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第一章 アンジェラス④ アンナ

YouTubeにて音声動画上げてます


OP「CHILD」


https://youtube.com/shorts/yy-TQ-HsMWA


お手数ですがブラウザでURLをコピペしてお聴きください


「夜の街とその闇を駆け抜ける黒い影」をイメージして作りました

聴いてから本編読むとテンション爆上がり!


※挿絵はAIにて作成

口元にある黒い点は汚れではありません。

本文中にはありませんが、アンナは口元にホクロがある設定なのです。

 気を…失っていたのか…

 …夢を見たのか、朦朧と昔を思い出していたのか分からないが、それはアンジェラスを結成した頃の話。

 私はあの頃、いわゆるビブ横でフラフラしていた。

 客を取るため。カラダを売って、お金を稼ぐために。

 それ以前の私は、普通にOLをしていた。電機メーカー関連の、小さな子会社。輸出が伸び悩み売上が低迷している中、高卒にもかかわらず給料の払いはまぁまぁ良い方。これでなんとか玉の輿にでも、なぁんて、淡い期待を持ったり。でも周りは生活に追いかけられて生きる、くたびれたオジサンばかり。

 3年ほど後。仕事の、そして職場のストレスが高じて、私はホストにハマってしまった。クラブで飲むお酒は楽しかった。話し上手で聞き上手なホストが、私の心の拠り所となっていた。無論、貢いだ。お気に入りのホストの彼に振り向いて欲しくて。私だけを見つめて欲しくて。いつの間にか貯金は借金に変わり、それを返済する日常に追われるようになっていった。

 ある時、出来心で…会社のお金に手を付けてしまった。金額は微々たるものだったせいか警察沙汰にはならず、でもそれでそのまま居られる訳もない、私は会社を辞めた。

 理由が理由だけに、田舎の両親に頼るわけにはいかない。すぐにでも就職先が見つかれば良かったのだろうけど、現実は厳しい。借金の督促に怯える日々。すぐにでも現金が欲しい私は…安易にも最終手段に出た。お金を貰ってデートをする、いわゆるパパ活だ。SNSで、あるいはビブ横に立って、客を取る。そして、見ず知らずの、親ほどの年齢のおじさんと一日デート。一回の『売上』は大きいものの、返済に充てる分を引けばほとんど残らない。その上『競合』も多い。何か客を惹きつける『サービス』が無ければ次の客は無い。だからデートの後…夜は抱かれるのだ。


挿絵(By みてみん)


 そんな折、少々変わった客があった。名をフォキウスと言っていた。外国人?らしい。背がすらっと高く、堪能な日本語の、上品な話しぶり。私を女性として丁重にエスコートしてくれる。ホスト狂いの時ですらこんなことはなかった。お金を払ってるのはこっちなのに。

 お昼前に約束して、まずはカフェテラスでランチ。間もなくクリスマスの12月、賑やかで慌ただしい平日の街中なはずなのに、なんだかとても(しず)かな感じ。横浜にこんなところがあったなんて驚きだ。

 ふと、彼の耳に見慣れない物があったので、つい注視してしまった。左耳にイヤホンのような物が付いている。

 私の視線に気付いたのか

「ああ、すまないね。生来耳が悪くてね、補聴器のようなものだ。勘弁してもらえるかな?」

「勘弁も何も…」

 むしろすまないと思ったのはこっちの方だ。余計なことをしてしまったかと肩をすくめると

「君の愛らしい素敵な声はしっかり聞こえているから変に気遣わなくても大丈夫だよ」

 と、むしろこっちが気遣われてしまった。


 それから街をブラついてウィンドウショッピング…のつもりだったのだが…

「うわぁ…これ素敵…」

「着てみてはどうかな?」

「え、でも」

「きっと似合うと思うよ」

「え、それじゃ…」

 と試着室へ。

「こんな感じ、です」

「どうかね。気に入ったかな?」

「素敵だと思いますけど、でも」

 プライスタグなんか見なくたって、いま着ている物と桁が1つや2つ違うことは庶民の私ですら分かるのだが

「あー、店員さん。ちょっといいかな?」

 次の瞬間にはさっき身に着けていた物は紙の手提げ袋に入って戻ってきた。こんな調子で、服からアクセサリーから、文字通り上から下まで、全て一揃え。よくもまぁそんなに入っているものだと呆れるほどのお札が黒い革の長財布から次から次へと出てくる。初めのうちはパパ活ってこういうものだよねなどと私も調子に乗ってあれもこれもとおねだりしてしまったが、あまりに要求が丸呑みされるとビビるものだ。さすがに下着は恥ずかしくてお断りしたけど。

