異能者IZM 第6話 〜汐梨 動く!〜
第6話
昨日は汐梨にとって人生最良の日。だがしかし次の日には絶望の日になった。
いつもより早く家を出て、いつもより浮き足だって学校へ向かう汐梨。誰もいない教室まで辿り着き、自分の席についていそいそと鞄を置いて覗き込む。
それを見てニマニマと笑みを浮かべる姿はちょっと怖い。そして今か今かとと小柴さんを心躍らせながら待っているが、1人2人と生徒が教室に入っては来るが、小柴さんはまだ登校して来ない。そしてその待ち人が来ないままHRが始まったのだ。そこに重々しい空気で現れたの教師の平田。
「…みんな おはよう …実はさっき早朝職員会議があって 昨夜の夜からうちのクラスの時田沙更さんと 杉田優香さんと小柴あかりさんが家を出た後 行方がわからなくなったそうだ…」
平田先生からの連絡で教室は、一気にざわつき出し、汐梨はいつも俯いていた顔を上げた。
(え…? 今… なんて…?)
「…家族の話では3人はここの学校に向かったそうなんだが それ以降 連絡がつかないそうだ みんなも知ってる通り 別のクラスの生徒も未だ行方不明で まだ見つかっていないそうだ」
生徒A「せんせーそれって学校で行方不明になったって事?」
女生徒A「やだーこわぁあい これで6人目?」
生徒B「神隠しだー!」
生徒C「んなわけないじゃんっどっかに変質者がいんじゃね?」
ザワザワ騒ぎ始めたところで
「あーちょっとみんな話聞いてくれ …よって今日の一時限目自習 これから警察が来る予定だが 落ち着いて教室にいるように」
そう平田先生は指示し、後は学級委員長に任せて教室を出ていったのだ。
汐梨はボーゼンとし、動けなくなった。そしてぶるぶると震えだし、最悪の想像ばかりが頭に浮かんだ…
(も…もし…妖怪や妖の仕業だったら…も…もう 小柴さんは… いっ いやだっ)
そんな時1人の生徒の声が耳に聞こえてきた。
「かくれんぼだよ かくれんぼ」
そう言うのは真太郎。
「…まだ言ってんの」
呆れて返すのは秀雅。
「昔おじいちゃんが言ってたんだよ かくれ鬼っていう妖怪が 人を捕らえて食べちゃうって」
「あーそういや しんちゃんのおじいさん家は寺だったけ その手の話 結構聞くよねー」
秀雅が半分バカにしながら応えので真太郎はブーブー文句を言う。それに聞き耳を立てていたのは汐梨。
(隠れ鬼…? あ…確か昔おばあちゃんに聞いた事あるような…)
そして何かに気づき思わずガタンッ!大きな物音を立てて立ち上がった。その時音があまりにも大きかったので、クラスの視線を集めたが、汐梨は気にせずそのまま教室を出ていった。
「うわ…びっくりしたー地味峰さん出て行っちゃったよ?」
「トイレにでも行ったんじゃないのー」
〝地味峰さん”とは汐梨の事。学校の中で地味でモサくて浮いてる汐梨は一部でそう呼ばれているのだ。そして全くといっていいほどどうでもいい存在なのだ。
真太郎「そーいえば!今日白王子来てないじゃん!待って王子も行方不明?」
女生徒A「えーやだー!!神代くん無事でいてー!!」
秀雅「えっでも先生王子の事は言ってなかったじゃん?無事なんじゃないの?」
神代泉雲が出席してない事でクラス中が騒ぎ出す頃、汐梨は教室から離れて学校内に唯一ある公衆電話の前に立っていたのだ。そしてお金を入れながらプッシュボタンを押す。
『…はい もしもし?』
「あっ おばあちゃんっ 私 汐梨!」
『あら あんた なっとしたん?』
「あのねっ 前教えてくれた 鏡の渡り方 もう一度教えて欲しいのっ」
『…また急やなーなっとなー?』
「〜あーおばあちゃん ごめんだけど もうちょっとわかり易く喋ってほしい」
方言にいつまでも慣れない汐梨がお願いすると、めんどいなーとぶつくさ言い。
『で なんね? なんで鏡の渡り方を知りたいん?』
「あのねっ 学校に隠れ鬼がいるみたいなのっ」
『あーほうなん ほうなら急いだ方がいいに 奴は人捕らえて三日三晩は自分の住処に隠して喰らうやに』
汐梨はもう少し標準語で話して欲しいと思うが、なんとか理解できるからガマンした。
「じゃっじゃあ まだ 生きてるのね?」
『ほうねーすぐには喰わんはずやに』
「じゃっ 方法教えて!お願い!」
『…汐梨… あんたが助けんの?』
「… うん 助けたい」
『めずらしやん 大事な人なん?』
「うん! 大事な人!」
『ふふふ… ええよ それなー』
電話口で汐梨は必死にメモを取り、やり方を詳しく聞いて要件を済ませて、お礼を言い電話を切った。
(よし! 方法はわかった!とりあえず先に〝印“を付けに行こう!)
