第四章 庭師殲滅作戦① 作戦前
YouTubeにて音声動画上げてます
OP「CHILD」
https://youtube.com/shorts/yy-TQ-HsMWA
お手数ですがブラウザでURLをコピペしてお聴きください
「夜の街とその闇を駆け抜ける黒い影」をイメージして作りました
聴いてから本編読むとテンション爆上がり!
カランカランカラン…
ドアの重さとは対照的に軽やかな鈴の音が来客を知らせる。
「いらっしゃいませー!」
「マスター。Aランチをパンとコーヒーで」
「毎度ありがとうございます!」
ルミは窓際の席へ陣取る先客の元へまっすぐ進んだ。タケシである。
「お疲れ様です」
「何か動きが?」
タケシは黙ってスマホの画面をルミに翳した。
「今日…? 随分と急ぎじゃない?」
「それもあるんですが」
「何か気になることが?」
「イレギュラーなんですよ。情報の出方が。取引の情報ってある程度周期性があって、多分それはヘブンの生産体制と関係してるんだろうなと思ってるんです。でも今回のはちょっとタイミングが早い。それと、これ」
タケシが示した情報の記載先URLに「.pref」とある。
「どういうこと?」
「これって政府とかの行政機関で使われるヤツなんです。それで、辿って行った先が、県警のホストでした」
「県警が絡んでいると?」
「それは分かりません。が、怪しいとは思います。ワナ臭いな、って。どうします?」
「どうもこうもない、行くわよ」
「ガセかも知れなくても?」
「当然。怪しければとりあえず行ってみる。ワナかもしれないと思ってもね。それが警察ってものよ。あなただって行くんでしょ? 『取材』に」
「まぁそうですけど」
「場所と時間は?」
「時間は追って知らせる、とあります。場所は」
タケシがスマホで地図を表示、ある地点を指す。
「編集部からそう遠くないのね。歩いて行けそう」
「オレも歩きで行きます。バイク置いてきちゃうのイヤですから」
「分かった。それじゃ時間が分かったら連絡ちょうだい。一緒には行けないかもしれないけど」
それを聞いて内心ホッとしたタケシだが、それを悟られまいと努めて冷静に
「分かりました」
とだけ返した。
◆
同じ頃、県警捜査一課。
「高橋。古賀。ちょっといいか?」
ノートパソコンを置いたデスクに、林は部下2人を呼びつけた。
「ちと、これ見ろ」
パソコンの画面を2人に示す。
「どう思う?」
「どうも何も、捜査に出なきゃと思いますが」
「高橋は?」
「俺も古賀と同意見ですが、何か?」
「うむ…俺も怪しいとは思うが、この程度の情報では令状が取れんだろうから中には入れん。張り込みってことになるが、それでは結局取り逃がすというオチだろうなと思うんだ。結構デカい倉庫だからな、これ」
「どうするんです?」
林はクイクイと人差し指を曲げ、二人を近くに寄せる。
「ちとお前らジャンケンしろ」
「は?」
「忍び込むぞ。負けた方が俺と一緒に入る。なんかあったら始末書は覚悟だな。で、もう一人は外で待機。何かの際には応援を呼んでもらう」
「始末書程度なら、別に」
「林さんについて行きますよ」
「バカ言え、お前らは俺と違って妻子ある身だろ。巻き添いになんかできるかよ」
「それはそれ、です」
古賀は真顔だ。
「正気か? まぁいい、ともかく追加の情報が入り次第動くから準備しとけ。俺の方の仕事は緊急も含め、梅木に任せておく。ああ、そうか。俺のクビが飛んだら、お前ら二人、梅木んトコで預かってもらえばいい!」
「いや、それは…」
「ちょっと勘弁を…」
古賀も高橋も引き攣った笑い。
「嫌なのかぁ?」
