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プロローグ

 ――その世界は鉄と蒸気と機械仕掛けの幻想で出来ている――

 真昼の空に浮かぶ白い月が、どこまでも続く赤茶けた大地を見下ろしている。

 まるで黄昏にでも落ちたかのような世界の中、今にも崩れ落ちそうな信号機の上に一人の少年が佇んでいた。


「――来たか」


 視界の先に映し出された砂塵を見咎め、彼はポツリと言葉を漏らす。

 事前に情報があったとはいえ、この錆びだらけの大地を渡るものなどそうはいない。


 防塵マスクがなければ人間などものの数分で肺が腐り落ちる。それがこの錆漠(さばく)と呼ばれる人類を拒絶する地獄のような領域であった。

 しかし、見た目は14、5だろうか、まだ幼さを残した黒髪の少年は軍服の上にボロボロの防塵マントを羽織るのみで、猛毒の砂塵など気にも留めていない。

 この空間を生身で生き残れるものなどそうはいないというのに。


「反応は?」

『生命反応が一つ……いえ、二つかな。片方はだいぶ弱ってるみたい』

「――そうか。帝国の差し金ってわけではなさそうだな」


 少年は傍らを羽ばたく淡い光に包まれた蝶と言葉を交わす。

 それより、()()の見立てが確かなら、急がなければなるまい。


 視界の先に映る砂塵の主は、旧文明のスクールバスのようだった。

 あちこち応急処置の跡があるとはいえ、この錆漠(さばく)を単身で渡るにはあまりにも無謀が過ぎる。

 この錆びた大地で人類を拒むのは、猛毒の砂塵だけではないのだから。


 スクールバスは何者かから逃れようと車体を右に左にと揺らしている。

 その後から追いすがるのは、獣のような形をした何者か。複数の、まるで犬だか針鼠だかの姿をしたそれは、錆だらけの瓦礫で構成されていた。


 機械でも生き物でもない。

 旧文明の残骸に憑りつき蟲や獣のように振舞うそれを、人々は(ラスト)と呼び忌み嫌っていた。

 かつて鉄の時代と謳われ繁栄を謳歌していた人類を、ものの数年で絶滅寸前にまで追い込んだ元凶である。


 それでも、人間たちは肩を寄せ合い細々と生き延びていた。


「たとえこの身が錆びよう(ファースト)とも、この弾丸は錆びることな(イグニッション)し――」


 少年の口から呪文のような起動音節(イグニッションコード)が放たれる。

 それと同時に、周囲の砂塵が集まると、黒い錬成光が放たれ、彼の両手に二丁の拳銃が握られていた。

 すかさずマントを翻し、空中で発砲音が二発。


 バスの屋根に舞い降りると同時に、()()(ラスト)が崩れ落ちる。

 さらに発砲音が響くたびに、錆の化け物は二体ずつその身を銃弾に撃ち抜かれ、まるでそれが当り前かのように動きを止めていった。

 あっという間に追跡者が元の瓦礫と化していく。


「錬金術師!? 助かった!」

「いいから、そのまま走れ!」


 運転席の方から思ったより若い声が返ってるが、少年は後方を睥睨したまま急かしていた。

 その視線の先、赤茶けた大地が徐々に盛り上がり、それを突き破るように黒く長い影が飛び出してくる。


「――ち、厄介なのを連れてきたな」


 まるで電車を線路ごとねじって蛇のように仕立てたような歪なデザイン。

 吐き捨てる少年目掛けて、それが鎌首をもたげて襲い掛かる。

 彼も両手の拳銃で応戦するが、いかんせん質量差が大きい。

 運転手のテクニックで何とか攻撃を躱しているが、そう長くは持たないだろう。


「おいおい、どうすんだこれ!」

「さすがにコアを潰さなきゃダメか……あいつの弱点は?」

『解析中……あった、三両目の中央!』


 少年の視界を通して、少女の声が大型(ラスト)の弱点を指し示す。

 牽制の一発で牙を折り、のたうつ敵を眺めながら残った銃弾を弱点目掛けて叩き込んだ。

 装甲がはがれ、黒く光る宝石のようなものが姿を見せる。


黒い賢者の石(アンチフィロソフィア)、露出!』


 それを確認すると、少年は両手の拳銃を再度錬成し、対猛獣用の散弾銃に作り替えていた。

 すかさず特製のスラグ弾を装填し、黒い結晶に狙いを定める。


「あばよ」


 銃声が一発、大型の(ラスト)の弱点を貫いていた。

 それでもなお、そいつは少年に襲い掛かろうとし……しかし、その寸前で物言わぬ瓦礫と化していく。

 子供が悪ふざけで作ったとしか思えない不安定なデザインの怪物は、あまりにも大きい自重を支えられるはずもなく、徐々に先端から崩れ落ちていった。


「やったのか!?」

「ああ、とりあえずこのまま走らせろ」


 歓喜する運転手にそう命じながら、少年は思わず嘆息する。

 帝国から逃げてきたと思しきこの若者、どうにも厄介事の匂いしかしない。


「あんた、その歳で機工師団エクスマキナの錬金術師か? この先の……」

「そうだ……」


 やがて、目の前の砂塵の奥に、巨大な都市のシルエットが浮かび上がる。

 花弁のような外壁を何枚も張り合わせた独特な外観故に、その街はこう呼ばれていた。


 独立機工都市アーケンローズと……。


 始まりました!


 最初の一歩というのは本当の本当に勇気がいります。

 でも、踏み出したからには最後まで突っ走りたいと思います。

 応援よろしくお願いします!

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