異能者IZM第29話~祖母の式神~
第29話
汐梨は もう随分前から他人との間に壁を作るのが上手くなっていた。
物心がついた頃、他人と違う己の緑色の瞳と人には無い不思議な力。
そして…決して目に視えない妖や妖怪を視る力がある為奇異な目で見られたり、その事が原因で幼少期からいじめられ、人間不信に陥り、長い間他人との距離感も随分取っていたのだ。
なのに…
この神代泉雲が己のパーソナルスペースを侵してくるのだ。
決して 優しい訳ではない…強引?といえばそう言えなくもない。
藤峰汐梨にとって今が人生で1番他人と接触を持った年なのである。
汐梨は未だに心臓が 動悸が止まらない。
汐梨(ーっ…なっ なんなんだろ? こ これはなんなんなのぉおーー!心臓が凄いはやいっ )
さっきまでのあまりの衝撃的な至近距離で、未だ大混乱中なのだ。
汐梨(お オオカミの子が飛びかかってくれなきゃ…じゃなきゃ わたし どーなってたんだろ ?……やっぱり殴られてたんだろうか…それとも…いや でも…)
何故か 殴られる候補をどうしても外せない。
少し警戒態勢に入る汐梨は、泉雲と距離を取りながらチラリと彼の方を見たが、泉雲は起き上がって背を向け、オオカミを撫でていたのだ。その様子から全く神代泉雲の考えてる事が解らない。
ただでさえ人生経験が乏しい汐梨。
汐梨(…なに考えてんだかちっとも分かんない けどこんな人…今までいなかった…)
そして汐梨は考える。
汐梨(神代くんは…クラスメイト それだけの関係のはずなのに…今はこうして私のおばあちゃんの家に一緒に居る…やっぱ…へん よね?でもクラスメイトだからありうるのかもー「しおりい」
考えてる事は浅くても、深い思考の渦の中から呼び戻されたのだ。
汐梨「…へ?」
祖母「へ? じゃないにぃ なんなんいつまでもボーッとしくさってえ」
汐梨がアレコレ考えていると祖母が声をかけてきたのだ。
汐梨「え…あ… いえ」
(だっ ダメだっ考えがちっともまとまんない)
祖母は呆れ顔で、新しくお茶を淹れながら何度も汐梨を呼んでいたようだ。
祖母「坊…あんたもいつまでも戯れとらんとぉ お茶よばれ」
泉雲は〝よばれ"という事が召し上がれという意味だと理解した。
泉雲「…ああ」
なんだか気まずい…汐梨は落ち着かなくて…でもなんとか泉雲に話しかけたくて…
なんか話題話題と珍しく勇気を出して発言したのだ。
汐梨「…それにしても 懐き すぎじゃないですか?その 子」
汐梨が頑張って絞り出した声を泉雲が拾ってくれた。
泉雲「…ああ ほんとうぜェ」
たった一言だったが汐梨は素直に嬉しかった。今まで会話ができる相手(他人)が親族以外ではいなかったから。
それにしばらく変な空気が2人の間にあったせいで、会話が途切れていた2人。
だからこそ汐梨は、自分が勇気を出して話しかけた事に対し、泉雲が応えてくれたと心の中で歓喜したのだ。
すると祖母が汐梨をチロりと見遣り、
祖母「…まぁ…その子ぉは ちょっと特殊ではあるけどなぁ…」
と祖母が意味深な発言をした。
汐梨「特殊な子?」
泉雲「…なんだよソレ」
祖母「その子ぉは ある御神木様の葉っぱが元やに」
泉雲(…また葉っぱかよ)
※汐梨が以前に葉っぱを使って式神を召喚した事がある。(第22話より)
汐梨「御神木様?」
祖母「そぉや 今から10年は前になるかなぁ…ある場所で異常気象があってなぁ突然嵐が起こったそうに…そん時そこの御神木様に大きな雷が堕ちたそうなんよ そしたらぁ倒れこそはせんかったけど燃えてもてなぁ そらぁ酷い有り様やったわぁ 」
汐梨「…おばあちゃん そこに行ったの?」
汐梨の問いに、祖母はズズッとお茶を啜りながらこくりと頷き、
祖母「それんしても奇妙やったわー 村のモンが騒いどってなぁそこの集落の人間が忽然とみんなおらんよーなったってゆーとったわ」
泉雲「人が?集落って何人ぐらいいたんだよ」
祖母「山の麓の小っちゃい集落やったけど多分100人かそこらはおったんちゃう?」
汐梨「え?そんなにたくさんの人がみんな居なくなったの?」
祖母「見た人が言うには 多少の血痕があるぐらいでほとんど痕跡も残さず突然おらんなったって 奇妙やろ?」
汐梨「自然災害だったのに?何処かに避難したんじゃないの?」
