異能者IZM第24話~待ったなし!危険な約束?~
24話
汐梨は運良く自分の張った結界で道が出来たおかげもあって、自分の式神を使い、その鼠の式神をパワーアップさせ、更に別の術をかけていた事によって式神の伏兵を作り、ゆっくり運び出して、麦野朱夏を泉雲と妖の元から引き離す事に成功したのだった。
そして麦野を自分の手元まで運んだ所でパアンッ!と大気に衝撃が走り、汐梨の張った結界が解けたのである。
汐梨「よ よかった!麦野さん 生きてる」
息は乱れてはいるが、呼吸をしている麦野に安堵した。
だが ゆっくり安心してはいられない。
すぐに瘴気の浄化に取りかかったのだ。
汐梨(こんな…酷い 瘴気が身体中にまわってる…)
汐梨は鞄の中から残りの葉っぱを取り出し、それを麦野の口 喉 肺 胃にそれぞれ置き術を唱えはじめた。
汐梨(ほんとは 浄めの塩か御神酒が欲しいんだけど…これでなんとか しないと)
するとそれぞれの葉っぱが光を帯び、身体の中にスー…と入っていく。
汐梨は短時間に力を使いすぎて少しふらつくが、深呼吸をし、息を整えて集中した。
しばらくして、麦野の中から黒いモヤのようなモノが麦野の口の中からシュー…と漏れ出てきたのだ。
それは正しく瘴気。
身体から出て来た瘴気は黒く、濃いモノであったが、天に昇っていくにつれ、色が薄まりスーッ…と消えて無くなったのである。
身体の中の瘴気が少なくなると、麦野の青ざめた顔がみるみる改善されていき、真っ青だった頬に赤みがさし、乱れていた呼吸も安定してきたのである。
"瘴気の浄化”とは実は難しい事なのだ。
どんなに霊力が高くても1度身体に入った瘴気は僅かでも残ってしまう。
人間でいうウイルス等に感染した状態。と思ってもらえると理解しやすいだろう。
それを汐梨は完全に取り払ったのである。
汐梨「はぁ…はぁ… あっ よかった!麦野さんっ 身体が安定した ふぅ…ほんと 良かった…」
間に合ったと汐梨は心底ホッとして思わず涙ぐむが、
「…おい」と言う低音の冷ややボイスにバッサリ遮られて、涙も引っ込んでしまったのである。
その声にびくりと反応し、恐る恐る振り返ると想像した人物が仁王立ちで立って見下ろしていたのだ。
汐梨「あ… お おかえり なさい…」
泉雲「ーっ おかえりなさい じゃねーよ どういうつもりだ?」
やはりそこにやってきたのは、先程の妖との戦闘を終え、戻って来た神代泉雲であった。
汐梨「…い いや あぁあのー デス ね」
汐梨は泉雲の威圧にビビリまくり、いつものどもりが出てしまった。
泉雲「…ケッ どーせお前オレの事信用してなかったんだろ」
汐梨「! いやっ…あ あの…ででですからっむ 麦のさんを早く助けたくて…」
納得がいかないと「どーいう事だ ああ?」とまるで輩な物言いをする泉雲の顔は怖い…
だがら泣きそうになり、怯えてどもり口調になる汐梨は恐怖しか感じないが、信用されなかった と不機嫌になった泉雲はチッと舌打ちした。
だが、麦野を見た瞬間泉雲の表情が変わったのである。
泉雲「…そいつ瘴気に侵されてかなり弱ってたろ?なんでそいつから 一切の瘴気が感じられない?」
汐梨「…え? それ…は ワタシが術で浄化したから? ですけど…」
汐梨に聞かされ驚いた泉雲が麦野のそばまで駆け寄り、現在の症状を確認し、汐梨とポツリと尋ねる。
泉雲「…お前が 浄化しただって?」
汐梨は泉雲の一挙一動にビクビクしながら「はい」と答えた。
泉雲「!ちょっと待て …ぜんぶ?」
汐梨「?…… はい…」
(こいつ…オレの知ってる浄化能力に長けてるやつでも 完全に消し去るやつなんて見た事ねえ…多少は残る。だから後は人間の自然治癒にしか頼るしかねぇ 弱かったら後遺症は残るし、下手したら植物状態か死ぬ…それほど人間にとっちゃバケモノの瘴気は毒だ それを…)
泉雲「…お前 一人で 浄化したのか?」
そして汐梨はそのつもりはないが余計な事を言ってしまう。
汐梨「…? は はい… あの 普通 の事では?」
泉雲「は? 」
(オレは できねーよ!ってかできる奴いねーよ!)
