異能者IZM第21話ミイラ化変死事件編~ 新宿華怒鬼町にて~
第21話
迎えた次の日土曜日。
藤峰家では弟翔太が上機嫌で玄関から我が姉を呼んでいた。
翔太「しおりぃーまぁだぁ?」
汐梨「あっ はーい」
そう言いながら、パタパタと階段から降りてきた汐梨は薄い水色のキレイめのサイズの合ったワンピースを身にまとって、アウターには薄手ニット調のカーディガンを羽織り、髪は弟のリクエストでハーフアップにし、普段では考えられないとても女の子らしい装いをしているのだ。
汐梨は色々拗らせて、学校ではだいぶ喪女化が進んではいるが、家族と出かける時は普通の女の子なので、それなりの服は持っている。
しかし最近の新たなアイテム(珍妙メガネ)を手に入れた事によって、安心感を身につけた汐梨は、残念なコトに自分の普段の見た目に対しどんどんどーでもよくなってきてしまっているのだ。
そして…出来上がったのが〝喪女子高生”なのである。
汐梨「ねぇ…やっぱり…メガネー」
翔太「ダメ!」
スパッと一刀両断されて、渋々以前使用していた、まだマトモなメガネに付け替えたのだ。
ただ このメガネは虫眼鏡のようになっているのか、汐梨の大きな瞳をちんまりとしたサイズに変えて、なおかつ緑色の瞳をレンズの光の屈折の影響か、黒く映らせる事ができる。
だが…その機能もどのみち何も発揮しない。なぜかと言うと、
すだれ前髪で全て隠れてしまうからである。
ただし、視たくない肝心な妖や霊の類いはどうかというと ぼんやり視えるらしい。
ただメリットもあって汐梨の霊力は妖たちには完治されにくくなるらしい。
もう少し分かりやすく言えば、ドラ〇もんの石◯ろ◯子のような機能が発動するという事なのだ。
現在の珍妙メガネよりかは幾分か見た目がマシなので、翔太は渋々了承してくれたのである。
だが、どうしても汐梨は妖や妖怪の類いが視えるのは嫌なので、いつものメガネは翔太の目を盗んで、こっそりバッグの中にお守りとして、忍ばせているのである。
それだけ藤峰汐梨は妖や妖怪が視たくから
だが…悲しい事に備わる能力は、年々強さを増し、祖母による〝封印の呪い"も強力になっていってるのだった。
翔太「しおりはやっぱそーいう服の方が似合うよな!でもそのうっとおしい前髪はいつ切んだよ?」
汐梨「…切らない 」
翔太「ほんと ガンコだよな!…ま いっか ライバルは少ない方がいいしな」
汐梨「 ? なに ライバルって ?」
翔太「なんでもない! さあ 行こう」
翔太の言ってる意味があんまり分からない汐梨は、そんな事より「お姉ちゃんと呼んでよ」
と我が弟に言ったけど、「別にいいじゃん」と軽くいなされてしまい、肩を落とすしかなかったのである。
その頃神代泉雲は? といえば…
菊ノ助にリザーブしてもらった高級ホテルのスイートで惰眠を貪っていた。
すやすやと心地よく眠っていると、連打されるインターホンの音で邪魔されて、目覚めてしまったところである。
寝起きの悪い泉雲は、眉間に皺を寄せ、ムクリと起き上がり、ドアホンの前まで歩みを進め無言で出ると、
『あ 神代くん起きましたか? おはようございます』
泉雲「…荒島さん おはよう ございます」
なんと!あの他人に無関心で年上の菊ノ助すらもタメ語で偉そうに喋る、
唯我独尊男の神代泉雲が敬語を使って応えたのだ!
