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『背中越しの灯火(ひ)』   作者: ふぃりす
【第6章】こころ、ふわりと浮かんで
100/111

【第100話:透明な朝、揺れはじめる影】

今回は、4日目の朝――

るなの高揚感と「まだ続くかもしれない」という小さな希望、

その中にじわじわと混じりはじめる違和感や、微かな疲労の気配を描きました。

季節は春。透明な光と部屋の空気、明人の穏やかな声に支えられながら、

“波”の行方をそっと見守る一日が始まります。

【第6章】こころ、ふわりと浮かんで(21話目)


早朝、窓辺から差し込む光が、るなのまぶたをやさしく照らす。

いつもより早く目が覚めて、ぼんやりと天井を見上げる。

身体にはまだ軽い浮遊感が残り、心もほんのりと明るかった。

(今日も動ける――)

そんな予感に背中を押されるように、るなはベッドを抜け出す。


キッチンでは、明人が静かに朝食の支度をしていた。

「おはようございます、るなさん」

「おはよう。今日は、早く目が覚めちゃって」

るなはそう言いながら、テーブルの上を片付けたり、食器を並べたり、

手が止まることなく動いている。

どこか落ち着かないけれど、それも嫌ではなかった。


「今日はお休みですね。無理せず、ゆっくり過ごしましょう」

明人の言葉に、「うん、大丈夫」と明るく返す。

でも、胸の奥には昨日より小さな“違和感”がかすかに灯っている気がした。


朝食を終え、るなはカーテンを大きく開け放つ。

春の陽射しがまっすぐ差し込み、床に淡い模様を描く。

「今日は洗濯もして、部屋の片付けもしようかな」

そう口にした瞬間、また衝動のように身体が動き出す。

洗濯機を回し、ベランダに洗い立てのシャツを干す。

頬に当たる風はまだ少し冷たいけれど、青空が心地よい。


部屋に戻ると、観葉植物の葉を一枚ずつ丁寧に拭き、本棚の整理に没頭する。

途中、リビングのクッションカバーを替えたり、窓辺の小物を動かしたり――

“何かしていないと落ち着かない”ような、そんな気持ちが続く。


でも、気づけばふと、息が浅くなっている。

立ち止まって窓の外を見ると、隣家の庭で子どもが小さく手を振っていた。

その無邪気な笑顔を見つめるうちに、なぜか胸が少しだけきゅっと縮まる。

「……ちょっと、疲れたかも」

るなはソファに腰を下ろし、両手を膝の上で組む。

高揚感の中に、微かな疲労と空虚さが混じり始めていた。


明人はそっと紅茶を差し出してくれる。

「無理しないでくださいね。波が落ち着く時は、ゆっくり休んでいいんですよ」

るなはうなずき、カップを両手で包み込む。

その温かさが、じんわりと胸に沁みていく。


窓の向こうの空は、朝よりも澄んで透明に見えた。

けれど、るなの心には、静かに“揺れはじめる影”が淡く広がりはじめていた。

(今日は、どこまで動けるかな……)

まだ終わりは遠いと信じたかったけれど、

その奥に、静かな不安がそっと芽を出していた。

読んでくださって、ありがとうございます。

今日はまだ、軽躁の余韻が心と身体を包み込んでいましたが、

その中にふと浮かぶ“影”――

この先、るなを待つ心の波がどんな色を見せるのか、

そっと寄り添いながら、次回も見守っていただけたら嬉しいです。

次回は、4日目の午後から夕方、そして“波の終わり”へと向かう静かな時間を描いていきます。

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