第一章 アンジェラス② 潜入
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「CHILD」
https://youtube.com/shorts/yy-TQ-HsMWA
お手数ですがブラウザでURLをコピペしてお聴きください
「夜の街とその闇を駆け抜ける黒い影」をイメージして作りました
聴いてから本編読むとテンション爆上がり!
※挿絵はAIにて作成
ちょっとジジイ感が足りない…かな?
港町横浜。
世界の玄関口として古くから栄えて来たこの港は、今日もさまざまな国のさまざまな物が出入りする。その貨物を保管する倉庫もまた数多あり、その中の一つ海誠運輸明星倉庫が深夜にも関わらず煌々と明かりを灯している。
「中身の確認が終わったものから積み込め! 8ケースは明日の便で運び出す!」
中に入れば人だかり。黒いスーツに黒いサングラスの黒づくめの男たちの中に一人、白いスーツを着た痩せギスの男。名を田上直樹という。65歳という年齢の割に肌ツヤがよい。表向きは小さな貿易商社「協和貿易」の社長ということになっているが、ウラの顔は犯罪シンジケート『蛇の使い』のドン。表の顔である協和貿易を利用し、主に麻薬の取引をおこなっている。
そんな男が、倉庫には不釣り合いな豪華な椅子にかけながら、目の前の作業の様子を眺めていた。
「今日のは大井ルートのものか」
「尾辺女史監修ですからモノは確かでしょう」
彼らが今取り扱っているのは、昨今若者の間で流行っているというエンプティヘブンという麻薬だ。
「中身のことはどうでもよい。こんなモノばら撒いでカネになるというなら楽なものだ。それで『あの子たち』を養えるというならなおさらな」
「慈善事業のおつもりですか?」
「ふっふっふ、菊池、なかなか言うのう。私も孫ほどの子供たちの面倒をみるのも悪くはないと思ってはおるが、協和通商は女子社員がおらんだろ? いずれあの中からうちに就職する者もおるかもしれん。今からツバでもつけておくか? 皆若くてピチピチしとるぞ?」
「いやいや、そんな…」
「あっはっはっは」
「田上様。あのアンナという女、信用してよろしいのでしょうか?」
「モルモ様のお墨付きだ、問題無かろう」
黒服の男が一人、田上たちに駆け寄った。
「報告です。22:30現在、異常ありません」
「見張り交代だ。ボウズはどうした?」
「一人でやると言って、今は屋根に」
「勝手なことを…」
「まぁ良い。好きにさせておけ」
「はっ」
「ここもあとどのくらい使えるかな」
「都築の第3倉庫はパトロールが厳しくなっているとか」
「ふむ…警察の方はまぁどうにかなるとして、厄介なのは
ドゴァッ
倉庫正面シャッター横のドアが蹴破られ、何者かが侵入してきた。
「…やれやれ。ウワサをすれば、か」
銃を構えた黒服たちが田上を囲む。
その方向へゆっくり歩み進む者がいる――――全身が緑色の金属的光沢を放ち、筋肉に沿いストライプが走る。頭部には濃いグレーのバイザー、その奥に光る白い目。
「最近この辺りを嗅ぎ回る『ネズミ』がいるとは聞いていたが、なぁ、ギャノン!」
田上は取り乱す素振りもなく声を掛ける。
「オレもずいぶんと有名になったもんだ」
『ギャノン』と呼ばれた男、すなわち風音タケシは脚を止めた。
「あちこちで我々の取引の邪魔をしてくれてるそうじゃないか」
「当たり前だ! なぜだ! どうしてヘブンをこの世の中にばら撒く!?」
「ふん。ヒトは衣食住足れば安心するものだ。だがそれでは満足できない者も出てくる。セックスなどという手近な快楽で事足りればそれでもいいのだろうが、それにも飽きればより強い刺激、より強い快楽を求めようとする。そこで手を出すのが麻薬、ということだ。私は、そんな愚者たちの需要に応えているだけだよ」
「…アンタ、この星の、地球の人間なのか?」
「つまらんことを聞くものだ。当然だよ」
「『石廊崎事件』を知っているか?」
「それも方々で聞いてるそうだな。だが私とて報道された程度でしか知らんよ。たとえキミがその事件の関係者だとしてもね」
「『ヘカテイアの鍵』とは何だ?」
「それは初耳だな。知らんぞ。初めて聞く」
「そうか…」
「キミの要件は済んだかな? ではこちらも要件を済ますとしよう。すなわちキミには、ここで死んでもらう」
田上はスッと右手を挙げた。
「やれ」
パパパパ
パパパパパパパ
パパパパパパパ
黒服たちが次々と発砲、硝煙が立ち込める。
「…なるほど。ウワサ通りだな」
灰色の霧が晴れたその場所、地面には無数の鉛玉、そして緑の人型が仁王立ちのままだった。
「ならばコレならどうだ」
田上は右手を挙げる。隣の黒服が貨物の陰から取り出したのはショットガン。散弾ではなくスラッグ弾が込められていた。
「やれ」
ドォッ
3mもない至近距離からの発砲。
ドス…
普通なら心臓を撃ち抜き大穴が空くものが、やはり身体表面で止まって落ちた。
「今のはちょっと痛かった。それで終わりか?」
「ほほう」
田上は感心の声を出すものの、焦る様子はない。
「ならば、こっちが行くぞッ! ギャノンブレイド!」
ヴォン…
右手から赤い刃。
「トゥーッ!」
ブレイドを構え向かってくるタケシへ今一度集中射撃。無数の鉛玉が浴びせられるがその脚は止まらず、大上段に振りかぶり、渾身の力を込めて振り下ろす。
しかし。
ガシィィィ
「な、何だッ?」
赤い刃は眉毛ひとつ動かさず平然と座ったままの田上の顔前で、もう一つの赤い刃に阻まれた。
「悪ィなオッサン。遅くなったわ」
刃を辿って持ち主をみる。
そこには、タケシとよく似たスーツ。しかし、タケシのものとは真逆の、光を吸い込むほどの漆黒。それゆえに適度な光の下ではそのシルエットが輪郭を増す。
「遅いぞ」
「間に合ったからいいだろ? さっさと逃げな。ここは俺に任せろ」
「ああ。あとは頼んだ。運び出せッ!」
命令と共に黒服たちは貨物を運び出し、田上は静かに立ち上がると黒服たちと共に倉庫の奥へと消えていった。
「待てッ!」
タケシは追おうとするが
「オメェの相手は俺だよッ!!」
ブンッ
「チッ!」
ガシィィィ
黒スーツの男に行手を阻まれた。
「アンタ、デギールか?」
「アンジェラスだ」
「? アンジェラス?」
いま目の前にあるのはこれまでも見てきたデギールの、アンザグと呼ばれる黒いスーツ。しかしデギールではないと言う。
(どういうことだ? アンジェラスってビブ横をパトロールするボランティアじゃないのか?)