眠い目を擦りながらトタトタと歩いて玄関に向かう泉雲は、そのままガチャリと扉を開けた。
すると ドアに立っていたのは口ひげを蓄えた初老の男。
背筋をスッと伸ばし、キチンとした黒のスーツを身に纏う男が手に持っている物は本日の朝食+日本酒。
朝だろーが酒を飲む神代泉雲。
その事をよく知ってるのであろうこの初老の男。
泉雲が荒島と呼ぶ初老の男を、部屋に招き入れるとぺこりとお辞儀をし、軽やかな足取りで部屋の奥へと入って行く。
それをとことこと着いていく泉雲。
すると先にリビングに入った荒島は、泉雲が座るまでの短い間に全ての用意を整えてお出迎えする。
「どうぞこちらへ」
「うん」
なんとも素直な神代泉雲。
泉雲がテーブルに着くと荒島は静かな所作で椅子をひき、難なく座らせたのだ。
そのままテーブルに置かれた本日のモーニングの内容を伝え、泉雲に食事を摂らせる。
その間荒島は、日本酒を温めて熱燗にする。泉雲が手を伸ばしたその先に、荒島がササッと用意した熱燗を置くのだ。
泉雲は機嫌よくそれを呑み満足気なのである。
この気遣いが完璧で、"痒いところに手が届く”を地でやる御仁は菊ノ助の秘書であり泉雲のお目付け役の荒島 三郎
菊ノ助は 泉雲の能力は信用しているが、性格は信用していない。
己の目が届かない所では、時折泉雲の世話係として荒島を送り込むのだが、泉雲からしたらこの〝しごでき男荒島”を結構気に入っているので素直に受け入れているのだ。
…ただ 欠点はあるのだが…
荒島「お味は いかがですかな?」
泉雲「うん 美味しいよ」
普段の偉そうな物言いとは違い素直に応える泉雲には違和感…いや 驚きしかない。
そんな 世にも珍しい、穏やかなモーニングのひと時を過ごす頃、
***
麦野率いる女性陣たちは、東京新宿駅にいた。
女生徒A「あーやっぱ都会はいいよねー♪」
女生徒B「こーやってみるとあたしらの地元は同じ都内でも田舎だわぁ笑」
麦野「なんか もう疲れた」
女生徒A「えー朱夏ったらそんなオバさんみたいな事言わないでよぉ笑」
女生徒A事ミナに失礼な事を言われて少しムッとする麦野だが、彼女は未だ体内に残った妖の瘴気に悩まされていたのだ。
(あー…やっぱ調子悪いな…来るんじゃなかった)
女生徒B「朱夏…もしかして電車に酔っちゃった?アタシ酔い止め持ってるよ」
そう言って、女生徒B事ルミは、己の鞄から酔い止めの薬を取り出し、麦野に差し出した。麦野も電車に酔っただけかもと、ルミから薬を受け取りとりあえずそれを飲んだのだ。
そして「お腹が空いた」というミナの一言で、3人は、近くのランチ屋さんを探す事にした。
***
そして、こちらは東京都の同じ新宿にある防衛省。
防衛省とは
基本的に陸・海・空の国が構成する行政機関であり、総称は自衛隊。在日米軍基地の管理なども行なっている。
他国に侵略されたり、日本領土を不法占拠される事がない様、我が国の安全と独立、平和を護り、防衛を担う、国の砦なのである。
また有事の際はいち早く活動するのもここの省の役割でもあるのだ。
そして、この防衛省には完全非公開部隊が形成されている。
それが少人数精鋭部隊菊ノ助率いる特別異形種討伐隊。
こちらの部隊は一般人には知られていない、現世に存在する異形なる 人に仇なすモノ(妖や怨霊)を討伐する為に形成されたチームであり完全非公開もである。
その為、国家予算枠は設けていないので、独自のスポンサーがついている。それは日本を代表する財閥グループだ。その中の四つのグループが加入しており、支援を秘密裏に行っている。
その事実も非公開なのである。
そして本日鴉丸菊ノ助は、その防衛省の重要会議に出る為列席していた。
(フウ…ここは堅苦しくてイヤなんだよなあ)
普段はL,sカフェ(ルーズカフェ)でオーナー兼店長をし、Tシャツにエプロン姿でいる事が多いが、こういう場では、フォーマルなスーツを身にまとっているのだ。
そして 2時間程の会議が終わって菊ノ助は電話をかける。
菊ノ助「あっさぶちゃん 泉雲はちゃんと起きてるぅ?」
荒島『はい 坊っちゃま朝食を召し上がられて 今部屋で休憩中かと』
菊ノ助「あははーサブちゃんいい加減その〝坊っちゃま"ってのやめてよぉー僕もーいい大人なんだからさあ~…」
荒島「いえいえ 坊っちゃまはいつまでも坊っちゃまですから」
荒島は頑ななので菊ノ助はしゃーないかぁと軽く流して問いかけた。
菊ノ助「そんなコトより 泉雲 また寝てなーい?」
菊ノ助がそう言うと、荒島の雰囲気がザワッと変化したのだ。
荒島『… 少々お待ちください』
荒島はそう言って、泉雲が休憩している部屋をノックする。
荒島がノックする音コンコン…「神代くん?起きてますか? コンコン…起きてますよね?」
返事がない。
すると温厚だった荒島の口調ががらりと変わる。
荒島「おい? 神代… また寝たんか?ぉおん?食ったらまた寝んのかわれ?ぁア゛ん?」
そしてノックの音まで変わった。
ドンドンドンドンドン!!
