第五章 ホテルオハナ① 純情
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「CHILD」
https://youtube.com/shorts/yy-TQ-HsMWA
お手数ですがブラウザでURLをコピペしてお聴きください
「夜の街とその闇を駆け抜ける黒い影」をイメージして作りました
聴いてから本編読むとテンション爆上がり!
※挿絵はAIにて作成
「フェイズアウト」
倉庫を駆け出たタケシはスーツの相着を解くと、ライダースジャケットの内ポケットから携帯を取り出した。
「…ここから動いてない」
発信機、といえばカッコはいいが、盗難防止に自分の荷物へ付けるタグを、その目的として利用しているのだ。
「ロイヤルリゾート・ホテルオハナ…」
オハナとはハワイ語で『家族』や『絆』を意味する。
「よしっ。行ってみよう」
タケシはホテルオハナへ向け駆け出した。
◆
オハナに着いたタケシ。荷物タグからの反応を追いかけて来たが…
「何だこのエレベーター。15階までしか行かない? こっちは…」
ボタン横に『指紋認証式 ご登録のない方はご利用できません』とある。
「むぐぐ…ともかく15階へ」
上がってみたが、ここも同じ。上階へは指紋認証のエレベーターを使うしかない。
「反応的にはこの上で間違いないんだけど…」
見回すと廊下の奥に『非常口』の緑色看板が灯っている。
「…そういう感じになっちゃうのかな…」
今のタケシの脳裏には、以前アメリカ映画で見たシーンがプレイバックされていた。
◆
ホテルオハナ17Fスイートルーム。
今夜は珍しくカーテンを開け、少しだけライトダウンした部屋。
窓から見下ろす街の夜景。この中で今、あの子たちが戦っているのか、と思いを馳せる。
その夜景が映える窓ガラスに、アンナはアンジェラスの子たちが戦うイメージと今夜の自分の姿を重ね合わせ、眺めていた。
高番手インド綿布の白いカットソーにウールとシルク混紡の黒く艶やかなジャケット。腰の黒いレザーホットパンツから艶かしく伸びる両脚は粗めの網タイツを纏い、その先に黒エナメルのヒール。いかにもな服とは裏腹な、可愛い猫のモチーフのシルバー925のネックレス。
「これが、私の勝負服」
フォキウスが買い与えた服、だった。
ピンポーン
不意にインターホンの呼び鈴が鳴った。
「誰?」
〈カズサです〉
「王様の耳は」
〈パンの耳〉
「…いま開ける」
開けたドアの先にはボロボロのカズサが立っていた。
「アンナさん…俺…」
「話は中で聞く。入って」
◆
非常用階段の踊り場には秋の訪れを告げる冷たい風が吹き抜ける。タケシは階段を登り16Fの非常ドアへ。しかしノブを捻ってもドアは開かない。
「ここもセキュリティが効いてるのか?」
タケシの推測通り、最高水準のセキュリティが備わったエグゼクティブとスイートのフロアは、外からでは侵入できなかった。
「…あそこまで行くのかぁ…」
屋上へ続く階段を見上げる。
ふと、携帯の呼び出し音。画面には『守人ルミ』の文字。
ピッ
「もしもし」
〈タケシくん、今どこ?〉
いきなり用件からだ。名前くらい名乗れと思いつつも
「ロイヤルリゾート・ホテルオハナってとこです」
〈何でそんなところに?〉
「一人逃げたヤツがいて、それを追っかけたら、ここに」
〈なるほどね。それで? アジトとか分かった?〉
「ここの一番上が怪しいんでこれから侵入しようというところですが」
〈分かった。私もそっちへ行くわ〉
「了解です。ルミさん、倉庫の現場には来なかったですよね?」
〈いやいや、行ったわよ? 私が着いたときには何か終わっちゃってる感じだったけど〉
「何かあったんですか?」
〈もーねー、聞いてよー!〉
タケシは「しまった!」と思った。さっさと切り上げればよかった、と。