対する林はニヤニヤと嬉しそうだ。
「あ、いや…ヘマしないよう、がんばりますんで!」
「分かった。よろしく頼む」
「「はいっ!」」
◆
現場では朝から準備がおこなわれていた。
場所はホテルオハナに程近い臨海地区にある「一ノ丸倉庫」。アンナの言う通り小学校の体育館ほどの広さで、地上から見上げれば貨物を持ち上げるクレーンとそれを支える梁が、壁の支柱から伸びているのが見える。倉庫内はあらかた運び出され、間に合わず置き去りになったものは田上が買い取った。一方コンテナやカートはそのままになっており、それらやホムセンで用意したものを用いて彼らの思い描く『ワナ』を構築しているところだ。
結構な重労働なのだが、班に分かれたメンバーはみな文句も言わず、それぞれ自分の担当する仕事を熱心にこなしている。
結局班は3つに分けられ、次のようになった。
■そごう班
カズサ(班長)、マリン、ミウ、ミツキ
■モアーズ班
サキ(班長)、ユウタ、ミキヒサ
■ジョイナス班
セリナ(班長)、ショウ、アイ、マナミ
取り決め通り、サキはミツキにトレードを申し入れ快く承諾。セリナとマナミは会議で揉めたことが心の枷となり、トレードを言い出せず元のままで収まった。
班名のアイディアはミツキによるもの。自分たちの生活の基盤となっている横浜駅周辺に因んだという。分かりやすいと誰もが賛成した。
ココノの名が無いが、小柄でバランス感覚の良い彼女はクレーンを支える梁から上空監視。上からの情報を伝える係となった。ビブ横に来る前は体操部にいたそうだ。
もう一人。アンナの名が無いのだが――――
◆
班分けのくじ引きの時のこと。
「あっれーっ?」
アンナは素っ頓狂な声を上げる。
「私の分のクジはーっ? 私も現場に行くつもりなのにぃー。カズサーっ?!」
「ありませんよ、アンナさんの分」
「あのねー!」
アンナは腰に手を当てオカンムリだ。
「私、派閥はダメって言ったけど、だからといって仲間外れが良いなんて言って」
「あのっ、違うんです、違うんですよ、アンナさん!」
セリナとサキが駆け寄り宥めに入る。
「アンナさんにはここを守ってもらおうと思いまして」
「あの、アンジェラスメンバーの総意なんです」
「作戦終わって、ただいま~!って帰ってきて、アンナさんがおかえり~!って言ってくれたら、嬉しいな~って」
そばで聞いていたミウがもじもじしている。
「あなたたち…」
「アンナさん、なんかお母さんみたいになってますけど…ごめんなさい!」
サキが下げた頭の上で両手を合わせた。
「そう…? …ふふふ。分かったわ。それじゃここは私が預かる。カズサ!」
「はいッ!」
「現場の指揮はあなたやんなさい」
「はいッ! 任せてくださいッ!」
「みんなはカズサの指示に従うこと。いい?」
「「「「「はいっ!」」」」」
「うん! いい返事だ!」
◆
「カズサ! ジョイナス、準備OK。全員集合したよ!」
「了解。それじゃみんな。一旦解散で、夜またここに集合する。時間はアンナさんから21:00作戦開始と言われてるから、その1時間前、20:00。それまではしっかり休憩とって、身体を休めてくれ。それじゃ解散! また後で!」
カズサが全員を前にして通達した。
「メンバーの身体に気を使うとか、カズサ、アンナさんみたい。ぷくくく」
サキが隣のセリナに話し掛けた。
「だってアンナさんカッコいいもん! 真似したくなっちゃうの分かるよぉ」
「まぁねぇ。で、囮情報はアンナさんが流してるんだよね。来るかな? アイツら」
「大丈夫だよぉ。だってアンナさんだもん」
「そりゃそうだけど…セリナってばマジでアンナ教の信者よね」