彼の別名は〝荒らくれサブちゃん"実は関西出身で元暴走族で総長だった人。当時は改造バイクを乗り回し、近隣の敵対チームと喧嘩に明け暮れ、関西中を暴れ回ったとされる地元では悪名高い不良の有名人でもある。
だが、そんな彼を気に入り雇ったのは菊ノ助の父親なのだった。
菊ノ助の父親は、そんな教養ゼロの荒島に一般教養や、礼儀を叩き込み、見事更生させたのだ。
だから普段は温厚ではあるのだが…いかんせん元々短気でキレやすい性格のため、
特に、自分が仕える坊っちゃま事菊ノ助への忠誠心が強く、尚且つ自分の思い通りに事が運ばないと、すぐ実力行使に出るのである。
…普段は〝何もしなければ"温厚な人…
泉雲がいる部屋の扉がガチャリと開いた。
泉雲「…荒島さん…聞こえてますから」
荒島 ケロッ「あっ神代くん ちゃんと起きてたんですね 」にっこり
先程の、鬼の形相とは打って変わり、初期のにこやかモードに戻ったのだ。
なんとも恐ろしい…
こんな荒島ではあるが、泉雲が菊ノ助の元に来た頃、世話係をしたのはこの荒島なので、本性も知っているから逆らえないのである。
なにより仕事は完璧で欠点がない。
素直に言うことを聞いていれば、すごく優しい〝痒いところに手が届く"良い人荒島三郎だから…(いいのか?)
そんな荒島が、にこにこしながら己のスマホを泉雲に渡す。
そのスマホを受け取り、泉雲は部屋のドアをガチャリと閉めた。
そして予想通りの通話相手の陽気な声。
菊ノ助『もっしもーし♪ 泉雲ちゃん♡起きてたあ♪』
泉雲「……あぁ」
菊ノ助『よかったーとりあえず今から入手した情報送るから ちゃんと見てね☆』
いつもの泉雲なら、恐らく無言で通話を切ってしまうんだろーが、扉を隔てたすぐ隣には絶対荒島が聞き耳を立てている。
"菊ノ助坊っちゃま第一"の荒島の機嫌をまた損なわせてしまうと、色々ややこしくなるので、「わかった」と一言素直に言って、通話を切り、また扉を開けて待機していた荒島にスマホを返して事なきを得る。
そして泉雲は自分のPCを開いた。
するとそこには今回の事件の概要を示した供述書のようなモノがデータで添付されて送られてきていたのだ。
それに一通り目を通して、その1部を己のスマホにデータを移す。
(…とりあえずこの内容だと動くのは夕方以降でいいじゃんか ーったくこんな朝早く(もう昼前)に起こされなくてよかったじゃん まぁ…荒島さんのモーニングはありがたかったけど)
泉雲がそう思うぐらいに荒島の料理は美味なのである。
そして…これが菊ノ助が泉雲に荒島三郎をお目付け役に据える理由でもある。
泉雲は菊ノ助に「夕方まで寝るから起こすな」とluin(lineの事)をし、菊ノ助の許可が出たので、これで荒島もキレたりしないと安心し、再び眠りについたのだった。
***
そして少し時は流れて昼過ぎ……
昼食を済ませた汐梨と翔太は、新宿の目的地である、ショッピングモールに来ていたのだ。
翔太「なあ しおりぃ こっちとこっち どっちがいい?」
汐梨「んー… 右の方がいいかな」
翔太「えーこれだとガキっぽくね?」
汐梨「…小学生らしくて いいと思うよ」
どうやら翔太は子供っぽく見られるのが不服らしいが、どう足掻いても、まだ小学生にしか見えないので汐梨は困っていた。
そして…同じ頃、新宿に遊びに来ている麦野たち一行は、偶然にも同じビルの中のショッピングモールに立ち寄っていた。
しかし場所は汐梨が絶対行かないようなギャル服専門店。
ミナ「きゃーこれめっちゃ可愛くない」
ルミ「いいじゃん 試着してみなよ」