泉雲だって自他共認める桁違いの能力者だ。
だから なんだか自分のプライドが少し傷ついたのである。
泉雲(こいっつ…こんなスゲーコトができるくせによくもいけシャーシャーと…)
泉雲が内心フルフル震えていると、
汐梨「あれ?」
思わず声が漏れた。しまった!と己の口を慌てて抑えるがもう遅い。
泉雲「? どうした」
汐梨「ぃぃぃいえっっ なっ なんでもございませんっ」
なにか隠されていると勘ぐった泉雲はイラッとして、
泉雲「いいから ハッキリ言いな」
凄んでくる泉雲に観念した汐梨が口を開いた。
汐梨「…あの いつもだったら私…メガネ外してるとすぐ妖にまとわりつかれるんですけど …何も寄って来ないから なんで かなーと…」
泉雲「? オレがいるからじゃね」
汐梨「え? 」
泉雲「フン…オレの近くにその辺の低級雑魚が寄ってくるかよ」
シレッとキッパリ言い切る泉雲に汐梨は固まる。
汐梨(あ… なるほど)
そして思い出す…
初めて泉雲に出逢ったあの桜の季節を…
あの時はメガネを風で飛ばされて、素顔だった。そんな状態なのに汐梨の周りに妖は寄って来なかった事を…
そう言う事かと…
汐梨(そっか 妖も神代くんが 怖いんだ…)
非常に腑に落ちた汐梨であった。
しかし泉雲は更に聞いてくる。
「それだけか?」と…
汐梨(…いや…もう…あなたの気分を害させたくないし、すぐ怒るし…穏便に会話を終わらせたい…)
切実に願うのだが、泉雲は無言の圧力をかけてくる。 と感じるので それならばと、
汐梨「…あの なんで神代くんは 私のこの目のこと 誰にも言わなかったんですか?」
これはずっと気になっていた。
泉雲「…は?」
汐梨「…いや だって 緑なんて目 珍しいし… き 気持ち悪く …ないですか?」
汐梨は…自分て言って幼い頃の記憶がフラッシュバックしたのだ。
ー 目の色 こわーい キモーい 近よんなー ー
苦い記憶を思い出して、眉をひそめ、汐梨の唇にキュッと力が入ってしまうが、
泉雲「…そんなん言ったら オレ 青だけど?なんだったら赤にもなるけど?」
泉雲の言葉でパッと顔を上げた。
その瞬間 フラッシュバックした記憶も消えたのだった。
汐梨「! あっ そ そうです ね…」
一瞬沈黙が流れる。
(そっか…同じ不思議な目を持つ神代くんにとって 私の目の色なんて 些細なコトなんだ…だから誰にも言わなかったんだ…)
初めて他人に己の瞳の色を肯定してもらえた気がして、汐梨は泉雲の前ではじめて笑ったのである。
いつも…自分の前では怯えたり怒ったり、困った顔をしている女…それが今自分の目の前で笑っているのだ。
そんなはじめて見る汐梨の笑顔に、泉雲は目を見開いた。
そしてしばらく何も言わずに いや…何も言えずに見つめていたのである。
泉雲(いつもは…オドオドしてくそキモい格好してるくせに…)
それに、はじめて見た汐梨の笑顔は、心の何処かで懐かしいと不思議に感じているのだった。
泉雲(こんな奴知らないのに…なんでこの女はオレをこんな感情にさせるんだ?なんで 懐かしい なんて 思う?)
