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ラストワールド  作者: しじまゆう
第一章 錆びる世界
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始まりの胎動3

 イオンから一緒に世界を救おうと持ち掛けられたクロム。

 一方、帝国ではヘルメスの遺産の一つが永い眠りから目覚めようとしていた。

 独立機工都市アーケンローズ郊外の錆漠(さばく)、ステインを加えた新生フェルミ班は討伐任務のためにここを訪れていた。

 というのも先日の砂嵐で(ラスト)の大量発生が確認されたためである。

 仮に群れの中に大型の(ラスト)が混ざっていたとしても、独立機工都市(アーケンローズ)の多重防壁が破られるとは思えないが、日頃から数を減らしておくに越したことはない。

 というのは建前で、新入団員の実力を確認するというのが今回の本命である。


(ラスト)は錬成武器でしかダメージを与えられへん。なんでかわかる?」

「普通の武器だと(ラスト)に届く前に風化するからだろ?」

「それもあるけど、錬成武器には(ラスト)を還元する作用もあんねん。

 錬成反応の副産物として錬成光を放出するけど、これはおまけみたいなもんや」


 (ラスト)を元の瓦礫に戻して無力化する。

 それが可能なのは錬金術師だけ。

 彼らの振るう錬成武器こそが唯一の対抗手段である以上、生身の人間には為す術もない。


 錬成武器を幾つも作って貸し与えられればいいのだが、錬金術師によって作れる数にも限度があるし、時間が経てば力を失う。

 そんなわけで、本人が戦闘に不向きな研究職や事務方でもない限り、一般人に錬成武器を持たせることは滅多になかった。


「でも、錬金術って一定の手順を行えば誰でも使えるんだろ?