ルミに言われて「うん」と上機嫌でフィッティングルームに向かったのだ。
ルミ「朱夏ぁ この後なんだけどどっかカフェ寄んない?」
麦野「うんいいよ」
ルミ「ミナがかわいいカフェ見つけたらしくてぇ パンケーキが ほら見て!」
麦野「えっ いーじゃんマジかわいいし美味しそ」
と、まあ 3人はこんな感じなのである。
***
そして…また別の場所では
たった1人でずっと捜査している八つ谷署の刑事 岡松。
一つ一つ足で捜査し、地道に聞き込みをして、寝食忘れてボロボロになりながら確かな情報を手に入れた所であった。
岡松「ホストクラブセレーネの柊兜か」
岡松は何日も風呂に入っていない…さすがにこの状態でホストクラブには行けないし、まだ営業時間外でもある。現在捜査権がない自分には表立って捜査が出来ないのだ。腹も空いている。
そして クンクンと自分の臭いを嗅いで顔を顰めるのだ。
岡松…とりあえず 風呂に入って着替えるか…その後飯」
岡松はそう言って、近くの銭湯に向かうことにした。
***
そして……更に時間が経ち、漸く神代泉雲が動き出したのだ。
己の目立つ銀髪を、隠すようにフードを深く被り、部屋を出てエントランスではなく、上の屋上へと向かう。
その様子を見守る(監視する)荒島。
荒島「いってらっしゃいませ ディナーを用意してお待ちしております」
泉雲「…ありがとうございます また 後で」
おそらく 泉雲が敬語で話すのは今のところ荒島だけだろう。
その泉雲は屋上に出て集中し、瞳を閉じて妖気を探るのだ。
(ふーん…怨霊がウヨウヨいんな… さすがは欲望渦巻く華怒鬼町ってとこか 妖気が…2つ)
そしてすぅっと瞳を開いて
「あたってみるか…」
泉雲がそう言って 近くのビルに飛び移って行き、その姿はすぐに見えなくなっていったのである。
そして…太陽も傾いてゆき、空がオレンジ色に染まる頃、眠らない街新宿華怒鬼町が目覚めるのだった。
麦野たち3人組は、とある女子トイレで派手めの化粧を施し、服も本日購入した大人っぽい装いに替えたのだ。
ルミ「ねぇ…ほんとにホストクラブなんか行く気ぃ?」
口紅を塗りながら、ルミは乗り気無さげに隣のミナに語りかけ、それでもバッチリキメていく。
ミナ「あったり前じゃん!ここまで来たら絶っっ対あの王子様柊兜に会うんだから!」
ルミ「だったら1人で行く?」
ミナ「やだやだっ 1人なんて心細いじゃん絶対来てよ!2人とも」
麦野「まーたまには いいけどぉ最近刺激ないしぃ」
ミナ「さっすが朱夏!夏の〝甘い思い出"作ろ♡」
ルミ「まだ夏じゃねーし ホストクラブが〝甘い思い出"かよww」
ミナ「いーのいーの先取りだから♪」
3人で、キャッキャ騒いでいる所に、なんとタイミング悪く藤峰汐梨がやって来たのだ。
こんな所でバッタリ出くわしてしまったのである。
(騒がしいな…って思ってたら… む 麦野さんがっ いたー!!!)←心の中でのみ絶叫。
思わず顔を背けバレないかとヒヤヒヤするが、今の汐梨は学校の見た目と違い、長いすだれのような前髪を除けば普通なので、麦野は気づかないのである。
なので
麦野「でーどこの店だってぇ?その王子様とやらは?」
ミナ「だからー華怒鬼町〝セレーネの柊兜だってば」
麦野たち3人組は、汐梨には全く気づかずに、キャッキャ騒ぎながら女子トイレを出て行くのだった。
(…麦野さん…なんだかいつもより大人っぽい…ちっとも私に気づいてくれなかった…)
少し落ち込んだが、汐梨はなぜだかその時別の胸騒ぎを覚えたのだ。
(…あれ?なんだろ この胸のざわめき… さっき なんか気になったんだけど…なんだろ?)