祖母「いんや 周辺の村には避難してないって当時は川が氾濫したわけでも 土砂崩れが起こった訳でもあらんくて…やからその隣の村の人間がその集落の異変に気づいてそこの寺の住職伝いで依頼が来やってなぁ弟子連れて行ったんよ そったららなんやタチの悪い妖もぎょうさんおってなぁ」
泉雲「なら妖に喰われたんじゃね?」
祖母「…ほんでも 妖も視えん人間は喰えんやろ?まさか100人も視える人間おる思うか?」
祖母が言うと泉雲も汐梨も「確かに」とこくんと頷いたのだ。
そして祖母の話は続く。
祖母「どえらい強いし しぶとーてなぁこりゃあかんなって御札だけじゃ足らんよぉなって 御神木様の葉っぱを拝借させてもろて 何とか退治出来たんよ で そん時に遣わせてもらったんがこの子に 不思議な事に何しても消えやんし、他の式神は消えてもたけど…だからこの子ぉは御神木様の化身 木霊なんかもしれんなぁ」
※式神とは術者が使役する霊的な存在であって、術者の任務が遂行すると同時に殆どは消えてしまうのである。
泉雲「木霊?」
※樹木に宿るとされる木の精霊。
祖母「分からんけど そーいう存在もおるやろ?この国には八百万の神が宿ると古くから言われてるしなぁ御神木様はほらもー可哀想なあり様やったししゃーないからこっち連れてきて あの山気に入ったみたいやからそこで遊ばせてたんよ」
汐梨「その御神木様は …もう今は無いの?」
祖母「いんや 新たにしめ縄して ある程度修復させて祀っとーよ ただそこは今は廃村なってもて管理も行き届いてないからなぁ…前のような力はもう 無いかもにぃ…可哀想に…」
祖母も霊力は相当なので、しかも界隈では有名人。こういった話は幾つもある。
…だからこの時はその1つの話に過ぎないと思っていたのだ。
祖母「坊人と人もモノとモノも出会うのは必然に あんたに懐くんは 理由があるんかもしれんにい」
泉雲「…っんな難しいコト言われても解んねーよっ やっぱこいつアレに戻してくれ」
祖母「ほほ ええのん?かわいいのにぃ」
泉雲「暑苦しいんだよっ」
現在真夏。 部屋は一応エアコンが効いてるとはいえやはり巨大なモフモフ いやオオカミにベッタリくっつかれると暑い。
そんな不機嫌な泉雲にスリスリしながら甘える式神のオオカミ。
祖母「ほほ じゃぁ戻したるわ」
祖母はそう言うと何やら着物の袖からお札を出して術を唱えだした。すると
ポンッ!という効果音と共にオオカミの身体が弾けて元の式神の姿に戻ったのだ。
すると 先程まで泉雲に懐いていた式神は主(祖母)の姿を目にし、トコトコと祖母の元へ戻ったのだ。
式神「ヤットカイホウサレタ!」
式神の態度の変わりように一同驚いた。
祖母「…なんやの? あんたさっきまでスリスリ甘えてたんに」
式神「…チッチガウ! 」
(…ナンカワカラナイ!タダ コイツノコトシッテルトナ二カガシラセル…シラナイノニ…)
泉雲も汐梨も頭の中に「?」が飛び交う。
急に態度が変わったように思えて泉雲はちょっと複雑な気持ちになった。
泉雲「こいつ…ふざけてんのか?」
泉雲との反応とは違い、祖母はケラケラ笑いながら
祖母「…やっぱりあんたは特殊な子やなぁ」
式神「?」
式神はどう伝えたらいいか解らないからそのまま祖母の袖の中に隠れてしまったのだ。
***
そして…こちらは東京
菊ノ助は未だに考えていたのだ。
菊ノ助(まー…新しい学校通い出して2ヶ月弱? あの泉雲くんが接触した子なんて僕の知る限りじゃぁー あっ不思議ちゃんだ そーいやここ最近行くとこ行くとこあの子いたなぁ… えーでもまさかあ あの不思議ちゃんと一緒にいるなんて…ねぇ?えーーおもしろォ♪♪)
菊ノ助(でもでも僕ってばこの間のミイラ化事件の妖について話聞こーと思ってたのに…あんまりにもびっくりしすぎて本題聞くの忘れてた(テヘペロ☆)だってあの泉雲くんが女の子と一緒にいるんだよぉおおーーアレコレ妄想しちゃうじゃんっ)
などと不謹慎に妄想している所に電話が鳴った
菊ノ助「はいはーいもっしもっーし保っちゃんおはよー♪」
保『……ああ 例の件の刑事の事なんだが 遺族の妹の遺品整理の為生前のアパートにいるそうだ』
菊ノ助「…朝っぱらから暗いニュースだね」