 だったら、賢者の石の欠片(フラグメント)を量産してみんなに配ればいいんじゃないのか?」

「それがそうもいかへんの。

 まず第一に、賢者の石の欠片(フラグメント)は製法が失われてんねん。

 そもそも、欠片っちゅうくらいやさかい、賢者の石(ラピスフィロソフィア)の原石も存在するんやけど、それを作れたのはヘルメスはんだけなんよ。

 うちらはそれを発掘したりして使うてるだけ」

「ふーん」


 数が少なければ当然、錬金術師になれる者は限られてくる。

 そうなれば帝国のように力を独占する連中も出てくるのは必然だった。


「もう一つの理由は、こっちの方が大事なんやけど……その前に、あいつらなんとかしまひょか」

「…………ッ!」


 フェルミの視線の先、見覚えのある複数の(ラスト)の姿を見咎め、全員が臨戦態勢をとる。

 背中から棘を生やした犬のような姿、通称ヘッジドッグと呼ばれる小型の(ラスト)は、最弱クラスではあれど群れを成すので侮れない。


「まずは錬成武器の作り方からな。

 作りたい武器のイメージを思い浮かべて念じるんやけど……その際、起動文節(イグニッションコード)を使うと手順を簡略化できるねん」

「へえ……」


 言われてステインは額の賢者の石の欠片(フラグメント)に意識を集中していた。

 相変わらず曲がったものしかイメージできないのが難点だが、それでもやりようはある。


「たとえ心が曲がろうと(ファースト)も、この金梃は錆びることな(イグニッション)し」


 彼の言葉に応えるように、周囲の瓦礫が収束し、手頃なサイズのバールが出現していた。

 悩みに悩んで選んだ自分だけの武器である。見てくれは悪いが使い勝手は悪くない。


「近接武器はリスクも大きいけど、あんさんの能力を考えるとその方がええのかしらね」


 入団テストで見せたあの能力、どうやら接触しないと使えないらしく、それならば近接武器との相性は悪くない。

 とはいえ前衛になれば被弾する危険性は思いっきり跳ね上がる。


「ほな、ステインはんの実力、見してもらいまひょか。

 クロ君とリーベはんは後方支援、アルミナはんは周辺警戒をお願いな」

「応!」


 意気込むステインは襲い掛かる(ラスト)の群れをバール一本で迎え撃つ。

 どうやら戦闘はそこそこできるらしく、殴打で(ラスト)を撲殺したり、バールで(ラスト)を引っ掛けて別の(ラスト)にぶつけたりと、なかなか豪快な戦い方である。

 クロムも後方から援護射撃しているが、背後に回り込もうとする(ラスト)を処理するくらいで充分だった。

 あっという間に(ラスト)が蹴散らされていく。


『敵集団の殲滅を確認……五時方向から第二陣、来ます!』


 周囲を漂う蝶がアルミナの声で警戒を促すと同時に、後方から再び(ラスト)の群れが出現する。

 その中にはデアーフライシュッツ、鹿のような見た目だが頭部に銃角と呼ばれる器官を持ち、遠距離攻撃もしてくる厄介な(ラスト)も混じっていた。

 そいつらが一番近場にいるレベッカ目掛けて一斉に襲い掛かり。


「ちょうど暇を持て余してたところですわ。

 わたくしの愛の花火、クロム様のために一花咲かせましょう!」


 スカートの中にでも隠していたのか。

 迫りくる(ラスト)の群れに複数の爆弾が投げ込まれる。

 凄まじい爆発が連鎖し、錬成光を纏った爆炎が大量の(ラスト)を吞み込んでいた。


 ようやく爆風が収まった後に動く者は何一つない。


「おーっほっほっほ、わたくしの活躍見て頂けましたか、クロム様?!」

「なんか……色々とすげーな」


 勝ち誇るレベッカと、その迫力に気圧されるステインと。

 その様子を眺めながら、頭を抱えるフェルミだったが、さらにアルミナが警戒を促す。


『新たな敵反応……今度は大型の(ラスト)です! 皆さん気を付けて!』


 言い終わるや否や。

 錆漠(さばく)を割り裂くように地中から飛び出してきた何かの尻尾が、一同の真ん中に叩き付けられていた。


  ●


 蠍型の大型の(ラスト)がフェルミ班を睥睨している。

 そのサイズは以前見た蛇型の(ラスト)よりも一回り大きかった。

 複数の重機が融合したような外観だが、鈍重に見えて意外と機敏らしい。


「みんな無事か!?」

「ああ、なんとかな……」


 何とか奇襲をしのいだものの、相手の威圧感は凄まじい。


「さっき言い忘れとったけど、力に溺れた錬金術師は錆堕ち……すなわち、自分自身が(ラスト)になってしまうんよ。

 そうして生まれるのがこいつみたいな大型の(ラスト)。うちらは星持ちとも呼んどるけど、他の(ラスト)とは比較にならん強さなんや」

「何だって!?」


 錆堕ちは錬金術師にとっての最大の禁忌である。

 必要以上の力を引き出せば、代償としてその身を錆に蝕まれるのだ。軽い錆なら取り除けるとは言え、それでも力に溺れれば、やがて自我を失い(ラスト)と化す。まさに身から出た錆というべきか。