そう決心して、人気のない所に移動し.普段絶対外さないメガネを外し、とりあえずそれをポケットに入れて 精神を集中した。すると誰もいないのにザワザワと気配が強まってくる。それは 汐梨がメガネを外した事で〝まじない″が消え、霊力が解放されたからだ。
その時少し離れた場所で泉雲が感じとっていた。
「なっ 能力者か? 強い…」
泉雲も強い能力者なのだが、流石に微力だと分からない。だがその力はとても強い。なので気付いた。そして泉雲も精神集中をし、出所を探ろうとしたが、フッ…とその気配が消えたのだ。
「は? なんだ どーなってんだ?」
混乱するが、方角が学校の方だった事もあり、休むつもりでいた泉雲だが、今から学校に向かう事にした。
その頃汐梨は一つの鏡に〝印″をつけ教室に戻った所だった。
校内では既に6人の生徒が行方不明になっている。平田先生の言った通り、警察が何人か調査に来ていて何人かの生徒達が事情聴取を受けたが、汐梨は該当しなかったので、呼ばれる事はなかっのだ。
泉雲が学校に来たのはちょうど警官が帰った後だった。
泉雲の登場で女生徒達がワッと集まり、無事を喜んだ。そしてそこでクラスメイトの行方不明事件を知るのだった。
(このクラスでも行方不明者が出たのか…鬼はそうとう 調子に乗ってんだな)
その1人が己の隣の席の女生徒で、昨日汐梨が消しゴムごときを借りて大喜びしている姿を引きながら見たところだ。
汐梨の様子を横目で見るが、相も変わらず静かに本を読んでる姿だったので、意外と落ち着いてんだなと少し引っかかったが、すぐ関心は無くなった。
(藤峰 あいつがどうとか どうでもいい)
汐梨のクラスメイトは、良くも悪くも執着も協調性も薄いようで、はじめは面白半分騒いでいたが、だんだん事件性が強くなってきているのを、肌で感じ、どんどん静かになっていった。
午後は生徒が集中できないと判断し、学校は急遽午後から1ーCの休校を認めた。その頃には泣く生徒も出てきて、動揺が広がり個人で保護者に連絡し、迎えに来てもらったりして、ほとんどの生徒が集団下校となった。
その中で汐梨は1人で遠い帰路を歩いている。
(絶対 絶対 助けてあげる 小柴さん 無事でいて!)
珍しく己の拳を強く握りしめて、強く決意する。
夕方前には大和仁王学園の行方不明事件がニュースになって流れ、汐梨の住む地元までも騒がせはじめたのだ。
ニュースが流れて、すぐ学校から連絡があり、明日は臨時休校になったと伝えられた。
だいぶ大事になって来たので、地元だけではなく、世間も騒ぎ始めたのだ。
仕事から帰って来た父親に心配されたが、大丈夫だと軽く宥めたが、翔太がしつこかったので 自分の部屋へと逃げるように入って内鍵をして籠った。
そして小柴さんが学校に向かったと思われる時間帯、汐梨は動きやすいピッタリサイズのジャージに着替え、数枚のお札を腰に装着したウエストポーチに入れて、いくつか必要になるかもしれない道具を入れて、普段瞳を隠すほど長い前髪を色気もない百均のヘアクリップでとめて顔を露わにした。
「…小柴さんの為だもの…これぐらい…ガマンしなきゃ」
そう言いながら己の部屋にある姿見に自分を映した。
美しく輝くエメラルドグリーンの瞳を見て、己の表情が歪む。
「……イヤな 色……」
己の瞳の色に嫌悪した時思った。神代くんは自分の色を嫌いじゃないんだろうかと、そして用意していた己の髪を1本右手に持ち、それを姿見に当てて言霊を唱えた。
「真の我を写しモノよ その先に導かん」
すると姿見にあてていた手から波紋が拡がり、それが全体に広がって 徐々に右手がスズっ…と鏡に吸い込まれて行く。
そして光を強く放ったかと思うと、そのまま汐梨の身体は鏡の中に吸い込まれたのだ。
***
同時刻、大王(大和仁王学園)の正門では、神代泉雲が1人の男性と何やら言い合いをしながら立っていた。
「だぁーかーらあー1人で行っても解決しないでしょ?」
「任せたのはお前だろ」
「…でも 人が多いに越したことはないっていうし」
「オレは 団体行動は嫌いだっていってんだろ」
両者の言い分は平行線で一向に話がまとまらない。
頭を抱えたくなるのは 高身長で長く伸びた髪を一つに束ね細い目をした男。
そして ここは校内の汐梨が昼間〝印”を付けた女子トイレの鏡前。
その女子トイレの鏡がパアッと光だし、そこから先程自分の部屋の姿見鏡に吸い込まれた汐梨が現れたのだ。
「うっ わっ つ …着いた?成功した?」
異空間を渡ったせいか、目が回り気持ちが悪いとその場でへたり込む。そんなに万能ではないという事だ。
