シスタードランク
酒を毎日飲む修道女が1人、いた。
特定の場はない、だが夜になると必ず町のどこかの居酒屋にはその女がいた。
別に酒を飲むことに宗教的な問題はなかったし、ちゃんと昼間は真面目に仕事をこなしているものだから、悪評がついているわけでもないが、
「酒飲みのシスター」
という文言だけが勝手に印象を悪くしていった。
「別にそんな不真面目でもねーんだけどねー」
とは本人の談。
「生臭坊主に見えるんだろうな」
「マスター、ひでぇこというねぇ」
「ごめんごめん、ほれ、おまけの枝豆」
マスターが皿を取り出すと嬉々として受け取り、上機嫌でつまみを食べ始める。
「マスターいい人!」
「現金だなぁ」
実際、このシスターはただの酒飲み。酒場でトラブルを起こしたことはなかった。だからマスターも普通の若者のように飯と酒をかっくらうシスターを受け入れていた。
そんなほのぼのとした空間を、怒号が台無しにした。
「ふざけんじゃねぇ!!!」
とかなんとか。内容はわかんねえがテーブル席の一角で男3人の言い争いが始まる。
「おーおー、盛んだねぇ」
「店主的には控えて欲しいんだがね…」
マスターはため息をつくが、深酒したやつなんて大概こんなもんだ。神だって少しだけハメを外してるだけのやつらにバチを与えるほど暇ではないだろう。
そう内心で勝手なことを思いながら、騒いでる連中を肴に飲んでいたが、
やがて殴り合いが始まった。
ちょっとやりすぎだな。
酔っ払いでも一端のシスターである。諌めようと覚悟を決めたところで
「落ち着いて、暴れないでください」
とマスターが割って入った。
ぎょっとはしたが、3人の喧嘩の手は止まった。
流石マスター、と思ったら
「俺たちの問題だ。止めないでくれ」
とか言い出した。
「では店の外でお願いします。」
おい?
「なんだ客に対して…」
おいおい。まずい。
「お客様は神様だろ?」
その言葉と共に1人の手がマスターを襲う。
そして、
その最後の言葉にブチギレた私がその男の頭を蹴り抜いていた。
修道服でも出来る蹴り技、ドロップキックである。
まぁ今は私服だが。
いかに荒くれでも、不意に女性の全体重が乗った蹴りを顔面で受ければ後ろに転ぶ。
ドロップキックした私も体勢を崩す。
立ち上がると、その場の全員が呆けていた。
「てめぇが神、だぁ?」
蹴り飛ばした男ににじりよる。
「私は敬虔な一神教徒でよぉ…。手前みたいな神なんて認めてねえんだよ!おり…うっ!」
もちろん。シスターは既に出来上った状態である。
酔っ払いがドロップキックしたのだから当然、激しく動いた分の代償がある。
詰まるところ、腹から例の物が上がってきていた。
なので大迫力で怒られた3人組が金だけ置いて逃げ出したが、もう動く力はシスターにはなかった。
「ありがとう」
とマスターがしきりに感謝してくるが。
「ご、ごめんマスター、トイレ」
まず中のものを処理するところからだった。
後日、この件の噂が流れたらしく先輩からは素晴らしいと褒められた。
酔ってただけなんだが。
と同時に何人か含み笑いをしていた。よくない方向の噂も流れているらしい。
マスターに聞いてみるか…と件の居酒屋に入ると、
「シスタードランク。この前はどうも。」
そう、きたか。
「…なるほどね?」
「いい名前だろ?」
悪くなかった。