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失踪1

 忽然と消えたのはテレシア女王とリーデッヒ。このタイミングでただの駆け落ちであってくれって全員思ってる。それだとどの国も角が立たないからな。

 食事や皿もそのままに、来賓だけが居なくなった広い会場。俺たちは一旦待機を命じられた。「俺たち」……なんてまとめたくないが。一応俺もニューリアンの古人らの中に入れられてしまっている。

「いつまでこうしてるつもりだ」

 誰かが答えろと俺が訊いた。周りにはアナーキー、ジャスミン、ガレロ、それとネザリアの兵士がいた。

「調査とやらが終わるまでだ」

 答えたのはガレロだった。

 ニューリアン一同はこの状況に納得がいっていなく、特にバカのアナーキーは無骨に叫んだ。

「なんで待ってなきゃいけないんすか! オレらの主人っすよ!? オレらの助けが必要じゃないっすか!!」

 地団駄も踏んでいる。「静かにしろ」と、包囲中のネザリアの兵士に叱られるが。それよりもジャスミンが蹴りを入れて黙らせるのが効いていた。

「黙っていなよ! あんたのせいで私たちがアスタリカ勢だって疑われてるんじゃない! あんたのせいで余計な誤解を生んだんでしょうが!」

 ジャスミンは案外武闘派らしい。男相手でも見事な蹴りだ。しかし二人とも騒ぎ立てているからネザリア兵士にどちらも睨まれている。

 熱血的な二人に反して、こっちサイドは冷静派と言うべきか。 

「誤解って?」

 冷静派のもうひとりガレロに訊ねた。

「アナーキーがな。『俺はリーデッヒの弟子だ』と。そう言った」

「……ほう」

「……」

 静かな間。

「……えっ、終わり?」

 それで?

 ガレロの顔も真面目そのものだし冗談を言っているわけでもなさそう。

「弟子だからっていう理由で、ネザリアの奴らは俺たちをアスタリカ勢だって言い張ってんのか?」

「ああ。おかしな話だろう」

 ふん、とガレロが鼻を鳴らした。いや……笑ったのか? どっちだ。

 ネザリア兵士と王も、勉強不足でリーデッヒの存在は知らなかったんだろう。迎賓館のエントランスで愛人と呼んだのも気になったし、食事会場でやたらとネザリア王がテレシア女王に接触してくるのも変だと思ってた。

 それが一変。リーデッヒの存在に気付いた途端、ニューリアン一行を敵視する姿勢は何なんだ。

「根拠のないでっち上げを間に受けるほど、この国の王はもっとバカだったってことなのか? アナーキー以上にか? あれ以上バカな生き物はもう人間じゃないだろ」

 そう言いながら、バカが行った一部始終を見ていたんだ。

 ひとりのネザリア兵士がアナーキーに屈している。その完敗状況は尻を突き出してうずくまっているから滑稽だ。一方、人の急所を突きまくって勝利したアナーキーは勝利を叫んでいた。それもそれで滑稽過ぎる……。

 残念なのは引き止め役のジャスミンもアナーキーを手伝ったところ。ひとりぐらいまともな人間がいると思っていたのに。仲が悪そうでも咄嗟の連携が取れるほど気は合うみたいだ……。

 その様子をガレロも眺めていたはずだが。こんなことが日常なのか、特に無反応で過ごせている。

「仮説に過ぎないが……」

 あんな幼稚な勝利を目の当たりにしても、堂々とした立ち姿のまま話し始めることが出来るなんて。こっちもこっちでやっぱりまともじゃない。

「仮説って?」

「アナーキーが挑発に乗りやすいのは誰が見ても分かる。ネザリア兵士がわざと悪態を聞かせて来たのは、おそらくアナーキーを使って注意を向けるためだろう。その隙にテレシア女王か、リーデッヒに何かあった恐れがある」

「……それは」

 言いかけて止めた。近くをネザリア兵士が通りかかったからだ。ガレロも反応良く黙った。


 やってきたネザリア兵士は、うずくまった同僚を運ばせる指示と、暴れるアナーキーやジャスミンを抑える役割でやって来たらしい。

「リーデッヒは何処にいる?」

 図体はアナーキーを上回る。軽々と胸ぐらを持ち上げたら、ぶらんぶらんと揺さぶられていた。

「答えろ。リーデッヒの居場所を知っているだろう」

「はあ? 知らねえし! 知ってたとしても教えるか!」

 アナーキーはネザリア兵士を蔑みたいらしいが、もう少し言葉を選んだ方が良さそうだ。

 何か勘付いたネザリア兵士は、さらに睨みを効かせて脅してきた。

「リーデッヒの居場所を吐け!」

「お前には絶対に教えてやるもんか!」

 ……不毛なやりとり過ぎる。

 本当に居場所なんて分からないアナーキーなのに。謎の反抗心と無意識に発している謎の意味深な言葉のせいで。ネザリア兵士はどんどん顔を赤くして怒っていく。

「貴様……!」

 ついにネザリア兵士は剣まで出してきた。

「俺を刺したきゃ刺してみろ! 口を裂かれても言わねえ!」

「ぐぬぬぬぬ!!」

 さすがにこの場で血が流れたりするのは良くない。周りの兵士らも集まってきて剣を収めさせるし、両者の間に割り入って止めている。

 散々挑発して、結局手を出せないネザリア兵士が奥歯を噛み締めていた。アナーキーは勝ち誇ったみたいにニヤニヤ笑った。……ということは、ある意味才能なのかもしれない。アナーキーはもしかして天才なのか?

「どう思う?」

 そう訊いてくる冷静派のガレロも見ていてくれたか。

「アナーキーのバカさ加減の話だよな?」

「いや。ネザリア兵士の様子だ」

「なんだそっちか。それならもう決まったみたいなもんだ。ネザリアの王の頭ん中も腐ったチョコレート菓子と一緒ってことだ」

「……」


「クロノス」

「……なんだよ」

「……」

「なんなんだよ……!」

 チョコレート菓子のことを聞くとかしろよ。黙ってスルーするな!?

 沈黙していると、またネザリア兵士がちらりほらりと寄ってくる。何か動きが騒がしくなってきたな。もしかしてリーデッヒの居場所が分かったのか?

「一旦外に出るぞ」

 それが掛け声だったらしい。

(((毎週[月火]の2話更新

(((次話は明日17時に投稿します


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