「うゔ… 目 めが そういえば おばあちゃんがなんか 注意を言っていたような…『ええかーしおりー以下方言』
「……聞き取れなかった… きっとおばあちゃん ワザとだ」
喋り方はおっとりしているが、性格は中々らしい。
その同時刻 その力の波動に気づいたのは泉雲だった。
「なに? 能力者?」
「へ…? 能力者?」
「昼間いっただろ? オレ以外の能力者がいるって」
「あー 例の ?えっ 突然現れたの?それって 妖じゃないの??」
「…妖気じゃねーからちがう」
「え? じゃあ なんで突然現れたの??」
「そんなの知らね とりあえずオレは校舎に向かうから 鴉は先帰れ」
「え? 自分置いてかれるの?」
「お前弱いからいらね」
泉雲にそうバッサリ切り捨てられたのは鴉丸菊ノ助。泉雲の知人である。
そしてその頃
しばらく目を回していた汐梨が漸く起き上がり、懐中電灯を手に校内の探索を始めた。
「うゔ…薄暗い 電気つけたらダメかなぁ…ハッ 弱気になっちゃダメ! 奴らにつけ込まれる」
よし!精神集中だ!と思い直し、隠れ鬼の妖気を探るが、他の妖気に邪魔されて、正直どれがどれだか分からない。
「〜〜あーー!ちゃんと訓練とか受けてないし…目標だけピンポイントなんて私にはムリみたいっ」
そんな中、校内の空気が一気に変わった。
そして丁度その時に校内に侵入しようとしていた泉雲が中に入れなくなったのだ。
「ん?…これは…結界か」
何者かに突然結界を張られ、校内の出入り口を封鎖されたのだ。 よって汐梨の霊気も感知できなくなる。
「あっ くそ!開かねえ 能力者の気配も消えた?」
そしてその頃汐梨は、手にした懐中電灯が急に点滅しだし、周りが更に暗くなり、前に進めなくなっていた。
そんな暗闇の中で
「かくれんぼーーー」
そう言いながら声の主が汐梨の元へ近づいて来た。
(! 隠れ鬼が くる)
スゥーッと現れたのは小柴さんも見た黒髪の長い少女。
「かくれんぼ しよ わたしは鬼 十数えるからお前は逃げて隠れてね」
「…あなた 隠れ鬼なんでしょ?」
汐梨の一言で 黒髪の少女の声がピタリと消えた。
そして
「…ふひひひっ なんだ お前?やけにうまそーな匂いがするんだが? ワシを知っとるのか?」
黒髪の少女の姿がウニョウニョと変貌していく。
黒く黒く一回り大きくなったところで姿を露わにした。
ニタリと開いた口元は耳の位置まで広がり眼光はまるで猛獣が獲物を見定めたかのようにギラリと光るり、頭上には一本の角が生えている。 正しくその名の通り〝鬼″である。
「んんー? これは珍しい人間…ワシが 恐ろしくないのか?」
己の人とは異なる恐ろしい異形な姿を晒しても悲鳴一つ上げない汐梨を不思議に思う。
「私はあなた達みたいな妖の姿には慣れてるの そんな事より連れ去った人達はどこにいるの?」
恐れるどころか普通に話してくる汐梨に隠れ鬼は問いかけに応えた。
「…それを聞いて どうする?」
「助けるに決まってる!」
「ひょ? 助けるとな? ひょっひょっひょーっ」
これは可笑しいと隠れ鬼は愉しそうに笑うが汐梨は真剣に
「私の大切な人を 返しなさい!!」
汐梨が隠れ鬼と言い合いをしていると バキッと空間に衝撃が走った。
(ハッ 誰かがこの妖の結界を壊そうとしる?
もーちょっと誰だか知らないけど邪魔しないで!)
そう思った汐梨はポーチの中からお札を取り出してそれを床に置き術を唱えた。
霊力がお札に伝わると
「結界 強化!」
汐梨がそう言うと、折角泉雲が壊した結界の前にズアッ!!と新しい汐梨の結界が張られたのだ。
「は ?」
壊したはずの結界の前にまた結界が貼られてまた校内に入れなくなった泉雲が
「はああああああ!??」
と 意味が分からないとこれには思わず大きな声が漏れたのだった。
そして夜の決戦が始まるのである。
異能者IZM第6話をご閲覧いただきありがとうございます!今回ある地方の方言を使わせてもらいました。(作者の地元ではありません)ちょっと自分の地方の方言に似てるから安易に使ってますので間違ってたらすみません! ここまで読んでいただき「面白かった」「続きが読みたい」等思ってくださったなら
下の☆☆☆☆☆から星5つでも星1つでも構いませんので評価をよろしくお願いします。
もちろんブクマも大変嬉しいです!
今回実はこちらに入力する時間違って全消ししてしまった為いつもの時間帯に投稿できませんでした(涙)すみません! 何卒これからもよろしくお願いします!