第一章 アンジェラス⑤ 穢天使(えてんし)
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「CHILD」
https://youtube.com/shorts/yy-TQ-HsMWA
お手数ですがブラウザでURLをコピペしてお聴きください
「夜の街とその闇を駆け抜ける黒い影」をイメージして作りました
聴いてから本編読むとテンション爆上がり!
3度目は…彼一人では無かった。車椅子に収まった小さな女の子と一緒だった。名をモルモと言うそうだ。そう、これが私とモルモとの出会い。
最初は娘さんなのかと思ったのだが違うらしい。ただ「余計な詮索はしないように」と言われたのでそれ以上は。まぁパパ活業界では詮索しないのは当たり前のことではあるので何の不思議もないのだけど。
それから…3人でホテルへ。そういうプレイ?!と驚愕したが、違った。むしろ彼からお願いされた。エンプティヘブンを広めて欲しい、と。そして今後はこのモルモの指示に従って欲しい、とも。子供の指示に?と驚くが、同時に驚いたのは、それに対する見返り、報酬の額。そして…これを最後に、もう会うことはない、と告げられ、そして彼は部屋を出ていった。悲しくもあったが、元よりお金のためにやってたことだから、と自分を慰め、そして割り切った。
「モルモちゃんはねー、デギールって組織のヒトなのよー」
彼が出て行ってすぐ、こちらが何も聞いてもいないのにモルモは勝手にしゃべり出した。この子のお守りをすれば良いのか、それであんな額のお金が貰えるなんて、なんとチョロい話、とそのときは思った。
それにしても自分に「ちゃん」付けなのか。
「デギールはー、この星に、不幸なきょーぐーの子供たちのための楽園を作ろうとしてるのよー。フォキウスちゃんはー、そのさいぜんせんのヒトなのねー」
デギールというのは慈善事業団体なのか? あ、でも報酬が出るからNPOではないんだな。
そして…この子と彼の力関係はどうなってるんだ?
「それでエンプティヘブンを広めてほしいんだけどー、でもねー、絶対ジャマするヤツとか出てくるからー、守ってほしいのよー。アンナちゃんにやってほしいのよー」
私にも「ちゃん」付け…誰にでも付けるのか。それなら納得だ。
「それでねー、アンナちゃんにはこれあげるー」
と、シリコンバンドのスマートウォッチのような物を手渡された。
「これは、何?」
「『パゾル』ってゆーんだけどー、まずは腕に巻いてみてー」
「こう?」
言われるままに左腕に装着する。
「それでねー、『パゾル』っておっきな声で言ってほしいのー。えっちなことしてるときと同じくらいおっきくー」
…なんて事言うんだ、この子…でも…お金のためだものね…言われるままに叫ぶ。
「パゾル!」
ビックリした。叫んだ途端、腕に巻いた物から光の輪が現れた。
「それからねー、その光のわっかを自分に被せるようにひっぱってほしいのよー」
自分が何をしているんだかさっぱり分からないが、ここも言われたままに。
「こう?」
引っ張ったら…文字通り、見える世界が変わった。
「え?! 何?! 何、これ?!」
「ビビらなくても安心なのよー。それはアンザグってゆってー、それ着てるとむてきになっちゃうのよー。それでねー、敵が来たら、どーんってやって、ばーんってやっつけちゃってー」
それからモルモは、もっと人を集めてチームを作れ、と。私一人では手に余るから、と。そしてその名も考えていたらしく、それは「使者」と命名された。
早速私はビブ横の知り合いに声を掛けた。ただ、お金が絡むことでもあるので信用できるコだけに。
そうして集めたメンバーで、モルモから聞かされた最初の『依頼』をこなした。楽勝だった。にも関わらず、結構な報酬が手に入った。無論、メンバーも大喜びだ。
幾つかの『依頼』をこなした頃には、私の借金は完済どころか貯蓄として貯まり始めるほど。そうなると夢を見たくなってくる。今はまだ決まっていないけど、こうして貯めたお金で何かをしたい。一緒に戦ってくれるメンバーのコたちにも、前向きな未来を見せてあげたい。もっとも売春をしなくていいだけでも御の字なんだけど。
