諦め時
テレシア女王の準備が終わるちょうどその時、リーデッヒが見えたと兵士が伝えに来た。玄関に迎えに行くと言うんでついて行ったら、プレゼントも花束も持たずに細身のリーデッヒひとりで佇んでいた。
「やあ! テレシア! 元気にしていたかい?」
片手を上げて気さくに挨拶をするのはいつものリーデッヒだが。手紙の内容もあれだからか少し恥ずかしそうに片手は背中側に仕舞っている。
「お時間を取らせてしまい、申し訳ございません」
「いやいや。君は僕のために準備をしてくれたんだ。それだけで今日来た甲斐があるよ。今日の君もすごく綺麗だね」
歯が浮くようなことを周りにも聞かせ、ふたりは用意した部屋へと消えていった。もちろん俺もガレロも同席は出来ない。
こんな時、ニューリアンの駐屯地を置くセルジオ部隊。情報部のマリウスと合流さえできれば、もしかしたら盗聴器で内容を聞けるかもしれない……が。俺の行くところにガレロが付いてくる。
「何だよ。仕事に戻れよ」
「……」
廊下で立ち止まったら何か言ってくるのかと思ったが。ガレロは俺を睨んでくるだけだ。本当に何なんだこいつはいつも。テレパシーでも送ってるつもりなのか!?
前の奴にヤキモキしてたら後ろまで注意できなかった。俺は不意に背中をツンツンと何者かに突かれ、若干肩が跳ね上がる。
「なっ!? なんだ……」
ジャスミンかよ。
何か言い出す前に、ジャスミンは包帯を巻いていない人差し指で自分の口のところに当てた。俺に静かにしろと伝えてから、今度は後方の廊下を指差してる。黙ってついて来いって意味だ。
リーデッヒと女王の会話が盗み聞きできるスポットでもあるのかと期待したが。連れてこられた部屋は一部の兵士が「拷問だ」と項垂れる場所。大量の紙で埋め尽くされ、その中に気絶した兵士が倒れてる。特別隊の部屋だった。
「新情報です」
ここでようやくジャスミンが喋り出した。
机の上に置いていた用紙と古い本。この女兵士は勉強好きの変態で、訓練時間以外はずっとここに座って調べ物をしている。その成果を見て欲しいらしい。
「お墓が誰のもので、いつのものなのか判明しました。名前はメアネル・ウィーザー。225年前に亡くなったニューリアンの国王様です」
さらに机の上にある紙を叩くから、こっちも見ろと俺は指示された。
「ウィーザー王の指導で武器の収集が始まり、次代国王のマルク王によってこの時代からさらに拡大化されたようです。なのでどこかにマルク王のお墓があって、その下に武器庫があるのかもしれません」
「変だな。王族には王族の墓があるんじゃないの?」
「はい。ありますが、地位のある方の場合は公的なお墓と別に、個人的なお墓を有していることもあります」
へえー。と、言いつつ。その情報は俺のタメにもなりそうもないな……なんて頭の中には浮かんでいた。
それに、ジャスミンの負傷した右手の代わりになる兵士たちも限界を迎えてるだろ。こんな雑務が嫌で逃げ出したりしそうで心配なんだけど。
「ということなので。こちらの武器は最低でも225年前のものと判明しました。どうですか?」
「どうですかって?」
書き物をする机とは別の台に物騒なものが乗せられている。あの武器庫から持ち帰った幾つかの銃だ。225年前はこんなでかいものを一体どこで使っていたんだ。古人はもっと巨人だったのか?
下に敷いてある布ごと取り上げてみた。まるで鉄の塊を持ち上げたのと変わらない。腕のトレーニングに使うには持ちにくいし。
「使えそうですか?」
「無理。わざわざこんなでかい銃に合わせて弾を作るのも馬鹿げてる」
「……以前、持ち運ぶのに難しいと言っていましたよね。例えば。特定の位置に固定させて、そこから打つという使い方ならどうですか?」
「225年前は正面突破が流行ってたんだろう。今は論外」
武力を直接ぶつけて勝敗付ける時代はとっくに終わってるんだ。身軽に動けないと、後ろから回り込まれて全員死んじゃう。
古い時代からせっせと未来のために集めたんだろうが。結局ガラクタだというのは覆らなかった。ジャスミンはため息を漏らしていた。
「では、処分ですか……」
「そうだな」
冷たくしていると、ジャスミンは横で腕を組みながら「鉄は地面に埋めても土に還りませんよね。多分……」とかって言っている。
このままだと海の底にでも沈めてしまいそうだ。そう思って、俺も意地を張るのは諦め時かと感じた。
「破棄すんなよ?」
「え?」
「武器として使えなくても鉄くずだと思えば役に立つ。一旦こいつらを溶かして新しい武器を作る足しにしたらいい。金無し国にはありがたい話だ」
カイロニア製の銃はさすが資金があるだけによく精製された混じりっけの少ない鉄が使われている。ベンブルク製の銃には装飾品が付けられているから鉄の種類が豊富だ。かなり節約になるだろう。
何を黙っているんだと思って顔を上げると、ジャスミンがびっくりした顔で固まっていた。
「何?」
「あ。いえ……」
自分の顔にかかった髪を自由な小指を使って払ってる。
そのうちに倒れた兵士らがうめき出していた。側で話を聞いていながらも存在感を消していたガレロが動き出した。食事を取るようにと指導をして自ら連れて行くようだ。健気だな。
扉が閉まるまでは横目で見送った。それが済んだら再び鉄の塊に向き直る。
「武器庫のありそうな場所、鉄クズの数を全部洗い出したい。歴代国王の日記みたいなのがあれば全部読んでおいてくれ。戦争に興味ありそうな王がいれば作戦手記もあれば見ておいた方がいい。あとは過去の地図と、地形図と、水難記録図もあれば出しといてくれ」
ジャスミンを振り返ったら、固まっていた瞼がパチパチと動いた。
「す、水難記録図とは……何ですか?」
「はぁ。何年かに一回、川が氾濫するだろ。その記録を残してないのか?」
ニューリアンとセルジオをわかつ大河。それの氾濫に伴って修復工事にあたる人材を割かなくちゃならなくなる。セルジオでは修繕中の時期には人手不足になり、戦争も物流も停止するんだが。……今話してる相手はポカンとしているな。
「じゃあ。それは要らない。今言ったものだけ何とかしておいてくれ」
「……わかりました。あ、あの。クロノス」
「何?」
声をかけておいて何か言いにくそうに渋ってる。
「何なの?」
「えっと。その……ありがとうございます」
「はあ?」
するとその時ノックが鳴る。
俺が顔を上げたら、開きっぱなしの扉のところに人が立っていた。ジャスミンはびくりと肩を震わせながら振り返った。
開いてるにも関わらずノックの音だけ聞かせて棒立ちだ。そいつはガレロの割れた顎じゃなく。いかにも機嫌悪そうな若い顔。
「お邪魔だったっすか」
アナーキーだ。顔以外にも、声も言い方も品がない。チッと舌打ちをしながら俺のことを睨み、続けてジャスミンのことも見やった。
「クロノスだけ来いって。テレシア様が玄関で待ってるっす」
短く告げたら部屋には入って来ずにどっかへ行く。
「何なの。あれ」と、ジャスミンが鼻を鳴らしていた。
「反抗期だろ」と、俺は鼻で笑った。
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