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ラストワールド  作者: しじまゆう
第一章 錆びる世界
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炎上する帝都1

 復活したトリスメギストスを破壊したものの力を使い果たし昏睡状態に陥るクロム。

 さらにアイゼンに捕らえられたフェルミ一行は帝都に連行される。

 目の前に見覚えのある赤い少女が漂っている。

 彼女は()に優しく微笑みかけるが、水の中では声をかけようにも言葉は泡となって消えていく。

 言いたいことはたくさんあるのに、思いが伝わらないもどかしさに吐いた溜息すら泡沫と化す。


『大丈夫、もうすぐ会える……』


 確信めいた少女の言葉に、しかし私は必死に何かを伝えようと藻掻き――


(私? 私とは誰だ?)


 ふいに沸いた疑問さえ、泡のように溶け消える。

 自分が何者なのかわからぬまま、私の意識は冷たく昏い水底に沈んでいくのを感じていた。


  ●


 偉大なる銀の帝国(グレートシルバニア)は大陸西部に帝都を持ち、その圧倒的な威容は訪れる者に畏怖を抱かせるという。

 それは護送車に乗せられたフェルミ班の面々でも変わりはなかった。


「噂には聞いとったけど……旧時代の建造物がこれほどきれいに残っとるのも珍しいなぁ」

「確かに、こんなの見せられたら並の人間だったらビビるかもな」


 あくまでも強がって見せるステインはさておき、目の前に浮かぶ巨大なピラミッド型の建造物は大崩壊を経てなお姿形を保ってるように見える。

 その白く輝く外装は、錆すら寄せ付けないだろう。


「あれはオムニ合金……か?」

「その基になった金属なのかも。正直ヘルメスの技術は月でも再現できないことが多いし」


 イオンが肩をすくめて見せるが、だとすればそれだけの技術を持った文明を滅亡せしめた大崩壊とはどれだけの大災厄だったのか想像するだけでも余りある。

 とはいえ過去に思いを巡らせていても仕方ない。


「……で、目的地は……アーカイブはあの下なんだな?」

「クロム!?」

「兄さん……」


 先程まで昏睡状態だったクロムが起き上がるのを、皆が驚きの声で出迎える。

 辛うじて異形化した半身は人の形に戻っているが、ほとんど金属か何かと同化しているようだった。

 例の薬……エリクサーの力をもってしても元に戻らないとすると、相当な負担がかかっているのだろう。

 あるいは彼自身がそれを望んだ結果なのか。


「それより、あなた……アーカイブの場所をどこで?」

「呼んでる気がするんだ……何故かはわからないけど」


 錬星術でアーカイブに接続を繰り返すうち、何らかの影響を受けたのだろう。

 だがそれが必ずしもいい結果ばかりとは言えない。


「……それにあの力……あれは理論すら封印されてるような危険な技術よ。

 そんなものをどこで……」

「…………」


 クロムは答えない。

 あるいは自分でも理解できていないのか……あまりよくない兆候にイオンは思わず歯噛みしていた。

 確かに彼には才能がある。

 だがそれはあまりにも不安定な代物だった。

 世界を救えるほどの力は、使い方を誤れば世界を滅ぼすこともできる。

 自分ならそれを導けると思っていたのだが、場合によっては計画を修正しなければいけないかもしれない。


「……まあいいわ。

 確かにアーカイブは帝都の地下深くに眠っている。

 幸い連中はあたしたちの目的に気付いてないわ。そもそもアーカイブの存在も知らないんでしょう。

 ……今なら出し抜けるかもしれない」

「そんなに上手くいくん? 相手はあのアイゼンなんやし……」

「他に方法もない。問題は月がどう動くか……」


 クロム達が知る限り、月貴族(アルテミス)の残り戦力は降下艇が2隻にそれに付随する戦力……おそらくは月の巫女姫エンディルや白銃のシャムロックも控えている。

 でなければ例え相手があの錬装機神トリスメギストスだとしても一方的に蹂躙されるとは思えなかった。

 眠れる巨神を完全復活前に破壊できたのは僥倖とはいえ、今後のことを考えると相変わらず厳しい状況には変わりない。

 それに懸念点はまだある。


「あの薬……もう残ってないのよね?

