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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

短編小説

十年後に捧ぐ花

作者: とり
掲載日:2024/02/01

 


 あなたがその死体を見つけたのは、十歳の時でした。


 森の中です。

 あなたは探検(たんけん)をしていて、それを発見(はっけん)したのでした。


 白い骨(ほね)でした。

 男か女か分かりません。


 大人ではあるみたいです。

 服は風化してぼろぼろで、ちりぢりになって落ちています。


 あなたは近くから花を集めてきて、死体のそばに添(そ)えました。

 なかば遊ぶようにして。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 二十歳の時です。

 あなたは子供の時に見つけた死体に、花を届けに行きました。

 なかば日課のようにして。


 あなたは憂鬱(ゆううつ)な気持ちでした。

 親が死んだのです。

 モンスターに殺されたのでした。


 まだ生きていたころに、親が言っていたことが頭から離れません。

 「はやく結婚(けっこん)しろ」というのです。


 あなたは嫌でした。

 他人(たにん)と共に生活するのが苦痛だったのです。


 そこまで他者を信じることができなかったので。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 三十歳の時です。


 あなたは今までと同じように、あの死体に花を捧(ささ)げに行きました。

 性懲(しょうこ)りもなく。


 あなたは途中で勇者(ゆうしゃ)の一行(いっこう)に会いました。

 彼らは三人(さんにん)のパーティで、いずれも『地球(ちきゅう)』という所から来たと言います。

 そこは合理的で数理(すうり)的な、『科学の世界』だということでした。


 あなたは説教をされました。


 一人(ひとり)には「名(な)も知らない赤(あか)の他人に毎日(まいにち)花をあげるなんて、善人(ぜんにん)ぶった馬鹿(ばか)のやることだ」とせせら笑われて。


 一人(ひとり)には「ここはへんな宗教が支配しているから」と、分かった風(ふう)な顔をされて。


 最後の一人(ひとり)には「やさしいんだね」と、頭の中身を哀(あわ)れまれるようにして。


 あなたは何も言いませんでした。


 『勇者』たちは何者にも勝(まさ)る武力(ぶりょく)があり、どんなケガもなおす治癒(ちゆ)の技を持ち、王都(おうと)の文官(ぶんかん)も凌駕(りょうが)する知識と魔法(まほう)を駆使して、この世界の住民(じゅうみん)を困らせる凶悪(きょうあく)な魔物(まもの)をあっさりと蹴散らす戦士(せんし)です。


 多くの人の憧(あこが)れで、言っていることもまた、さほど間違ってはいません。


 しかしあなたは彼らの意見(いけん)に従う気もなければ、「彼らのようになりたい」とも思いませんでした。


 三人の勇者(ゆうしゃ)が、魔物(モンスター)と同じにしか見(み)えなかったのです。


 自分(じぶん)より力(ちから)や立場(たちば)の低い弱者をいたぶることでしか、いい気になれない醜怪(しゅうかい)な生き物という点(てん)に於(お)いて。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 四十歳の時です。


 あなたはひとつの義務(ぎむ)のように、相変わらずあの死体に花を持って行きました。

 病(やまい)に蝕(むしば)まれながら。


 あなたは物思いに沈(しず)んでいます。


 神官(しんかん)に病気の回復を願っても魔法(まほう)が効かず、薬(くすり)も功(こう)を奏(そう)さない。


 勇者一行(いっこう)に頼んだ施療(せりょう)もムダに終わりました。


 『長くてあと十年(じゅうねん)だ』と言われたのです。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 五十歳の時です。


 あなたはあの死体に花を贈りに行きました。

 最後のちからを振り絞(しぼ)って。


 あなたはもう碌(ろく)に目も見えません。

 身体も言うことをききません。


 耳も遠くて、まわりの音がよく分かりません。


 自分(じぶん)が今どこにいるのか、近くにあの死体があるのかも、分かりません。


 あなたはけれど、森の中を這(は)って行きました。


 あの死体がある所まで。


 草を震える手で探りながら。


 あなたは分かっていたはずなのに。

 誰に言われるまでもなく。


 この行(おこな)いが無意味に過(す)ぎないことを。


 魂などというものが、存在(そんざい)しないということを。


 もしあったとしても、自分の行動に応(こた)えるような所には、ありはしないのだということを。


 子供のころに見つけた骸骨(がいこつ)が、「もしかしたら生前(せいぜん)はとんでもない悪党(あくとう)で、吹きさらしにしておくのが良(い)い様(ざま)なのかもしれない」という可能性を。


 名(な)も知らぬ死者に花を捧(ささ)げる徒労(とろう)を。


 その歪(いびつ)さを。

 愚かさを。

 救いようの無さを。



 それでもあなたは、出会ってしまったその死者(ひと)に、少しでも喜んでほしかったのです。





 読んでくれた方(かた)、レビューを書いてくれた方(かた)、ありがとうございました。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――












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