「そうよ? ガチ信者で原理主義者よ? いっぱい拝まなくちゃ! なむー」
「アンナさんから拝むの禁止令とか出されたりして」
「その時は地下室作って拝むもん」
「あははは。あ、ごめん、えっと、また後で!」
タッとサキが走って行った先にはユウタがいた。
「…そりゃそうだよね、好きな人と一緒のがいいもんね…」
セリナは、自分の前では見せないサキの笑顔に目を細めた。
「私は…」
カズサの姿を探す。しかし彼は今もメンバーに囲まれあれこれと指示を出していた。
「…アンナさんに任されちゃったら仕方ない、もんね。うん…」
セリナは少し寂しげに倉庫を後にした。
ゾロゾロとオハナへ戻る人の流れに逆行し、マナミがセリナが仕掛けたトラップの下へ。仕掛けられたモノを見上げていた。
◆
20:00。既に全員が集合している。というか集合時間の30分前にはほとんどのメンバーが集まっていた。誰も彼も、これから始まる大きな作戦を前に落ち着かず、ついつい来てしまった、といったところだ。
全員集合したのを確認すると
「これから『庭師殲滅作戦』開始する。全員配置に付け!」
カズサから号令が掛かる。
「了解! パゾル!」
「パゾルッ!」
「パゾルっ!」
次々とアンザグを相着し、アンジェラスの面々は各班の持ち場ヘ散っていった。
ちなみにこの作戦名はミウの勘違いに由来する。
◆
班毎に分かれ、それぞれ顔合わせのミーティングが済んだところで進行役のカズサ。
「それじゃ作戦全体の説明をする。ミツキ。頼む」
「はいはーい。それじゃ私から説明するって感じねー」
ミツキがみんなの前に立った。セミロングの髪を、今日はサイドへと編み込んでいる。
中学のとき担任を手玉に取り、生意気な自分に対するイジメを封殺。進学校へ合格するも頭の回転が良すぎる彼女は周囲がバカに見えるとひと月待たず退学し、ビブ横に来た経歴を持つ。他人を見下すのが悪いクセだったが、アンナと出会ってからは随分と丸くなったものだ。
「なんで説明がミツキなーん?」
ココノがブラブラと手をあげた。
「んっふふー。今作戦の立案者は私って感じなのだよ!」
と胸を張るミツキ。
「「「「「ほぉぉぉ…」」」」」
一同驚嘆にどよめいた。
「ミツキってそんな頭良かったっけ?」
サキが茶々を入れる。仲が良い相手なので遠慮がない。
「失礼なー! これでも私だって」
「ミツキ。話を進めてくれ」
カズサが冷静に進行させる。
「…だってさ。もーっ! ええい、ヒヨッコども! 耳ぃかっぽじってよく聞けよ! まずはこんな感じで、よいしょ、倉庫内を色んな物で封鎖して、通路を作るって感じよ」
ワイシャツに付いてきた型崩れ防止の厚紙にマーカーで描いたフリップを掲げた。
「色んなものって~?」
天真爛漫なミウは気軽に質問してくる。
「なんかねー、倉庫内に残ってるものは使っていいって感じ。ですよね、アンナさん」
「私はそう聞いてる」
「で、倉庫だからパレットとかコンテナとかありそうじゃん?」
「パレットって~?」
ホントに気軽に聞いてくる。まるで一対一の会話だ。
「フォークリフトでものを運ぶ時に、なんか板敷く感じじゃん? アレ」
「あ~あ~、アレか~」
「それで、こっからが重要。テストに出るよ! 初期ポジションは、ジョイナスがOBハウス。モアーズはDVD。一番奥のそごうはアウラとギーゴで分割。そしてスタバとDVD、アウラとギーゴでそれぞれトラップを張っておくの。まずガーディアンが入場したらまずはハデハデミエミエになっちゃうサプライズプレゼント。通路が一方向だからそのままパーティー会場を進んでもらう感じ。パーティーが始まったらジョイナスはスタバへ移動。フィーバーの交差点で、全員スタバかDVDの方へ動くなら、それぞれのトラップで仕留めちゃう感じ。バラけるようならジョイナスとモアーズでそれぞれ叩いてもらっちゃう。その辺の見極めは上空監視のココノに見ててもらう感じ。バラけずにパルナード方面へ進むなら作戦第2弾ね」