不思議なデジャヴを感じていた…
泉雲「…藤峰 お前そんなに自分の目がイヤなの?」
泉雲の何気無い疑問に、汐梨はキッとなって
汐梨「あっ あたり前じゃないですかっっ この目の色のせいで私が過去どれだけっ」
せっかくフラッシュバックが消えていたのに…蘇る…汐梨のくらーい過去の数々…
すると汐梨はハッとしたように鞄を漁って例の、いつものメガネを取り出して即座にかけたのだ。もちろんヘアピンも元に戻してすだれ前髪の登場である。
普段通ーりの姿を見て、
泉雲「……今 それ いらなくね?」
汐梨「このメガネかけると落ち着くんです♪」
泉雲「……あっ そ……」
泉雲(…ま こいつは自分のやり方で助けるっつってたし…実際能力高いし そこは むかつくけど認めてやるか)
そんな泉雲を他所に、汐梨が甲斐甲斐しく麦野の世話をしだした。顔をついた泥や埃を拭う為に再び鞄を開けた時、ヴー…ヴー…とスマホのバイブレーションが、表示を見ると父親(康平)からの着信。
汐梨(あっそういえば パパに連絡するの忘れてたー)
汐梨「あっ も もしもし」
泉雲(? え こいつ スマホ…持ってんじゃん)
父『しおりぃー!お前今どこにいるんだ??』
汐梨「あ…ごめんなさいっ もーすぐ帰るからっ」
父『おとーさん今から迎えに行くから 場所 教えなさい』
迎えに来ると言う父康平に言葉が詰まる。
汐梨(今…来られると ひじょーに困る…ここからなら…)
汐梨「今〇〇駅近くのお店 カフェにいるからっ 今注文したケーキが来たから だから食べる時間ちょうだい 終わったら駅に行くから」
泉雲
父『…わかったじゃー30分後には家出るからなるべく人の多い所にいなさい!知らない人(男)には絶ッ対ついて行かないよーに』
汐梨「わ 分かってるよ うん うん じゃ後でね」プツ…
汐梨がなんとか父との通話を終えると、
泉雲「スマホ持ってたの」
汐梨「? あ…これは … はい 親が最近用意してくれたんです(それがなにか?)」
汐梨が 不思議に思いながらも泉雲にそう説明すると、「ふーん」と言いながら汐梨からひょいっとスマホを取り上げた。
汐梨「! え ? あっ あのっ?」
泉雲の思わぬ行動に汐梨は慌てる。
汐梨(あー…また人の物を勝手に…)
前にもメガネを取られたり、消しゴムを取られたり…よく取られる汐梨。無駄でも「返してくださいっ」と言ってみるが、もちろん聞き入れてくれない。
その間泉雲は汐梨のスマホを何やら勝手に操作し始めたのだ。
泉雲「ふっ…リスト 家族しかいないんだな」
その時泉雲は自然に笑んだのだ。
…不敵な笑みでもアルカイックスマイルでもなく少年らしい柔らかな微笑。
汐梨ははじめて見る泉雲のそんな笑みに言葉が出なくなった。
汐梨(か …かみ しろくんが…笑って る?)
いつもイジワルなコトを言ったり、威圧したり威嚇したり…ほとんど表情を変えない神代泉雲が笑っているのだ。
泉雲はそのままタタタッ…と汐梨のスマホを操作している。
汐梨はハッと我に返って、
汐梨「あのっ か 勝手に見ないでくださいっ返してくださいっ」
泉雲「ん」
汐梨「!?」
気が済んだのか、泉雲が素直に返してくれた。
それを訝しげに受け取り、画面を見た汐梨は驚いた。
汐梨「! え あの…? これ は ?」
泉雲「オレの連絡先…お前いつもトラブルに巻き込まれて危なっかしいからね」
汐梨「?? え で でも そんなの…悪い です し」
状況が全く分からない汐梨は混乱している。
泉雲「他に頼れるやついんの?」
汐梨「……う゛ そ…それは いません けど」
消え入りそうな声で答える汐梨は絶賛ボッチ中である。
でも…神代泉雲が苦手なのも…怖いのも…事実。
だから思考停止に陥りそうな脳内でぐるぐる悩むのだが、
泉雲「だったらオレを呼んで」
汐梨(…呼んで…って …よんで ドーシタライインデスカ??)