そして汐梨は麦野が気になって、こっそり後をついて行こうとするが…
翔太「おい しおり どこ行こうとしてんだ?」
もちろん女子トイレの出入口では我が弟翔太が待ち構えているわけで…
汐梨の都合など知らない翔太は
翔太「とーさんから電話あった 遅くならないうちに帰って来いってさ」
汐梨「…そーなんだ… じゃー帰ろーか」
翔太「今日のデートは楽しかったな♪」
汐梨「…そーだね」
汐梨はそーは言ったが、帰る気にはなれなかった。
汐梨(麦野さんを見てから…なんでだろう なんでこんなに気になるんだろう…)
そして…ふと振り返った時 なぜだか北斗の声がした。
ーチカヂカ オマエのマワリデ大キナワザワイがオキル オマエガ ウゴクンダー
汐梨「……」
一旦は電車に乗り込んだ汐梨だが、
汐梨「し しょーた ごめん 私 やっぱり残る」
翔太「は? 残る」
汐梨は弟翔太にそう言い残し、電車のドアが閉まり出した時、するりと1人降りたのだ。
翔太「え? しおり!どーしたなに勝手に降りてんだよ!」
完全に扉が閉まって翔太は汐梨の後を追えない。そんな翔太に向かって、
汐梨「ごめん!パパには後で電話するから」
汐梨はそう言い残し、改札口に向かい走り出した。そしてさっきの麦野を見た時の違和感の正体に気づいたのだ。
(あれは……きっと〝瘴気"だ!)
普段は完全防備のフィールド付きメガネをかけてる為何も"視えない"が、今は違うメガネをかけてる為少し視えるのだ。妖や怨霊、そして瘴気が……
(…なんで麦野さんから瘴気が?)
そしてさっき突然北斗くんの声を聴いたような気がする…
汐梨はそんな事を考えながら麦野の為に走っているのだ。
改札を出て、スマホを取り出し、さっき麦野たちが言っていた店、〝セレーネ"を検索する。
(確か…華怒鬼町 セレーネ…あった ここからだと…けっこー遠いかな 術使ったら早く着くけど…人目につきすぎるし…)
少しウロウロして考えてみたが、タクシー乗り場が目に入り、汐梨はそこへ向かった。
そして空車に乗り込み、運転手が「どちらまで?」と聞いて来たので、
汐梨「か 華怒鬼町のセレーネってお店までお願いします」
運転手「…はい 了解しました」
運転手はそう応えたものの、後部座席の汐梨をチラリと見遣り、
(…あんな若い娘さんが ホストクラブなんかに通ってるのか…世も末だな…)
と、少し哀れみの表情を滲ませて、タクシーは華怒鬼町に向け走り出したのである。
そして…その頃麦野たちは、
歳を誤魔化してホストクラブセレーネの中で無邪気に楽しんでいた。
ホスト柊兜「ほんと!姫たちかわいいねー19才なら今めちゃくちゃ楽しいんじゃん?」
ミナ「やーん 柊兜ったら正直なんだからぁ♡ 飲んで飲んでー」
大人っぽい化粧をしているとはいえ、まだ彼女らは15や16才。
流石に二十歳には見えないこともあり、現在18〜19才の女子大生であるとウソをついて入店しているのだ。
ミナはお目当てのナンバー入りホストである柊兜を指名し、ご機嫌なのである。
麦野やルミも店のNo.1 No.2を指名した。
そーやって、はじめて未成年でホスト遊びをしている所にタイミング悪く、刑事の岡松が現れたのだった。
***
そして同時刻…その華怒鬼町に、黒く蠢く大きな影がセレーネが入っているビルの屋上に現れたのだった。
大きなしっぽと、まるで管のように口が長く尖っていて全身は硬い鱗に覆われているようで、見た事のない動物のような姿をしている。その妖は、腹を空かせてビルの屋上に現れたのだ。
妖「ふーあれだけじゃ足らんのぉ どっかに喰える人間 できれば〝生娘"がええのぉ」
ギョロギョロと動く目玉が街中を物色する。
***
妖が姿を現した頃 泉雲は…華怒鬼町から少し離れた郊外に居たのだ。
「こいつは違うな…」
と妖気を感じた場所には来たが、どうやらハズレだったようだ。
だがしっかり始末はする。
そして…もう一度精神を集中し、妖気を探る。
(少し 離れた所に 別の妖気が …増えやがった…魑魅魍魎多すぎだろこの街…)
そして泉雲はウンザリして自分のスマホを取り出し、今回の妖の特徴を調べてみた。
