エピローグ 田上の逆襲③
「では、そろそろ決着を着けるとしようか。知っていることは全て話した。それを活かすも殺すも、君が私に勝てば、ということになるがな」
「オレは勝つ! 必ず!」
「いい心構えだ。パゾル!」
目前にお馴染みの黒いスーツが現れた。
「私も心置きなく戦えるよ。シュヴェルト!」
赤い刃が現れる…が、先日戦ったアンジェラスたちのものとは明らかに様子が違う。太く長い。タケシのものも長く、それは扱い慣れているからこそ使いこなせる。それを持っているとあれば…タケシの気持ちは引き締まる。
「さあ。かかってきたまえ」
田上はシュヴェルトを構えた。剣道の構えのようでいて少し違う。中段からやや下、微かに右に切先を逸らす。その構えに違和感、というよりは自分と同じ匂いを感じた。
(何…?)
それはタケシの構えとよく似ている。
(なぜこの構え…ならば注文通りに攻めるしかないのか? それなら…)
「ハァッ!」
タケシが踏み込む。『がい⭐︎ます』のガイストたちがしていたのと同じように大上段から振り下ろす。同時に田上も踏み込んだ。剣を自らの体で隠すように頭から突っ込んでくる。
(来たっ!?)
自分が使う構えであるからこそできる反応。振り下ろしたブレイド、その軌跡を左に逸らす。全力全開で振り下ろすことで
ガシィィィ
視野の外、下から跳ね上がってくる刃を防ぐことができる。タケシのブレイドは田上のシュヴェルトを地面へ押さえ付けた。
「これを防ぐとはな」
「お見通しだ!」
「ほほう。君は剣道をやっていたか?」
「それがどうした!?」
「しかも行方流ではないか?」
「何?! 知っているのか!?」
「やはりそうか。教本通りではない、自由な型の実戦剣道。私はその初代の門下生だよ」
「何だって!?」
「先生はお元気で在られるか?」
「2年前に亡くなられた」
「そうか…それは残念だ。お歳を考えれば無理もないが」
「先生の剣を学んで悪に使うのかよ!?」
「人の道などそれぞれだ。だが君と同じく!」
田上はタケシのブレイドを跳ね飛ばし、その勢いのまま逆袈裟で斬りつける。同門であるタケシはその動きの予測が可能だ。可能であるからこそ…
「それを切り拓くために使っている!」
「な…ッ?!」
ドォッ
「グワッ!?」
予測外のことが起こる。振り下ろされたシュヴェルトはブレイドで食い止めた。が、その逆、視界の外から蹴りが飛び、ガラ空きだった胴へ入り、タケシは吹き飛ばされた。
「クッソ…先生のとこじゃ蹴りはなかったぜ…」
タケシはおもむろに立ち上がり、構えを取る。
「ああ。よく叱られたものだよ。ケンカじゃないぞ、とな。おかげで私は破門だよ」
「そりゃそうだろう…これ、アンナって女性に仕込んだの、アンタだな?」
「その通りだ」
「あの女性ほどのキレはなかったけどな」
「老いぼれに無茶を言うのう」
タケシの強がりは正に強がりだった。アンナの蹴りはスピードはあるもののルミに蹴り飛ばされた時ほどではなかった。しかし今はルミと同じかそれ以上のパワーを感じた。直感的にスーツの差だろう、と理解した。
「さあ、続きをやろうか」
すっと田上は構える。さっきと同じ、中段崩れの構え。
「いいぜ…」
タケシもまた構える。同じ構えで。
「君の剣は、甘いな」
「何?」
「そんな剣で人を殺せるのか?」
「殺す気などない!」
「だが相手は君を殺す気でいるのだぞ? それでいて殺す気がないなどと、傲慢ではないのかね? 全ての者に打ち勝てるほど、君は強いつもりなのか?」
「余計なお世話だ!」
「やれやれ、これが若さか。だがそんな調子で島津に勝てるとでも思うか? ヤツは常に相手を殺す気でいる。君自身はともかく、君が大切にしている人を守れずに命を落として、それで君は満足なのかな?」
「ク…」
脳裏を過ぎる。見ることもなき母。姉。父。トモミ。ヒカル。そしてもう一人、ルミの姿が。
「その程度の気迫で来ると言うなら島津が殺る前に私が殺ってもよかろう。忘れるな。私はデギールだぞ?」
「ウ…クソォッ!」
「ほほう。いい気迫だ。まだ君は何か隠しているな。出したまえ。私が受けてやろう。出さぬなら、この場で君を葬り去るッ!」
田上が踏み込んだ。微かに下げた柄の動きから直感的に突きに来るとタケシは踏んだ。
「アクセル!」
だが。
「ゴハァッ!?」
田上のすぐ横でくの字に曲がっている。
「この程度ではな」
タケシは予想通りに来た突きのコースを読みギリギリで躱した。同時に田上の左わき最短距離を駆け抜け背中を取るつもりだった。しかし田上の傍を過ぎる時、田上の膝が飛ぶ。自らの加速も相まって、スーツのアブソーバー耐久値を超える打撃がタケシの腹へ入った。タケシはその場に力無く崩れた。
「ゴハッ ゴハッ 」
「アンナを仕留めたというから期待しておったがこの程度か」
「クソォッ! クソォッ! クソォッ!」
痛む腹に湧き上がる悔しさを吐き出すかのようにタケシは叫び、立ち上がる。
