第四話 亜希乃の場合〜中途半端なブス〜
AIには「全体的にルックスが良くない」と判断されていた。
だからと言って障害者認定はされず、コンプレックスを募らせていた。
亜希乃は鏡を見ながらため息をつく。AIには、右目だけ二重まぶたでバランスが悪く、鼻も上向き、エラも張っているという。
今の時代はルッキズム。あまりにもルッキズムが加熱しているので、政府は美人税を導入し、ブスには障害者として福祉を受けさせる事に決まった。
亜希乃は近所の公立中学に通っていたが、そんなルックスの悪い障害者だけ集めた特別支援クラスもあった。
意外と今までと変わらない。元来の障害者とルックス障害者もだいたい一致していた。
それに今までだったら支援から漏れていた「生きにくいブス」「グレーゾーン」も福祉支援される口実も増えた。亜希乃は特別支援クラスを横目で見ながら、ちょっと羨ましい。あそこでは成績はとやかく言われず、自分の悪い特性と上手く付き合う方法を学んでいるらしい。あそこに居れば「生きにくさ」はだいぶ軽減されるだろうか。もっとも進学先の九割は福祉作業所で奴隷のように使われるという噂を聞いたが。
一方、亜希乃はAIの診断によるとギリギリ障害者になれないグレー判定のブス。
AIによるとメイクや整形で美人になれる可能性もあると判断され、モヤモヤが溜まっていた。
同じクラスには鈴木美咲という美人もいた。子供の頃からのナチュラルボーンの美人だった。もちろんAIからは美人判定を受け、高い税金を払っているようだが、近くに美人がいるとジェラシーを感じてしまう。
いっそ特別支援クラスにいればそんな感情も抱かないだろう。周りはみんなルックスが悪いので比較対象も無いはずだ。
一方亜希乃は中途半端なブスとして一般クラス。そこにはナチュラルボーンの美人・美咲もいて毎日胃が痛い。
「ああ、神様。私は美咲になりたい」
そんな願いをしながら夜、眠る事もあった。
そんな願いをしたせいか?
目覚めると美咲と入れ替わっているではないか。亜希乃は美咲として教室にいて男子からチヤホヤされている。
一方美咲は亜希乃となり、陰キャ達と固まっていた。
この状況に亜希乃は調子に乗り、メイクやファッションを欲望のままに楽しむ。美人のメイクは何をやってもさまにまる。服も何でも似合い楽しくて仕方ない。これだったら多少の美人税を払ってもトントンというものだ。
男性達からもチヤホヤされて毎日楽しい。
しかし、だんだんと不満も出てきた。今は楽しいが将来老けた時の不安も遅い、夜眠れなくなってしまった。
男子からもストーキングされたり、陰キャからは悪口を言われ、学校の先生からは成績が落ちたと怒られ、ずっと楽しいわけでもなかった。
一方、亜希乃になった美咲。
陰キャでいると思いきや、なぜかクラスで人望があがり、学級委員などを任されるようになっている。
「亜希乃って中途半端なブスだけど、特別支援のやつらにも優しいよな」
「チー牛にも話しかけていい子だわ」
「ブスだけどスキンケア頑張ってるし、姿勢も良くて堂々としてるよな」
「自信がある人ってブスでもちょっと良く見える」
外見は亜希乃なのに、美咲の評判は鰻登りだった。
一方亜希乃は、周りの評判が悪くなってきた。
「あいつ美人だけど調子に乗ってるよな」
「猫背でよく見るとスタイル悪い」
「性格は卑屈過ぎて悪いよなあ」
などと言われるようになり、「生きにくさ」は相変わらず取れない。
こうして美咲と入れ替わって気づく。やっぱり中身も大切? 外見に滲み出る中身もある?
そう気づいた時だった。
目が覚めてベッドの上にいた。美咲と入れ替わったのは、夢だったらしい。ホッとした。
確かにこの世はルッキズム。残酷なぐらいルッキズムだが、それが全てではないのかもしれない?
「うん、姿勢ぐらいは努力して良くしようかな」
鏡には相変わらず中途半端なブスがいる。両親の遺伝子を強く感じる。
おそらく整形しても美人にはなれないと思う。美容整形外科にいる井崎京子というカウンセラーは、「整形をいくら頑張っても変われないブスもいる。これこそ親ガチャです」とSNSに投稿していた事も思い出す。
それも残酷な事実だった。努力ではどうしようも無い事もあるが、姿勢ぐらいは綺麗にしたくなった。そうすれば少しは「生きにくさ」も軽くなる気がした。