答えが見つからない汐梨は戸惑う事しかできなかった…
人生生きてきた約15年間…こんなに他人と関わった事がない藤峰汐梨。
正直 どうしていいか分からない…
それでも…スマホの画面を見ると、家族以外の名前やアカウントがある事に、少しこそばゆい気持ちになるのだ。
汐梨(…神代くんは 私にとって友だち…では ないよね?言ったら 怒られそうだし…やっぱり"クラスメイト”だよね…クラスメイトだと…こんな感じなのかな…難しいな)
考えが纏まらない汐梨の手元に戻ったスマホに電話が入った。
「あっ はい もしもしっ」
『しおりぃ どーやら どーにかカタついたみたいやにぃ』
「おっおばあちゃん! なっなんで知ってるの??」
泉雲(今度はばあさんかよ…)
『ふふふ…あんたぁ そろそろ力のコントロール 覚えなあかんなぁ』
「え? ち 力のコントロール? やだよぉまた特訓するんでしょ…」
汐梨の会話に泉雲は反応する。
泉雲(特訓だと? これはもしかしたら藤峰の能力の強さの秘密が解るかもしれない)
『もーすぐ夏休みやろぉ顔みたいしぃこっちおいでぇー』
祖母に顔みたいと言われると、断りにくい…
それに
汐梨(ないとは信じたいけど 小柴さんや麦野さんがまた 狙われるような事があったら…)
汐梨「うん わかった夏休み入ったら会いに行くね」
そう祖母と約束して汐梨は通話を切った。
汐梨(…ま いっか おばあちゃんには聞きたい事あるし)ヨシ!っと気を切り替えて泉雲に【では失礼しますの意を込めて】ぺこりと頭を下げ、父親が待つ駅に向かう為歩き出したが、
泉雲「待て」
と まさかの泉雲からのストップが入った。
汐梨「…はい? (まだ なにか?)」
泉雲「夏休みの特訓ってどこでやんの?」
汐梨「…… えーと ? はい?」
質問の意味がよく分からないと答えに詰まる。
泉雲「ばーさんに特訓してもらうんだろ?」
汐梨「…… えーと… はい (私事ですがそれが何か?)」
すると泉雲がとんでもない事を言い出した。
泉雲「オレも そこに行く」
汐梨「……… は? はいいい!?」
汐梨は絶叫した。
汐梨(あぁ…きっと私 力使いすぎて疲れちゃったんだろなー…これは夢だ…そーだ悪い夢を見てるんだー…)
そう思いながらそのまま気絶するようにフリーズし固まった。動かなくなった汐梨を不信に思い、近づいて声をかけるが返事がない。
困った泉雲の元に
いつ呼んだのか、菊ノ助が部下を数人ひき連れて現れた。
菊ノ助は菊ノ助で(なんでまた不思議ちゃんもいるの?)と思ったが、泉雲に淡々と指示されて、とりあえず地面に寝ている麦野朱夏を部下に指示して車に乗せ、その車すぐ走り去った。
その後泉雲がほとんど気絶状態の汐梨を抱き上げて、別の車に乗り込む。
その様子を見て菊ノ助は(なんだかんだでいつの間にか仲良くなっちゃって〜)と微笑ましく見守っていると、泉雲に「バカンスはやめるからホテルキャンセルして」と一方的に言われて、理由を聞いてももちろん教えてもらえず、今部屋で泉雲の為にディナーを用意して待ってくれてる荒島の気持ちを思うと不憫になったが、
そっかやる気になってくれたんだ♪とポジティブに受け取る事にした。
そして泉雲が指示するカフェへと汐梨を送り届けて任務完了。
その汐梨はようやく気を取り戻したのだが、店の中で、
ここは何処?私は誰?状態になっていた。
無理もない…
気づくと父から鬼電が入っており、慌ててかけ直し、混乱状態ではあるが、とりあえず父の待つ駅へと急いだのだった。
汐梨(あれ? 今までの事って 夢??私なんでお店の中に居たの??かっ神代くんは??)
未だ頭混乱状態の中とにかく走った。
その様子を高いビルの屋上から見下ろす黒い影。それは大きな嘴と鋭い眼光の持ち主の北斗であった。
北斗「シオリよ… ワザワイはマダコレカラオキルノダ …大キナ大キナワザワイガ…」
そんな不穏な言葉を零して、北斗は走る汐梨を見下ろし、バサッと大きな翼を広げて空高く舞い上がり、闇の中に消えたのである。
そんな事とは露知らず、
汐梨(こわいよぉー!きっときっと怖い夢を見てたんだ!きっとそーよ!)
と麦野の事も夢。神代泉雲とのやり取りも全部夢だったんだ と自分に言い聞かせ、汐梨は全てを振り払うように走ったのだった…
いつも異能者IZMをご閲覧いただきありがとうございます!
今回は早く書き上げれたのですぐ投稿させていただきました。
またこれからも執筆頑張ります。
また次話のご案内は活動報告でさせていただきますますので、何卒よろしくお願い致します。