〈ただでさえ校正が押してるのにさー、やっと片付いた、さて現場向かうかってなったところで珍しく編集長に呼び止められちゃってさー、説教よ、説教! しかも来客用の茶碗の茶渋がどうとかちっちゃいことでよッ!? そんなことで立ったまま説教される身にな〉
これは長くなりそうだ、と思ったタケシは
「あの、そろそろ侵入しますんで」
と強制的に話題を切った。
〈そお? 分かった。後で合流ね。それじゃ プチ ツーツーツー〉
「…何なんだ…?」
とにかく気を取り直し、非常階段を登り始めた。
◆
「あなた一人だけ?」
「はい…」
「みんなは? …って、聞かなくても…そういうこと、よね…」
「アンナさん…俺…」
「カズサ。ちょっと、目を閉じて」
カズサは言われるままに目を閉じた。こんな状況だが、うっすらと期待するものもあった。
パンッ
カズサの左頬に平手が飛ぶ。
期待とは違うモノを喰らい面食らうカズサだが、開けて良いとは言われてない以上目は閉じたまま。
「なぜ逃げなかったッ?!」
「俺はアンナさんを」
「言い訳は要らないッ! 私はッ! あなたに守って欲しいなんて、1ミリ程も思っていないッ! ただッ…!」
言葉を詰まらせるアンナ。
「…ただ…あなたに、あなたたちには生き延びて欲しかった。幸せになって欲しかった。ここでなくても、アンジェラスでなくても幸せになれる場所はあるはず。今まで稼いだ報酬の蓄えで、何か新しいことを始める未来だってあった。私はね、ちゃんと知ってるよ、あなたとセリナ、二人のコト。あなたたちには、幸せな家庭を築いて欲しかった。私のことはね、いいのよ、身から出たサビだから。あなたは私なんかを構ってちゃいけないのよ… …でも」
スッとカズサの両頬を柔らかくて暖かいものが包み込んだ。
「帰ってきてくれたんだね。約束を守ってくれた」
ふ…とカズサの唇に、柔らかくて暖かいものが触れた。
驚きのあまり目を開けてしまったカズサの視界には、涙でグチャグチャなアンナの笑顔が遠ざかっていくのが見えた。
「アンナさん…」
「戻って来たら続きを教えてあげる」
そう言うとアンナは俯いた。
「…俺、エレベーターで下降りてここを守ります。誰一人通しません」
カズサは静かに告げ
「そう。お願いね」
「任せてください」
アンナに背中で答え
「パゾル!」
スイートを出て行った。
顔を上げ、笑顔で見送るアンナ。
「私は…まだあの子を利用している…ホント、イヤな女…」
心に自己嫌悪の雲が広がる。
「あーらららー、イイトコロ見逃しちゃったかなー?」
「モルモ様っ?!」
◆
「反応的にはこの真下辺りなんだけど…」
非常階段を登り切り、タケシは屋上へ着いた。スイートの窓からの夜景を1フロア分上回る高さの絶景が眼下に広がるのだが、興味は無いようだ。
転落防止のフェンスから身を乗り出し、下を見る。
「高っ!」
地上からの高さではない。スイートは天井が高いため、タケシの位置から窓枠までが遠いのだ。
「こっからぶら下がってってわけにはいかないか…何かロープとか必要か」
せっかく目的地直上まで来たのだが、ロープ探しと相成った。
◆
一方地上ではルミがオハナのロビーに到着していた。
「それじゃエレベーターで、と」
乗り込んだルミは一番上にあった数字を押し
ポーン
指定された階へ着いたのだが。
「アレ? まだ上があるの?」
ルミが乗ったエレベーターは一般用で15Fまで。降り立って見れば隣のエレベーターは17Fまで行けることに気付いたのだ。
「ちょうど降りてくるところだし、待つか」
▲を押したが指紋認証だとは気付いていない。
「あ。敵地に乗り込むのにこのまんまじゃね」
周囲を見回し
「フェイザー! ガテーヌ!」
黄橙色のスーツを相着した。
◆
ED「あなたの隣で深呼吸」
https://youtube.com/shorts/gZ-NHOOCiGw
とても背の高い男の子を好きになった女の子の歌
癒し系ほのぼのソングなのに本編最終エピソードまで読み切ると歌詞の意味が心に痛い!