(…こいつは 人間を中から喰ってんだな 口が細いノズルのようになってんだろ…ケモノに近いか? 該当するバケモノは…この〝脳喰い"が近いな…)
「結局 戻んのかよ… めんどくせぇ」
そして泉雲は舌打ちをし、再び高く飛ぶようにジャンプし、ビルの屋上を飛び移りながら、徐々に麦野たちがいる華怒鬼町へと向かうのだった。
***
そしてホストクラブセレーネの中では、自分の妹の変死遺体に関わりのある、重要参考人の1人と当たりをつけた、ホストの柊兜に刑事の岡松が対面したところであったのだ。
岡松「お前が 柊兜か?」
柊兜「はい? お客さん 誰?」
岡松はギロリと睨みつけとても低い声で
岡松「…お前に聞きたい事がある ちょっと来い」
なにやら不穏な空気ではあるが、現在営業中で、周りには麦野たち(お客)がいる。柊兜もホストのプロなのでなるべく穏便に済ますか、あるいは黒服を呼んで、この得体の知れない男を店の外に追い出してもらうか考えている。
柊兜「…ちょっとちょっとお客さーんいきなりなんなんです?こっちは見ての通り先客がいるんですよ? どーしてもってなら指名してくださいよ〜 」
岡松は若造に揶揄されて苛立ち、つい警察手帳を取り出して国家権力を盾に、実力行使に出たのである。
それに驚いたのはホストの柊兜もさることながら、周りにいた麦野たちだ。
自分たちは未成年であり、年齢を偽ってホストクラブに入店してるのだ。
(なぜ こんな所に警察が?)と3人とも内心ビクビクとし、警察と言われる男とホストの男が言い争いを始めたので、巻き込まれたくない3人は目を盗んでコソコソとその場から離れたのである。
しかし、彼女らの行動を不審に思った別の黒服スタッフが後をつけ、案の定彼女らは半分パニックになっていたので お会計を忘れて店を出ようとしていた、
なのでそこで声が掛かったのだ。
黒服A「ちょっと君たち!」
振り向くと、スーツを着た男に声をかけられたので、麦野たちはさっきの刑事の仲間だと誤解し、更にパニックになって会計もせず、店の扉から出ようとしたので、黒服は無銭飲食と認識し、ギリっと奥歯を噛み締めて声を荒げた。
黒服A「おいコラ クソ女共! 飲み食いして金も払わず逃げようなんざ マジふざけてんのか?」
ミナ「きゃあーっごめんなさいごめんなさい! ちゃっちゃんと払いますからっ」
ミナはそう言ってブルブル震える手で財布を開けて、1万円を差し出した。
払う気があると理解した黒服、そこでまた穏やかな顔になり、
黒服A「1万円ですね ありがとうございますお釣りをお渡ししますので少々お待ちください」
ぺこりとお辞儀をされて、黒服がカウンターに向かったので、麦野たちは警察に捕まりたくない一心で、黒服の目を盗んで店を出たのだ。すぐエレベーターを呼び出し、下のボタンを何度も押して「はやくはやく!」と手足をバタバタさせて祈るようにエレベーターの動きを見守った。
そしてやっと到着したエレベーターに飛び乗り、出口へと急ぐのだった。
だが…ようやく店の外へ駆け足で出てきた麦野たちに次の災難が襲う。
それは…例の妖…
どうやら麦野から発する【瘴気】に惹かれて近くまできていたのだ。だが その姿は麦野にしか視えないモノだった。
麦野「は? なっなんなの コレ??」
突然麦野が声を出したので、
ルミ「え? なに??朱夏どーしたの?」
ミナ「?なんで突然立ち止まるのよおっ」
もちろんルミやミナには視えないおぞましい異形なるモノ。
妖「おっ? やっぱ娘子お前 おいらが視えんだべな おいら ラッキーだべ 」
妖は己の目を光らせて麦野の身体の自由を奪い、動けなくなったところで麦野の腕を掴み、高くジャンプしたかと思えば飛び去った。その時につむじ風が発生し、ルミとミナは突然の衝撃で後ろに飛ばされるように倒れたのだった。
一瞬であった。
汐梨「うそ? そんな … 麦野さんっ 」
それは……走るタクシーの中から視えた一瞬の光景で、たった今タクシーで現場に着いた汐梨にはどうする事もできなかったのだった……
いつもご閲覧ありがとうございます!…ちょっと文字数が増えましたが…
次回もまた不定期投稿なると思います。また投稿日は活動報告書にてお知らせ致しますのでよろしくお願いします。