最初に声を掛けたのはみんな女の子。私が女だから声を掛けやすいというのもあるのだけど、とかく女の子が集まるところに男は寄ってくる。案の定そうして人が集まって、その中から信用できるコだけ採用し、仲間に入れた。同時にお金のあるところには人が集まるもので、アンジェラスはすぐ20人を超える大所帯となった。
しかしその人数は間も無く減ることになる。
ある日。モルモと次の『依頼』の打ち合わせをしている時のこと。
「それでモルモは」
「あー、いけないんだー。モルモちゃんにはねー、『様』ってつけなきゃイケナイんだよー。そういうおぎょーぎの悪いコはねー、こんしーるどでオシオキしちゃうのー」
と楽しそうに。
「コン、何?」
聞き返したところでパゾルからチクっとした微かな痛み。そして僅かに何かが体内へ注入されるのを感じた。瞬間感じる気持ち良さが間も無く反転、絶望的なまでの苦痛が身体中を支配する。
「グ…あガァァァ…」
自分が立っているのか転がっているのかも分からない。ただひたすらのたうち回る。アンジェラスのみんなが見ている前で。
「クラウデッドヘルのお味はいかがかなー? おいしー?」
ニコニコと楽しそうに聞いてくるが、私には答える余裕が無い。
クラウデッドヘルとは、すなわちエンプティヘブンの真逆の物。エンプティヘブンがどこまでも自分の意識が広がっていくような快感なのに対して、クラウデッドヘルは自分の意識がどこかにある中心へ向かってギュウギユウと縮んでいくような不快感。そのせいで自分の意識がギュウギュウ詰めで頭がパンクしてしまいそうな感じになる。
モルモの言うコンシールドとはパゾルに組み込まれた機構で、モルモの意思通りに発動できるもの。蚊に刺されたような微かな痛みと共に、クスリを射ち込まれるのだ。
「苦しいからってパゾルを外すと、腕がばーんってなっちゃうのよー。調子がいいと上半身ぜんぶばーんってなっちゃうかもー。うっしっしー。でもモルモちゃんは優しいので、ちゃーんとアメちゃんも用意してるのよー」
また針が刺さったのだろう、しかしそれすら感じられなかった。次に分かったのはクラウデッドヘルの苦しみが和らぎ、微かな幸福感が身体中に広がっていくこと。この感じ、知ってる。ヘブンだ。つまりコンシールドというのはエンプティヘブンとクラウデッドヘルを使った『飴と鞭』を具現化した物。さらに外そうとすれば少なくとも体の一部を失うオマケ付き。
最悪だ。こんな物を彼らに薦めてしまったのか…と自分を責めた。事実、アンジェラスの人数が一人、また一人と減って行った。組織を抜けようとしてなのか、あるいはパゾルから逃れようとしてなのか。だがいなくなった人が結局どうなったのかは誰も知らない。
それでも残ったメンバーがいる。彼らはとても私を慕ってくれる。まるで弟や妹が一気に増えたような気分だ。みんな何かをしたいのだ。ビブ横でウリをするしかないようなコでも、ちゃんと報酬を用意して、役目をあげればこうして働けるのだ。
そうして慕ってくる子、特に男の子の中には、私に親しみ以上の感情を持つコもいる。もちろん、オトコとオンナのソレだ。言い寄られることに悪い気はしない。異性にモテて嬉しくない人なんかいないだろう。でも…私は断っている。相手がコドモだからというのもあるのだけど…何より私のカラダは『最上級のオトコ』を知ってしまった。たとえ彼らがどれほど『立派なモノ』を持っていたとしても、私のココロもカラダも埋めることはできない。それを正直に話してしまえば、きっと彼らは逆に張り切ってしまうに違いない。オトコのコだから、ね。それゆえ断るにしても歯切れの悪い言い方にしかならない。なんだか彼らの気持ちを利用しているようで申し訳ない気になる。でも私たちには、夢があるから。そのためには自分すら欺かなければならない…
◆
ED「あなたの隣で深呼吸」
https://youtube.com/shorts/gZ-NHOOCiGw
とても背の高い男の子を好きになった女の子の歌
癒し系ほのぼのソングなのに本編最終エピソードまで読み切ると歌詞の意味が心に痛い!