保「お前が急げと言ったんだろ」
菊ノ助「えーなるはやで と言っただけだよぉ」
保『一緒だろが(怒)こっちは忙しいんだ 資料をPCに送ったから後で確認しとけよ』ブツッ
菊ノ助「…短気だねーありがと☆保っちゃん♡」
通話は切れたのに菊ノ助は画面越しに投げキッスをした。その光景を見て亨一と飛那がドン引きする。そんな2人を気にも留めず、己のPCを確認しに行くのだった。
***
そしてこちらは都内のとあるアパート
そこにはあの刑事の岡松がいた。
…岡松が今居るのは、生前妹の真純が暮らしていたアパートの中。
アパートを引き払う為、遺品整理に訪れていたのだ。 その部屋は 女の部屋とは思えないほど散らかっていて、其処彼処に書きかけの原稿なのか、紙が散乱し、本や雑誌もそこいらに無造作に積み上げられている。
資料と呼べば聞こえはいいが、そんな部屋の中でブツブツボヤいていたのだ。
岡松「…こいつはまるで 空き巣にでも入られたみたいな惨状だな…オカルトライターだったからなぁアイツ… こんな資料ばっかだ」
どうやら被害者の妹の真純はジャーナリストと言うよりもフリーライターであった。その中で心霊や超常現象などを題材にした記事を書く記者だったらしい。
だからミイラ化連続変死事件という怪異な事件に興味を持ってしまい、最悪な事に妖に喰われてしまったのだが、
その事実は勿論岡松は知らない。
岡松「…それにしても 酷え有り様だなあ はは…こんなんじゃ 嫁の貰い手もなかったかもなー …まぁ それももう叶わねえか…」
岡松は自嘲気味に笑いながら足元の紙を重ねて整理を始めた。
その時ある原稿に目が止まり、それを読みはじめたのだ。
岡松「ん?これは書きかけの原稿だな …なになに 突然消えた〇〇集落で起こった日本の怪奇事件?」
ここからは記事の内容です。
ー 皆さんは覚えてますか?今から10年程前に実際に起こった奇妙で恐ろしいあの事件を そう… 現代ミステリーのひとつ あの有名な〇〇県の突然消えた謎の集落事件です。
それは…ある小さな村で起きた異常気象からはじまりました。〇年〇月〇日〇曜日。その日は天気予報にも表示されなかった突然の大きな落雷がありました。
雷は山に落ち、その時一本の大木が燃えたのです。
あわや山火事になると誰もが大惨事を予想したのだが、不思議な事に、1本の木を燃やし尽くしただけで、
火は燃え広がる事無くそのまま鎮火したという話。
山火事が起きなかったのは、その時の嵐による豪雨で自然と消えた という説がある。
この件に関しても、少し違和感が残る所だが、もっと不可解な出来事があるのだ。
…それはまるで 神隠しにでもあったのかと思う程の出来事。山の麓の集落の人々がその日のうちに忽然と消えたのである。川が氾濫した訳でも土砂崩れが発生した訳でもなく家はそのままで、人間だけが姿を消したのだ。
現在はその集落は消滅して地図にも載っていない。隣町や村の住人は、気味が悪いとその一帯には近寄らなくなり、現在は立ち入り禁止エリアに指定されているのだ。この…未だに語り継がれる謎の事件 本誌は今回その謎に迫るー
原稿を読んでいた岡松が
岡松「…地方の事はわかんねーな…ほんとにあったのか?こんな事件」
岡松は捜査一課の人間で基本自分の管轄(東京)以外の情報には疎いのだ。
岡松「ー…はあー ハハッ…あいつはこんなんばっか書いてたんだなぁー 」
そんな風に軽口を叩きながらも少し興味を持った岡松は原稿を読み進めた。
(ここ割愛)ー…なになにぃ…唯一の生存者の証言に よると?……(以下省略)か〝神の子が生まれた村"?だあ? なんだそりゃ 現実と乖離しすぎてんな…ただの天災だろ…さすがオカルト雑誌…マジメに読んでて損したわ…とりあえず親父とお袋に電話して 遺品を引き取ってもらおう 兄ちゃんも…いくつか引き取ってやるからな」
岡松は途中までは興味深く読んでいたが、流石に現実と乖離した内容に飛んだ話に、読む気が失せたのだ。
岡松「…まぁこいつはあいつの遺作だしな」
岡松は床に散らばった原稿用紙は妹の遺作として処分する事をやめて、適当にまとめて段ボールに詰めて、明らかゴミと思われる物と古い雑誌はまとめてほとんど処分したのだ。
一通り片付けが進むと岡松は妹の写真を手に取り、じっと見つめる。