「オッサンを助けたら仕事は終わりなんだけどな。オマエ、最近この辺で暴れてる緑のヤツだろ? はっきし言って迷惑なんだよね、そういうの。だから」
敵は闇の中に赤く光るブレイドを構えた。
「消えてもらうよ。今、ここで」
「アンタに聞きたいことがあるが…まずは動けなくしてからだな」
「カッコつけるなんざ一億光年早いんだよッ! 瞬殺ッ!」
大上段から振り下ろされたブレイドだが、タケシは難なく躱し、ブンッという音だけが空を斬る。
「何ィ?」
「…この太刀筋、素人か。だが手加減はしない」
タケシはブレイドを構えた。
「ギャノォォォォォン…!」
赤いブレイドは色を変え、青く輝きを放ち始める。
「ブレイカーッ!」
タケシは敵に向かい駆け出し
「クソがァァァッ!」
「トゥッ!」
敵の再びの攻撃が到達するより早く、その輝きを胴へ叩き込んだ。
ドゴォゥ
「ぐっ、グオォォォ」
ミチミチミチッ…
光の刃に食い千切られるようにスーツが音をたてて消えてゆく。
「こんな…コイツ…」
ドゴォォォォ…
間もなく爆散した。
爆心地には、一〇代半ばほどの少年が横たわっていた。グレーのパーカーにジーンズ。年相応の珍しくもない服装だ。
「なんだ今の手応え…弱い。それにこれ、まだ子供…?」
自分とそう変わらない年齢だろうにそれは棚上げされている。
「あーっ!? 間に合わなかったかーっ!」
背後から女性の大きな声。振り返れば黄橙色のギャノンスーツ。
「ルミさん?」
守人ルミ。実名ルミエール=シューレン。ロンメルド星から来た宇宙人ということなのだが、そのロンメルドに所在する星間警察機構先攻捜査隊一査という肩書きを持ち、タケシ同様デギールを追っている。
「お疲れ様ー。なぁに、もう終わっちゃったの?」
「はい。ヘブン持った連中には逃げられちまいましたが」
「一人で乗り込んだらそんなもんよ。待っててくれてもいいのにー!」
あなたが遅いせいですよ、という言葉をタケシは飲み込んだ。
「いやいや、そうはいきませんって。黙って見ててそのまんま逃げられちゃったらどうするんすか?」
「まぁそうだけどさー。で? その子は?」
先ほどタケシが倒した少年を指差す。
「それが…デギールかって聞いたらアンジェラスだって言うんですよ」
「アンジェラス? 何それ?」
「それはオレが聞きたいところです。確かにデギールの黒いスーツだったんですけどねぇ…」
「アアッ?!」
タケシがまだ話している最中、ルミが声を上げた。そのルミの視線をタケシが辿ると、地面にポッカリと空いた夜の闇を凌駕する暗黒の穴に、さっきタケシがボコボコにした少年が飲み込まれていった。
「な、なんだ、今の…」
「逃げられた…タケシ君。やっぱりアレ、デギールで間違いない」
「どういうことです?」
「今あの子が消えたのは位相転送。星間警察機構では生体個人に対しての位相転送は禁止している。座標にミスがあればどこに飛んでっちゃうか分からないから危険だもの。でもヤツらデギールは平気でそれを使う。おかげで被疑者も証拠も確保するのが大変なのよ」
「へぇ。そうなんですか。で、アイツはどこに?」
「それが分かれば苦労はしないわ。ともかく敵を倒してここの警察に引き渡したいなら、どこかその辺にでもフン縛っておくことね」
「うへぇ。めんどくさい…」
「捕り物なんかそんなもんよ。何でもかんでもカッコよく
フォンフォンフォンフォン…
遠くから無数のパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「おっと」
「それじゃ私たちは退散しましょ。何の収穫もなかったけど」
「すみません…」
「気にすることないわ。それじゃ行きましょ!」
緑と黄橙、二人のギャノンは月明かりが織りなす影の中へ姿を消した。
◆
ED「あなたの隣で深呼吸」
https://youtube.com/shorts/gZ-NHOOCiGw
とても背の高い男の子を好きになった女の子の歌
癒し系ほのぼのソングなのに本編最終エピソードまで読み切ると歌詞の意味が心に痛い!