 クロム、あなたが錆堕ちしたらそもそもの計画が台無しよ。

 錬星術はまだしも、あの力だけは絶対に使わないで」

「…………」


 無言で頷くクロムだが、どこまで信用していいかわからない。

 トリスメギストスを超える脅威が現れないことを祈るしかないだろう。


「帝都、か……」


 やがて彼らを乗せた護送車は帝都、その中心となる白き巨城アルビオンへと入っていくのだった。


  ●


 アルビオンの城内は帝国の権威を示すように豪華な家具や調度品で飾り立てられていた。

 そのほとんどが旧時代の骨董品であり、その外観も相まってさながらモダンな美術館のようでもある。


「けっ、帝国は昔からいけすかねぇと思ってたが、これを見てますます嫌いになったぜ」


 おそらくは各地から事実上の略奪を繰り返してきたのだろう。

 ある意味その証拠品の数々を前に、ステインは思わず独り言ちる。

 その価値まではわからなくとも、これ見よがしに並べ立てられたそれらの品々はどれも高そうなものばかりだった。

 マダム・ジャヒーの居城も似たようなものだったが、規模が明らかに違う。


「ほら、さっさと歩け」


 兵士にせっつかれながら一行は城内の廊下を歩く。

 てっきり牢屋にでも連れていかれるかと思ったが、そうではないらしい。


「何処に連れていくつもり?」

「余計な口を開くな。あのお方の前でも無駄口をたたくようなら、容赦せんぞ」

「……む」


 あのお方、というのが誰なのかわからなかったが、その正体はすぐに分かった。

 通されたのは謁見の間、その奥のきらびやかな玉座におわすのは、間違いなく。


「プラティナ陛下……!」


 銀の帝国の若き皇帝、プラティナ・M・シルバニアその人であった。


 まだ少年の面影を残した幼い皇帝は、謁見の間に集った()()の若者を物珍し気に眺めている。

 その傍らには宰相のアイゼン。先日のダメージから完全に回復したのか、見た目に負傷の痕跡は見当たらない。

 彼が皇帝の傍らで何やら耳打ちすると、プラティナはその顔を子供のように輝かせ。


「おお、そなた等が独立機工都市(アーケンローズ)の生き残りか。

 余はプラティナ・M・シルバニア。銀の帝国の三代皇帝である」

「まさか皇帝陛下御本人とはな……」

「ええい、無礼者! 陛下の前でそのような態度とは!」


 クロムの態度に周りの兵士が騒然となる。

 それもそうだろう、銀の帝国はこの大陸のほとんどを牛耳っているといっても過言ではないのだ。その皇帝となれば、簡単に口が利ける存在ではない。

 しかし目の前の白い少年は退屈そうにそれを制し。


「……よい。それより、お主はあの白銃のシャムロックの息子だそうだな……確か……」

「黒銃のクロムウェル、にございます」

「……そうそう、確かそんな名前であった」

「……黒銃?」


 クロムは昏倒していて知らなかったが、その名前で呼んだのはアイゼンである。

 わざわざ敵対勢力に大層な称号を贈る意図はわからなかったが、その理由はすぐに分かった。


「お主が我が帝国の巨人を破壊せしめたと聞いておる。

 アイゼンを出し抜いての偉業、まこと敵ながら天晴。

 ならば英雄に相応しい称号を贈るのは当然であろう?」

「…………」


 要するにこちらを祭り上げることでアイゼンの……ひいては帝国の失態を有耶無耶にしようという魂胆らしい。

 おそらく宰相の口添えだろうが、意外とせこい立ち回りである。


「しかし困ったな……巨人(トリスメギストス)月貴族(アルテミス)への切り札だったはず。それを失ったとなると、我が軍の力をもってしても臣民への被害は避けられぬだろう。

 さて、どうしたものか……」


 そう言って考える素振りをするプラティナだが、要するに遠回しに責任を取れと言っているらしい。

 クロム達が断れる立場ではないと知った上で、である。

 おそらくこれもアイゼンの入れ知恵なのだろう。

 そのために皇帝の権威を利用する当たり、相手もなりふり構っていられないのかもしれない。


「立場は違えど、ともに月と戦う志を持つ者同士、今は協力しようではないか」

「…………」


 月の脅威が迫る今、帝国との共闘は仕方ないだろう。

 断れば何をされるかわからない。

 どちらにせよ、彼らに選択肢はなかった。


「恐れながら、皇帝陛下にお聞きします。我が仲間、レベッカは今どこに……」

「レベッカ?」


 問われて皇帝はアイゼンに視線を送る。

 帝国軍に捕らえられた時点で彼女とは引き離されてしまった。

 どうやらアイゼンと共に一足先に帝都に戻されたらしいのだが……。

 彼女の立場としては帝国から亡命した裏切り者、クロム達より厳しい罰が下されてもおかしくない。

 だがアイゼンから耳打ちされた皇帝は態度を軟化させる。


「おお、アウラの事か。

 安心せよ、彼女は我が伴侶となる身。些細な行き違いがあったにせよ、決して悪いようにはしない」

「伴侶って……婚約者ってこと!?」

「うむ、我と彼女は許嫁というやつでな……」


 少し恥ずかしそうに言うプラティナは年相応の少年に見える。

 悪いようにしないというのは本心なのだろう。レベッカ本人の意思はさておき、クロム側としても特に異論はない。


「……わかりました。先程の話、できる限り協力しましょう」

「おお、やってくれるか。では、ささやかながら宴を催そう。

 地上に生きる者同士、共に月の脅威を打ち払うのだ!」


 謁見の間から歓声が沸き上がる。

 皇帝が思ったより話せる人物であったのが意外だが、すべてはアイゼンの掌の上で踊らされているのかもしれない。

 それを示すように。


「あの皇帝、偽物だった……」

「偽物って……まさか、アイゼンの作った複製?」


 客室に案内された後、イオンの口から出た言葉に皆が驚きを隠せない。

 だが、千里眼を持った彼女がそう断言するのなら、それはおそらく本当なのだろう。

 人一人を完全に複製して見せるアイゼンの腕前も相当だが、実際に例の研究施設で彼の複製と戦ったことがある以上、その実力に疑う余地はなかった。


「結局、帝国もあいつが全部裏で糸を引いてるのかよ!」

「じゃあ、本物の皇帝はどこに?」

「もしかしたら、レベッカはんの亡命はそのこととも関係あるのかもしれんなぁ」


 レベッカと合流できれば事情が分かるかもしれない。

 とはいえ、彼等にとってはアーカイブの探索も急務である。

 表面的には協力体制となっているが、事実上軟禁状態であることは変わらない。帝国の監視をかいくぐり、本来の目的を果たす……そう簡単にいくとは思えなかった。

 それでもやらなければならない。

 決意を固める彼等に、運命の時は刻一刻と近付いているのだった。


 すみません、体調不良が重なってお休みしてました。

 年内には完結を目指します。

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