第一章 アンジェラス① 阿礼里見
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「CHILD」
https://youtube.com/shorts/yy-TQ-HsMWA
お手数ですがブラウザでURLをコピペしてお聴きください
「夜の街とその闇を駆け抜ける黒い影」をイメージして作りました
聴いてから本編読むとテンション爆上がり!
※挿絵はAIにて作成
もうすぐ秋本番を迎える空は日に日に陽の落ちるのが早くなっている。秋晴れだった西の空は夕焼けの赤に夜の闇が紛れ込み、紅蓮に染まっていた。
(今日は横浜臨海地区の明星倉庫、か)
風音タケシ19歳。
大学に通う傍ら週間マンスリーに記事を入れるフリーライター。しかし悪の組織デギールを追う『宇宙記者ギャノン』という顔を持つ。今日も夜の闇に蠢く悪を探しに出掛けるところであった。
「あー。タケシお兄ちゃんだー!」
背中から呼ばれ振り向くと
「うっふっふー。タケシお兄ちゃん、こんにちわー。あ、こんばんわーだったかなー?」
「里美ちゃん。こんばんは、かな?」
近所に住むと言う少女、阿礼里見。生来脚が悪く、幼い頃から車椅子の生活なのだそうだ。そしてその脚を見られたくないのか、一年中、それこそ夏でもロングスカートの上に膝掛けを載せている。
「タケシお兄ちゃんはおでかけー?」
「ああ、うん。アルバイトだよ」
タケシは腰を屈め笑顔で応じる。かつて共に暮らしていた妹・ヒカルと同じ位の年頃の女の子には殊更優しく接していることを、当の本人は気付いていなかった。
「そっかー。毎日よく働くよねー。そーそー、お兄ちゃんち、すむ人ふえたー?」
ギクリ、とした。特に隠し立てしてはいないものの、こんな近所(?)の子供にまで知られているとは。
「うーん、ちょっとね」
「かのじょちゃん?」
「あー、それは違うな」
即答だった。
「えー、そーなんだー。かのじょちゃんとおっとなーな夜のかんけいとかしてるのかとおもったー」
言っている意味は察するものの、どう答えて良いものやら。こんな小さな子が?と動揺する。
「あー…里見ちゃんは物知りだねぇ」
「うっふっふー。里見ちゃんは物知りなのよー。おんなのこはいつでもみみどしまー、なのよー。それでどんなかんけー?」
「どんな…と言われても…」
会社の上司がいきなり押し掛けてきた、では通じまい。かと言って悪者探しの仲間と言うのも…思案するタケシの頭に、ふと浮かんだ言葉があった。
「…家族…?」
家族かと言えばどうなんだ?と思わなくもないが、ただルミとの関係を『家族』と呼ぶのは案外悪いものでもないかな、とタケシは思った。
「かぞく…ふーん…」
一方、里見はタケシの応えに納得がいかないのか、返事にキレがない。
「まぁ、ちょっと知り合いの人が来てて一緒に生活してるんだ。このことはナイショにしておいてくれるかな?」
「うっふっふー。二人だけのヒミツなのよー。オトナの香りがしちゃうのよー」
「あ、ああ、うん、そっか。じゃ、ゴメンね、もう行かなくちゃ」
「気をつけて行ってくるのよー。世の中ぶっそーなのよー」
「ああ、ありがとう。それじゃ」
「はーい。タケシお兄ちゃん、ばっははーい」
微かにモータ音を立て、里見の乗る電動車椅子が去って行った。
「はぁ…やれやれ。最近の子はマセてるもんだ…あの子、どこに住んでんだろうな? まぁいっか。後を追って場所特定とかストーカーになっちまうもんな」
なんとなくの落とし所に落ち着いたタケシはバイクに跨り、夕闇の紅に染まる街へ向かった。
◆
「こんばんはー。入稿に来ましたー」
18:00過ぎ。週刊マンスリー編集部。定時は過ぎているが何せ忙しい部署だ、この時間に帰れるわけがない。
「はいよ。確かに原稿預かりましたー。校正終わったらルミさんから連絡行くと思うよ」
まだ残っていた小林にタケシは原稿と写真など一式を渡した。
「了解です。よろしくお願いします」
「そうそうタケちゃん。アンジェラスって知ってる?」
「いえ、初耳ですけど」
「そっか。タケちゃんの追ってるデギールと関係あんかな?って思ったんだけど。あそこ、ビブ横ってさ、パパ活で客待ちの立ちんぼがいるじゃない?」
「あ! あそこ、そういう感じのところだったんだ!」
小林がしまったという顔で目を逸らす。
「イケネ、悪いコト教えちゃったかな? まぁともかく、そういう子たちがタチの悪いおっさんなんかに絡まれたりするとさ、どこからともなく数人の若い連中が出てきて、おっさんをどっかに連れてってボコボコにするらしいのよ。その連中がアンジェラスって名乗ってるんだってさ」
「へぇ。初めて聞きました」
「タケちゃん、結構夜の活動多いみたいだからさ。巻き込まれないように気を付けなよ」
「はい。ありがとうございます!」
◆
19:00過ぎ。気にはなるのでタケシは小林から聞いた話を自分の目で確かめてみようと横浜ビブレの脇の通路、通称『ビブ横』に来てみた。
「なるほど…それっぽい子がいるな…」
通路に沿って設置されたベンチには、スマホを見ながらチラチラと周囲の様子を伺っている女の子が数人。残暑厳しい季節柄みな薄着ではあるがきっちり化粧をし、それなりに着飾っている。
とりあえず見るだけ見たら今日の目的地へ移動するかとその通路を歩き始める。すると前から3人組が歩いてきた。先頭はガタイのいい男。その後ろほぼ横並びでタケシと同じような背丈の男と、髪が長く少々豊かな身体つきの女がついてくる。3人ともジャージなのでどこかの運動部か?と思ったが、男の一人は黒のアンダーアーマー、もう一人が黒のナイキ、女は白いコンバースとバラバラ。ユニフォームとかそういうものではなさそうだ。アンダーアーマーの男はそのガタイの良さと首のチタンネックレスから「野球をやっている?」とタケシは推測する。
その3人組ともう少しですれ違うというタイミングでベンチから女の子がスッと立ち上がり、先頭の男にお辞儀をして話しかけた。何事かと興味の湧いたタケシは歩を緩め、聞き耳を立ててみる。
「あの、先日はありがとうございました! 私、あの時すっごく怖くて!」
「ああ、あの時の。別に気にしなくていい。ケガとかない?」
見た目のイカつさの割には優しい気遣いをするものだ、とタケシは思った。
「はい! おかげさまで!」
後ろにいた女が前に出てきた。
「中には客でもないのに絡んでくるヤツもいるからさ。気を付けな。ヤバかったらすぐ逃げること」
「はい! あ、あの、『ビブ横の母』さんですよね?」
「あはは。やめてよその呼び方。もう引退してるんだからさ」
「あ、そうだったんですか!」
立ち聞きかと絡まれるのは勘弁と歩き去ったので聞こえたのはここまで。
(この3人がアンジェラス、なのか?)
なるほど小林の言った通りではあったがインタビューでもあるまいし、どういう目的の集団なのか分からないのにそれを聞くのもな、と、タケシはその場を去った。
(ちょっと調べてみて面白そうだったら話を聞いてみるか…)
◆
ED「あなたの隣で深呼吸」
https://youtube.com/shorts/gZ-NHOOCiGw
とても背の高い男の子を好きになった女の子の歌
癒し系ほのぼのソングなのに本編最終エピソードまで読み切ると歌詞の意味が心に痛い!