「さあどうした。終わりか?」
「クソオォォォォォォォ!」
もはや型も何もない。ただ振りかぶり、大上段から叩き込む。しかしそれは当然ながら田上は受けて食い止める。
「怒れッ! 叫べッ! 腑を全てぶち撒けろッ!」
「ウウウウウウウウウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
高エネルギーの刃同士がぶつかり合い、擦れ合い、ギリギリと音を立て火花を散らす。
「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
その瞬間、田上がニヤリと笑った。
キン…
タケシのブレイドはついに田上のシュヴェルトを押し斬った。
ドゴオオオオオオオ…
ブレイカーの青い刃はそのまま田上の肩口へ落ちて喰らい付き、見る見る間にアンザグを中和爆発へと導いた。
「ハァッ ハァッ ハァッ ハァッ 」
ブレイドを握ったまま肩で息をするタケシ。
「ハァッ ハァッ アンタ、一体どういうつもりだ?!」
爆圧で地に臥せた田上に問うた。
「…あとは…任せた…」
「どういう意味だよ!? オイッ!?」
田上は応えなかった。いや、応えられなかった。すでに意識なく、ただその顔は穏やかに微笑んでいた。
「今、救急車を」
田上に駆け寄り抱え上げようとした時。
「ソイツには触んなよ」
背後から声。振り返れば大男が立っていた。
「…島津…!?」
「ほう。俺の名を知っているとはな。おやっさんから聞いたか」
タケシはブレイドを構えるが
「おおっと。オメェとやり合う気はねェ。こちとら仕事だ。用が済んでンならとっとと消えな」
島津はポケットからタバコを取り出し火をつける。吐き出した煙が青白く漂う。
「クソォッ!」
戦いには勝った。だが胸に去来するこの虚しさは何だ? それが分からぬままタケシは倉庫の外へ駆け出した。
「さてと。田上のおやっさんよォ、オメェ、どういうつもりだ? また若者たちの未来をなんてェ、甘ェこと考えたんじゃねェだろうなァ?」
無論、田上からの応えは無い。
「まァいいさァ。俺は俺の仕事をすンだけだからよォ。アバヨ」
島津は田上の顔の前をダァンと踏む付けると、黒い穴が口を開き田上を飲み込んだ。
「エンプーサ様よォ。これでいいンかァ?」
〈おっけー〉
【田上直樹について】
この男はギャノンのバージョンが上がる度に出世魚の如く扱いが変わりました。最初期稿では「長田誠也」が田上を名乗っていました。次のバージョンでは『もう一人のギャノン』から『アンジェラス』へ直結する仕様だったので長田誠也ポジでありながらアンジェラスに守られるというポジ。ただ子供たちとの付き合いがあることを考えると人身売買はいかがなものかということでこの表現が削除されました。この辺りから田上の優遇(?)が始まり、何だか今じゃ良い人っぽいですよ。ただアンジェラス編終了時に田上はこのままフェイドアウトしていいのだろうか?という疑問が湧き、このエピローグを書くに至った次第。
田上を描きこんでいるうちに、「あ、あの人に似てる」とか思ったのが、ガンスリのクリスティアーノ。詳しくはガンスリンガーガールを読んでいただきたいのですが、美術館でタバコを吸おうとした部下をいきなり殴って「ウフィッツィの宝を侮辱する気か」と怒る辺りのインテリヤクザっぽさが近い気がしました。ただ寄せるつもりはないので田上は田上として描写するわけです。
今回の田上のエピソードはタケシとの戦闘が始まる辺りでずっとエタってました。何しろどこにオチを持っていけば良いのか分からない。とりあえず戦わせておくか、と戦闘開始。田上はどういう戦い方をするのか…で、ふと脚が出てきたところで方向が決まりました。アンナの体術の師とすれば色々伏線的繋がりが出てきそう。尚且つ田上は仕事として悪事を働いているものの、心の奥底じゃ若者の応援をしたいとか思ってたり。で、タケシを煽りに煽って底力を引き出す、なんて真似をしました。タケシはそこんとこよく分かってませんが。この辺りから逆算して、自分の部下の嫁の心配までしているなんて設定も加えたりしました。田上はその生き様(常に裏の世界にいる)から嫁や子供はいなかったのでしょう、しかし年老いてくると自分の持てるもの全てを若い世代に受け継がせたい、とか思ったんじゃないですかね。そこにタケシも含まれた、みたいな。
田上はこの先のストーリーのどこにも繋がらないイレギュラーな存在なので、ちょっとばかし印象的に退場してもらった、そんなところです。
◆
【次回予告】
「忘れない。今日のこと。キミのことも。タケシくんっ!」
タケシが出会った少女「たみちゃん」は、人気絶頂アイドル「夏本彩」だった。しかし彩はカルト教団「シューニャデーバ」の広告塔に。エンプティヘブン周辺は甘く危険な香り――――
次回、宇宙記者ギャノンZサードシーズン「虚空の天国」。お楽しみに。