 さらに

「あの、荷物くらいは自分で持ちますけど」

「いやいや。可憐なレディに持たせるなど、私にはできんよ。むしろ私めに持たせてやってはくれないかね?」

「えと、あの、それじゃ…お言葉に甘えて…」

 ここまでされるとむしろ申し訳ないとさえ思ってしまう。


 そんなこんなで夕食の時間。

 フレンチのコースを予約してあるという高級リゾートホテルのレストランへ。その名は知っていても私のような庶民には縁のないお店だけに、中へ入ることすら緊張した。こんなお洋服で良かったのだろうか? むしろ買っていただいたものを着た方が良さそうな。

 そうして食事が終わり

「あの、そろそろ…」

「おや。もう帰ってしまうのかね? それは残念だ」

「あ、いえ、その…夜もご一緒させていただく約束でしたので…その…」

「ふむ。ならば部屋が必要だな。君。ちょっといいかな」

 とウェイターを呼び、何やら耳打ち。かしこまりました、と言って去るとまた戻ってきて、ご用意できました、と。

「さて行こうか」

「え? どこへ…?」

「部屋に、だよ。いま彼に部屋を取ってもらった」

 ええーっ? あのウェイターが部屋を取ったということは…この…ホテル?

 エレベーターに乗り、上へ上がる。上へ。上へ。まだ着かない。そして…最上階まで来てしまった。最上階とは、つまりスイートがある階…冗談ではなく、その部屋へエスコートされた。

 ドアを開けられ、中へ。そこは…もはや形容できる言葉が私の中に無い。ただただ、凄い、としか。夜のムードに合わせて暗めに調光された部屋内には見るからに高級そうなテーブルやソファーにベッド。そして窓からは星の海のような港町の夜景。

「わぁぁぁぁ! きれーいっ!」

 うっとりと眺めているうち、彼はそっと私を…


 その辺のラブホテルじゃなくて、豪華なホテルの、とっても綺麗なお部屋。それだけでも気分は高揚するというのに…その人は、とても丁寧に私のカラダを愛してくれた。初めての時からずっと、ましてお客ともなれば向こうの身勝手で弄り回されるだけで、気持ちいいなんてことは一度も無かった。セックスなんてこんなもんか、男なんてこんなもんか、と惨憺(さんたん)たる思いが積もっていた。しかし、彼は違った。いや、他の男と同じコトをしているはずなのに、カラダはとても喜んでそれを受け入れる。私はカラダの芯から解きほぐされ、未知の扉を次々と開けられた。一晩(まぐわ)って、それでなお次から次へと新しい世界を知る。私は『女』なのだと分からせられてしまった。

 もうお金なんてどうでもいいというくらいの快感を味あわせてもらい、それで尚お金は支払われた。しかも…受け取ったそれは最初の約束を遥かに上回り、もはや札束だった。いくらなんでもと返そうとするのだが、取っておいてくれと拒まれる。それなら、と、またお相手させて頂けますか?と願い出た。彼は快く承諾してくれた。正直なところ、お金はもうどうでも良かった。ただただもう一度、この人に抱かれたかった。


 一週間ほど経って、彼から連絡が入った。また会える、と私は浮き足立つ。その間に取った客にどんな扱いをされたかも、みんなスッ飛ぶほどに。


 2回目はすぐさまホテルへ直行した。相変わらず素敵なお部屋へ。でも今度は少々違いがあった。

「これを使ってはみないかね?」

 と見せられたのは、小さな袋に入った白い粉。

 間違いない。これは麻薬(クスリ)だ。 エンプティヘブンというそうだ。クスリはちょっと…と思っていたのだが…それよりも今すぐにでも彼に抱かれたいという気持ちが(まさ)った。だから使ってみた。エンプティヘブンを。言われた通りに極々少量を鼻から、いわゆるスニッフで摂取する。

「ウグ…ウガァァァァ…」

 間も無く途轍もない苦しみが襲う。騙されたのか?と彼を睨みつけようと顔を上げたその時。

「う…ぁあぁぁぁ…」

 とんでもない快感が全身に広がった。体はとてもダルいのに、身体中の神経という神経が開き、ありとあらゆる刺激が快楽へつながる、そんな感じ。だから、ただでさえ彼に抱かれるのは気持ちいいのに、その何倍も、いや数値化なんかできない、上限無しの快楽が与えられるのだ。

 次に目覚めた時には、彼の姿は部屋に無かった。いやむしろ、私は気を失うレベルで眠っていたのだ。その証拠に「また会えるかな?」と(したた)められた置き手紙があった。札束を添えて。


ED「あなたの隣で深呼吸」


https://youtube.com/shorts/gZ-NHOOCiGw


とても背の高い男の子を好きになった女の子の歌

癒し系ほのぼのソングなのに本編最終エピソードまで読み切ると歌詞の意味が心に痛い!

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