その時真純との数少ない思い出を思い出して目頭が熱くなった。
岡松「…あーあ てめえで危ない事に首突っ込んで死んじまいやがって…兄ちゃん ホシは絶対あげてやるからな!」
そう決意し、立ち上がろうとすると、玄関のドアがガチャリと開いたのだ。
条件反射で振り向くと1人の男がキャリーケースを片手に立っていた。
男「あ…アンタッ 真純の部屋でなにやってんだよ!ってか 誰だよ?」
見た感じサラリーマン風の普通の男である。
岡松「…その言葉 そっくりそのまま返してやるよ てめぇ誰だ?」
岡松はそう言って胸元から警察手帳を取り出してその男に見せつけた。
男「え? ぇえ! け 刑事 さん?」
岡松「刑事であり ここの住人だった真純の兄だ」
男「え? お お兄さん??え? 住人だったって??」
どうもお互い状況が掴めない。
岡松「…とりあえず あんた誰だ?真純とどーいう関係だった?」
男「…あの…はじめ…ましてっ 真純さんとあの…真剣交際させてもらってます!百瀬と申します!」
妹の彼氏を今日初めて知った兄和也。
岡松は妹と仲が良かった訳ではない。お互い忙しい身であってたまにしか連絡も取り合ってなかった為、私生活の事はよく知らなかったのである。
ただ疑念が…そんな親密な間柄なのに、なぜ恋人である真純の死を知らないのか…
岡松「あんた…真純の彼氏 なのか?…」
百瀬「はっはい!ごっごあいさつが遅くなり申し訳ありません!ただ僕は1ヶ月程海外出張に出ておりましてっ今日戻ったばかりでしてっ」
岡松(…あ …そーいう事か…どーするか…)
岡松がどう伝えるか言い淀んでいると、
百瀬「あっ あの お兄さん初対面で不躾で申し訳ないですが あの ここの住人だったって…真純 引っ越しでもしたんですか?」
岡松「いや…そうじゃなくて…百瀬くん だっけ?」
百瀬「はい!」
岡松「…なんて言うか …気を確かに持ってくれよ?」
岡松の意味深な言い方に緊張が走る百瀬。
百瀬(え? なになに?そんな言いにく事??え 引っ越し? え?まさか別れろ!とか言われるんじゃ……)
百瀬は最悪の事態を想定して身構えていたが、言われた言葉はその遥か上をいくものだった。
岡松「真純はな… 死んだんだ」
百瀬「…… え? 今 なんて ?」
我が耳を疑った そしてもう一度…
百瀬「あ あはは…す すみません ちょっと僕聞き取れなくて あの もう一度言ってもらって いいですか?」
岡松「…受け入れたくない気持ちは 解る…でも 真純はもう いないんだ…」
実の兄だという岡松が ましてや警察。
嘘をつく訳がない。
現実を突きつけられて、百瀬はぐにゃりと視界が歪んだかと思えばその場で気を失ってしまったのである。
それに慌てて駆け寄り岡松は倒れそうになっている百瀬を抱きとめたのだ。
初登場の百瀬くんが気を失っている頃…
***
遠く離れた祖母の家では
道着に着替えさせられた泉雲と汐梨が道場に立っていて、ようやっと修行が始まるところであった。
泉雲「…こんな道着 着る必要あんの?」
祖母「ここは神聖な道場やで 礼儀に」
泉雲「…あ…そ…」
祖母「では今から合気道をやるに 準備はええか?」
泉雲「は? 合気道…?」
祖母「まず坊は礼儀を覚えなアカンからなぁ」
泉雲「…なんだよ それ」
いわゆる泉雲の苦手分野。
汐梨(…すっごい嫌がってるけど…この人ほんとにやるのかな?)
祖母「とりあえずあんたは勝ち負けにこだわりすぎや」
泉雲「ンな甘っちょろい事言ってたら喰われて殺されるだけだろ」
祖母「ほほっ 今はあんたを取って喰う人間も妖もおらんから安心しぃ」
…そう言われてしまってはぐうの音も出ない
祖母「では 礼」
祖母の号令で汐梨はシャキッと姿勢を正し 一礼して気を引きしめるが、
泉雲は不貞腐れてふんぞり返ったままであった。
汐梨(…か かみ しろくん… そんな態度 後で後悔しますよ…)
神聖な道場での泉雲の態度に、祖母はピキリと青筋を立てて、静かに怒りを貯めていく…
さあ ようやく〝修行"の始まりです。
いつもご閲覧ありがとうございます!
少しずつ少しずつ物語は進んでおります。また次のお話も変則投稿ですのでよろしくお願い致します。