先ほどからミツキが使っている謎の符牒。これは、そもそも倉庫内のマップが、彼らが普段遊んでいるビブ横近くを模したものなのだ。よって場所の指示も「実際のものにしちゃえば分かりやすいんだけど?」というアイのアイディアからだ。
「ジョイナスははまりん伝いにパルナードへ向かってもらってシェーキーズ前でスタンバイ。一番奥まで進まれた時に挟み討ちにする感じ。モアーズはすた〜べるずに移動して、ゲストが日焼けサロン前に差し掛かったところでバックアタック。これはマナミのアイディア通り、膝裏を狙う。ここ…ってヒカガミって呼ぶの知ってた? 反応薄っ! ゲストがそのままパルナードへ進んだらそごうの出番。アウラとギーゴに仕掛けたトラップを発動。ここが本命だからトラップはいっぱい仕掛けたい感じ。そごうのトラップも抜けて来たのがいたら、さっきも言った通りジョイナスの出番。そごうとジョイナスで挟み討ち、討ち漏らしをモアーズにフォローしてもらうよっと、そんな感じよ。 …どう、かな…?」
いつもは自信満々で話すミツキが珍しく弱気、上目遣いにみんなの様子を伺う。
「…あ、あれ? ダメぇ…って感じ?」
聴衆は静まり返っている…のだが。
「あ、ゴメン、なんかスゴすぎて声出なかった」
サキは感心しきり。
「私、もう勝った気でいるんだけどっ!」
アイも興奮を隠し切れない。
これはイケるよとみんなワイワイ色めき立っている。
「ねぇねぇミツキー、ガーディアンが100人くらいで来ちゃったらどうすんのー?」
「来ちゃった…ら…?」
ココノの質問にミツキが黙ってしまったのでみな固唾を飲む。ガーディアンの規模は分からないので可能性としてはあり得るが…
「そんときゃ逃げるよッ!」
そりゃそうだとみんな大笑い。
「まぁ実際、100人はともかくヤバくなったら逃げて欲しいのよ。これはマジな話で。ショウやマナミは分かってると思うけど、ガーディアン、マジエグいからね」
とのアンナの発言に、全員からハイッと歯切れの良い返事が返る。
「ほわぁっ?!」
ミウが急に真顔になり、隣にいたマリンに尋ねた。
「ねぇねぇマリンさ~ん。ガーディアンって庭師のこと~?」
「ん? ニワシ…って何?」
「植木の枝とか切る人~」
「ああ、その庭師…っても違うんじゃないかなー? ねぇセリナ。ガーディアンって庭師でいいの? 合ってる?」
「え? …ガーディアンは守護者って意味で、庭師だとガーデナー、かな。多分」
「きゃ〜! 恥ずかしぃぃぃ〜! ミウ、間違って憶えてたよぉ〜」
「でもいいんじゃない? あんなヤツら、庭の枝でも切ってろってのよ。そうだ、庭師殲滅作戦、とかどう?」
マリンはグイッと拳を握ってミウの前に翳す。
「イイじゃーん! それで行こうよーそれでー!」
様子を見ていたココノが二人の間に元気に首を突っ込んだ。
その後採決したところ、ミツキの作戦同様、満場一致で可決、だった。
◆
ED「あなたの隣で深呼吸」
https://youtube.com/shorts/gZ-NHOOCiGw
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癒し系ほのぼのソングなのに本編最終エピソードまで読み切ると歌詞の意味が心に痛い!