 そのため、錬金術師になれる人間は厳格に選ばれなければならない。

 当然、師匠となる人物から最初に教わるのが常識なのだが、やはりというかステインには詳しいことは語られなかったのだろう。


「師匠からはみだりに力を使うなって言われてたけど……そっか。そういうことか」


 真実を話せば錬金術師への風当たりは強くなる。

 ただでさえ一部の人間が力を独占している状態なのだ。下手に危険視されれば信頼も危うい。


「星持ちの体内には黒い賢者の石(アンチフィロソフィア)と呼ばれる核があんの。

 賢者の石の欠片(フラグメント)がエゴと共に肥大化し黒く染まったもの……そいつを破壊せんと奴等は倒せん」

「しかもこいつは二つ星……他の錬金術師を殺したかして取り込んだな」


 頭部と尻尾の先、両方から黒い賢者の石(アンチフィロソフィア)の反応があったらしく、一同は警戒を強める。

 当然だが核が増えれば増えるほど(ラスト)の危険性は増す。

 戦力的には何とかなりそうだが、こちらには新入りもいるのだ。あまり無理はできない。


「みんな、気ぃ付けてな!」


 警戒を促しながら、フェルミがその髪を伸ばす。

 錬成光を纏った彼女の髪が、大型の(ラスト)の鋏や前肢を纏めて縛り上げていた。

 だが尻尾までは拘束できていない。

 身動きの封じられていない尻尾が、悪あがきだろうかがむしゃらに振り回される。


「任せろ!」


 バールを片手に飛び込んできたステインが、その一撃を辛うじて受け止める。

 先端の鋭い針が眼前に迫るが、咄嗟に余った手で触れるとそれはあらぬ方向にねじ曲がっていた。

 すかさずフック状になった針先にバールを引っ掛けると、そのまま力任せに針を尻尾の先端ごと引き抜いていく。

 ボロンと転がり落ちた尻尾の断面から、黒い結晶がのぞいていた。


黒い賢者の石(アンチフィロソフィア)、露出!』

「こいつが……」


 それが元は人間だったものの成れの果てと知り、一瞬ためらうような仕草を見せるステインだったが、意を決してバールの曲がってない方の先端を突き立てると黒い結晶を力任せに叩き砕く。

 とりあえず尻尾の方は何とかなったが、まだ本体の方が残っていた。

 とはいえ頭部の核は分厚い装甲に守られている。クロムの銃では心許無い。


「でしたら!」


 レベッカが放った爆弾が炸裂する。身動きできないところに直撃を受けてはひとたまりもない。

 砕かれた装甲の隙間から黒い結晶が覗き見えた。


「今ですわ!」

「…………っ!」


 一拍遅れてクロムの放った銃弾が黒い結晶を打ち砕く。

 二つの核を砕かれたことで、大型の(ラスト)がゆっくりと崩れ落ちていった。


『周辺探査、残敵なし……皆さん、お疲れ様でした』


 アルミナのねぎらいの言葉に、一同はようやく息を吐く。

 なかなかの強敵ではあったが、思ったよりもステインが活躍したことで被害もない。


「ふふん、これなら俺も()()()()に参加できるよな?」

「そやな。でも……」


 自信満々のステインの言葉にも、フェルミの反応は浮かない。

 その視線の先には物思いに耽るクロムの姿があった。

 先程も一瞬反応が遅れていたが、昨日からこのような調子である。


「あー、なんだっけ、錬星盤(エメラルドタブレット)を使えなかったのがそんなにショックなのか?」

「しっ、そんなん言わへんの」


 それというのも、昨日あのあと、仲間にも話すという条件付きでクロムはイオンの申し出を受けたらしい。

 そのうえで情報交換した彼らは、錬星盤(エメラルドタブレット)が本当に使えるか確認したところ、うんともすんとも言わなかったのである。

 ヘルメスの血を受け継いでると言われたクロムはもちろん、フェルミやアルミナが試しても反応はなかったことから偽物を疑う声もあったが、それはないとイオンは言い張っていた。

 結果的に思春期の少年は色々と思い悩んでしまっているのである。


「まあ、本番で起動し(たた)ないよりマシだけどよ、昨日もなんか『今はその時ではない』とか格好つけて言ってたじゃないか」

「そやけどやっぱしショックなんや思う。

 お母様の事もあるし……」


 実際のところ、白銃のシャムロックがクロムの母親だという証拠はない。

 もしかしたら何処かから孤児を拾ってきただけの可能性もある。

 薄々感じていた不安が今回の事で表面化してしまったのだ。彼にとって自身の存在意義(レゾンデートル)を否定されたようなものだろう。

 日頃から少し斜に構えていたのも、そんな漠然とした不安感からの逃避行動かもしれない。


「でも、そうなるとあいつ(イオン)の言ってた世界の再生計画ってどうなるんだ?」

「どうかしら。

 団長は本人さえその気やったら協力するって言うとったけど」


 結局あの後ジルコン団長も事情を話し、本人さえその気なら協力を惜しまないと言っていた。

 それでもアルミナは不服なようだったが、クロムが錬星盤(エメラルドタブレット)を使えなければ話は違ってくる。


「世界の再生か……本当にそんなことができるんなら、俺だって命は惜しまないぜ。

 (ラスト)の脅威に怯えなくていい世界をリンに見せてやりたいからな」

「……はぁ、こっちはこっちでシスコンとか頭痛いわ」


 呆れたように呟くフェルミだが、いずれにせよこのまま見過ごすわけにもいかない。

 色々と悩ましい事情を抱えたまま、時は過ぎていく……と思われた。


 ※錬成光についての説明をちょっと修正。

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