギーが、静かに抜けていく。

何かをしようと思うたびに、心の奥で「でも、もういいかな」と小さな声が響く。


午後の光が、床に淡く模様を描く。

その優しい明るささえ、今日はなぜか遠く感じられた。

窓の外で子どもたちの声が響くたび、

るなは一歩引いた場所から、その音を眺めている気がした。


ぼんやりとソファに座り、膝を抱えて丸くなる。

あれだけ止まらなかった“動きたい衝動”は、

今ではほんの小さな名残だけを胸に残して、静かに消えようとしていた。


明人が静かにお茶を入れてくれる。

るなはカップを両手で包み、深く息を吐く。

胸の奥で、波が遠のいていく――そんな感覚。


「夕方になったら、少しだけ外の空気を吸いに行きませんか」

明人の提案に、るなは小さく微笑んで「うん」と答える。

でも、その声にもどこか、昨日までの弾みはもう残っていなかった。


その後しばらく、るなは静かに窓の向こうを眺め続けた。

外では風が木の葉を揺らし、ときおり鳥の影がベランダを横切る。

かつては気になった小さな音や匂いも、今はどこか遠く、現実味が薄れていく。

いつのまにか時間が緩やかに流れ、時計の針の音だけがやけに大きく感じられた。


外は変わらず、優しい春の日差し。

けれど、るなの心の中には静かな空白がゆっくりと広がり始めていた。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

午後の静けさのなかで、るなは「できそうなこと」がだんだんと薄れていく自分と向き合いはじめました。

“心の波”が静かに遠のいていくとき――その揺らぎや余白に、次回もやさしく寄り添っていただけたら嬉しいです。

次回は夕方から夜へ、波の終息とその先を静かに紡いでいきます。

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